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第三章

3.1


「もう遅くなってきたね。もしよろしければ、私にも教えてくれるか? こんなふうに楽しく会話できる人に出会ったのは久しぶりだな」


「はは、もちろんです。でも――お客様の物語と同じで、くだらない話ばかりですよ」


僕は最後に切り札を切るつもりだった。

この男の物語と、その言葉づかいから――身分を確実に掴むために。


――――――――


「大団長。準備は整いました。……ですが、まだ少し不安です。本当に、この戦いをやらねばならないのですか」


「“フェニックス”――お前でも怖い瞬間はあるのか? 数えきれない戦を生き延びてきたお前が、恐怖を感じるか」


「私のことではありません。大団長を案じています。あなたの人生には、まだ可能性がある。どうしてここで……」


「ありがとう、マルフェスト。だが、言うまでもない。大団長には、大団長の責任がある」


二十九歳の大団長は、祈りの場に残された神像を見つめながら、五十代の副団長――“フェニックス”と呼ばれる男にそう答えた。


三年前、生き残った魔法師の捜索が続く中で、先代の大団長は原因不明の死を遂げた。

その後、評議の末に指名されたのが、先代の弟であり、敬虔な信徒でもあるこの若い男だった。若いが、判断は速く、決断力もある。しかも名門貴族の出。騎士団は彼の家の影響力を頼りに、教会との関係をさらに強めようとした。


――だが、それは幻想だった。

教会はすでにいくつもの王国と手を組み、「強大すぎる騎士団」を削ぐ機会を狙っていた。魔法戦争で名誉を極限まで持ち上げ、そして今度は、その名誉ごと叩き落とす。


つい最近、教会は各国から兵を密かに集め、騎士団を奇襲した。

相手は軍として組織化され、訓練されていた。騎士団も即応し、壊滅は免れたが、要塞と砦は次々に奪われた。


皮肉なことに、連続する北への撤退の末、騎士団が臨時拠点に選んだのは――この礼拝堂だった。

その時点で、彼らは信仰を失い、法的な身分も失っていた。大団長は以前より口数が減り、命令は短く、冷たくなった。神像を睨むように見つめることも増えた。疑いか、憤りか、恨みか――たぶん全部だ。


団員たちも不満を抱えていた。だが、目の前の戦いの準備で、それ以上考える余裕はなかった。


そして、彼らは知っていた。

これは“勝てない戦い”だ。


不法な存在となった以上、補給も新兵も望めない。長期戦は不可能。唯一の勝機は、迫り来る教会軍と正面からぶつかり、決着をつけることだけ。

解散して頭を下げれば助かる――そんな甘い話ではない。教会が欲しいのは、騎士団の武力だけではなく、騎士団が持つ“影響力”そのものの抹消だった。従わぬ者は滅ぶ、という権威を示すには、信仰を名目にした軍事力ほど都合のよいものはない。


そして何より、大団長は戦うと決めていた。

団員を逃がすために、自分は戦場で――死ぬまで。


秋の空は澄み、風は冷たい。

後方支援を任された数名を除き、団員たちは丘に隊列を組んだ。エーデルワイスで飾られた盾が、太陽の光を跳ね返す。ひと目で分かる。これは一流の戦力だ。

だが向こうにも、同じように整えられた教会軍が待っていた。


二人の騎士が前へ出て、教会から授けられた勲章と剣を返還した。

それは教会への礼ではない。失われた信仰への、最後の礼儀だった。


そして大団長が、最後の宣言を口にした。


「親愛なる兄弟姉妹よ。これが最後の戦いだ――エーデルワイス騎士団としての。互いを信じ、一つに団結せよ。たとえここで滅びようとも、騎士たちの最後の栄光を、世界に刻みつける!」


