第一章
大雪の夜、廃れた礼拝堂で語られるのは、滅びた騎士団の戦記だった。
大雪の日だった。
雪に覆われた山中を、僕は半ば引きずるように歩いていた。もう限界が近い。夕暮れが迫っているのに、灯りのある村まで半日はかかる見込みだ。
今夜はどうする? 食料は尽きかけ、服もこの寒さを防ぐには心もとない。こんな人影のない野外で最期を迎えて、明日の太陽を拝めるよう祈るしかない――最悪の結末だ。
せめて、風と雪をしのげる場所を。そう願いながら、僕は足を動かし続けた。
どれだけ歩いたか分からない。ふと、雪の白一色の向こうに“不自然な形”が目に入った。
雪に埋もれていても、それが建物だということだけは確かだった。
希望が胸に灯る。足取りがわずかに軽くなる。近づくにつれ、輪郭ははっきりしてきた。小さな礼拝堂――チャペルのようだ。助かった。
……いや、待て。さっきから何か音がする。動物の鳴き声か? 疲れが見せた幻聴だと思ったが、違う。確かに聞こえる。つまり――ここに誰かがいる。羊を飼っているのか、それとも……住んでいるのか。
さっきまでの安堵は薄れ、代わりに緊張が腹の底からせり上がってきた。
「おや、新しい羊かな」
建物へ踏み込む直前、子どもの声がした。確かに僕はいま羊小屋の近くにいる。弱った足音が羊に聞こえたのかもしれない。
「違うよ。たぶん、お客さんだ」
続いて、年配の男の声。
「羊だ、絶対羊だ!」
子どもたちはやけに頑固だ。
僕はようやく扉にたどり着いた。半分閉まった扉の脇に、男が立っている。
「……いらっしゃいませ、とは言えないが」
そう言いながら、男は道を空けた。拒む気配はない。むしろ、この寒さでは追い返せないという顔だった。
男は少し年配で、長い髪の半分が白い。顔には古い傷跡と深い皺が刻まれている。時間の痕跡が、重くこの人を形作っていた。
本当に羊飼いか? 罠か? それに、子どもが三人……いや四人か。なぜ、こんな場所に。
考える余裕はない。ここまで来た以上、断る理由もない。僕は自分の足で建物の中へ入った。
湯を一杯飲んで、ようやく体が少し戻る。外では風の唸りが止まず、空はいつの間にか真っ黒だ。ストーブの火は強くない。それでも眺めているだけで温もりを感じる。
しばらくして、男が酒を持ってきた。続けて羊肉の匂いが鼻をくすぐる。待ちきれないが、礼は欠かせない。
僕が微笑むと、男が先に口を開いた。
「まずは乾杯だ。この辺りで外から来る者は珍しい。ましてこんな大雪の日に。……子どもたちと食べ残した羊肉だが、遠慮せず食べてくれ」
ありがたい、と言いながら僕は骨つきの肉にかぶりついた。
「外見からすると、南から来たんだろう。教会の近くの出身なら、敬虔な信者か?」
ただの挨拶か、身元確認か。判断がつかない。だが男の微笑みの裏に、刃物の気配がある気がした。
「……あの戦争のあと、味方を裏切ったという噂もある。だから信者の中にも、教会を疑う者が増えている」
言葉を選び、慎重に返す。
「では、お客さんはどうだ?」
肉を噛む口が一瞬止まる。やはり、この男は曖昧な言い方では誤魔化せない。――いや、僕が疑いすぎているだけか?
「はは、僕は生まれつき敬虔な信者じゃない」
そう言って、別の肉を切って口へ運ぶ。この辺の村や町の人々も、皆が皆敬虔というわけではない。こう答えた方が、関係は悪くならないだろう。
もちろん、関係を築く必要があるのは今日だけだ。明日になれば、また赤の他人。
「ところで……ここ、普通の家じゃないですね。入る前に子どもの声も聞こえた。……お孫さんですか?」
雑談の体で探りを入れる。
「鋭いな。ここは元は教会だ。ただ、戦争の時に税を上げたものだから、北の者たちが抗議してな。その後、放棄された。……俺は村で罪を犯して、ここへ逃げた。孫たちと一緒に、なんとか生き延びてる」
「それなら……どうして僕みたいな客を入れたんです?」
男は一拍置き、逆に問うてきた。
「それで、お客さんはなぜ、この貧しい北の地へ?」
予想外の質問だったが、準備はしてある。
「ああ、花を探しに来た。珍しい花で、今は高山にしか咲かないらしい。本来はどこにでもあったそうだが、いつからか南では見なくなった。南の貴族に好きな者がいて、金を出す。――つまり、一言で言えば金のためだ」
我ながら、悪くない理由だ。
「一応、見本も一本持ってきた。……ええと……」
わざと袋を探るふりをする。
「どこだ……?」
当然だ。見本――つまり“賞金首”の情報は袋にある。今ここで見せるわけにはいかない。
「そうか……危険な仕事だな。行き先は?」
「ここから東北へ十日ほどの町……のはずだが、大雪で正確な場所は分からなくなった。明日からまた進まないといけない。雪の中では迷う可能性も高い。……無理を承知で聞きたいんだが、この辺りの地図はあるか?」
本音だ。行き先だけは伏せたまま。