「信仰に忠誠せよ! 弱き者を助けよ! 騎士精神を守れ!」


山のように、津波のように、スローガンが谷間を揺らした。向こうの教会軍の胸にも、わずかに刺さったはずだ。


「――突撃!」


騎士団は丘を駆け下りた。風のように。

だが戦場は、騎士団をはるかに上回る敵兵によって、あっという間に分断された。


精鋭のはずの騎士たちも、包囲されれば疲労と負傷で削られていく。


どこも血まみれだ。

どこも倒れた馬だ。

どこも切断された手足だ。


数え切れないほど斬った。だが見渡す限り敵だ。

いつの間にか、馬を失った。

いつの間にか、右腕も失った。


それでも倒れるわけにはいかない。

死ぬまでに、もう一つだけ――命令を残さねばならない。


どれほどの時間が過ぎたのか分からない。片目は潰れ、残った目に映るのは血のように赤い世界だけ。

その赤の中で、ふと純白のエーデルワイスが目に留まった。


「……大団長!」


駆け寄ってきたのはフェニックス――副団長マルフェストだった。

どんな窮地からも抜け出し、全滅寸前でも味方を連れ帰る。伝説と呼ばれた男。


「ようやく見つけた。今すぐ動けば、北の包囲を突破できる」


大団長は息を整える間もなく、首を振った。


「いいや、マルフェスト。これは最後の命令だ。お前が指揮を取れ。兄弟姉妹を集め、北へ撤退しろ。……後は任せろ」


「しかし、大団長は――」


「急げ。もう時間がない。俺が退却をカバーする」


短い沈黙。

マルフェストの唇が動いた。「……さよなら」と読めた。


大団長は自分の安全を顧みず、敵陣へ突っ込んでいった。

そして、息が尽きる直前、最後の力で小さく囁いた。


「……ありがとう、マルフェスト叔父さん。……一緒にいられた時間は、楽しかった」


そのあとで――エーデルワイス騎士団は、歴史から消えた。


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3.2


「……素晴らしい物語だ」


思わず、そう口にしていた。

拍手しかけて、途中で止める。


「まるで――当事者のようだな」


そう言いながら、僕はホストの顔を見た。

語り口は、人づてに聞いた戦記ではない。痛みを伴う記憶を、無理に掘り起こしているようだった。


「……他人から聞いた話ですよ」

彼はそう答えたが、視線は火から離れなかった。

「事実かどうかは、私にも分かりません。ただ……衝撃的な話ではありました」


沈黙が落ちる。

外では、風雪が礼拝堂の壁を叩いている。


やがてホストは立ち上がり、大きく伸びをして、わざとらしくあくびをした。


「少し疲れましたね」


声だけが、妙に大きい。


「客室が一つあります。よろしければ、今夜はここに。ほかにご用がなければ、明日の朝に――」

一拍置いて、微笑む。

「……本当に、幸せな夜でした」


「それはどうも」


僕は袋を開いた。


「探していた花の“見本”が、ようやく見つかった」


弱くなった火の光の中で、紙に描かれた賞金首はまだ闇に沈んでいる。


ホストは振り返り、窓辺へ歩いた。

月明かりの下で、花を静かに観察する。


「……これは、アナファリス・マルガリタセア」

指先で花弁に触れながら言う。

「あなたが探しているのは、これですか? それとも――」


一瞬、言葉を切る。


「……よく似た、エーデルワイスですか」


「後者だ」


距離を詰めながら、僕は続けた。


「地図から消えていた村。生き残った騎士団員が集まっている場所じゃないか?」

声を落とす。

「マルフェストさん。……それとも、“フェニックス”と呼ぶべきかな」


刃が喉元に触れた、その瞬間――


違和感が走る。


次の瞬間、右腕に鋭い痛みが突き抜け、ナイフが床に落ちた。

矢だ。


視線を向けると、暗闇の奥に弓を構えた子供が立っている。

迷いのない構えだった。


「……なるほど」


ホストが、静かに言った。


「やはり子供の言う通りでしたな。人ではない。――羊だ」


彼はゆっくりと振り返る。


「『一般人』の一般人」

穏やかな声で、名を呼ぶ。

「あるいは、『一般人』のリーダー」


一拍。


「我々エーデルワイス騎士にとって――君は、「一般人」の五番目の羊だ」

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外国人の初心者作家です。物語は自分の発想で、言語の凝縮と整理は ChatGPT によって支援されます。ぜひお気軽にコメントを残してください!

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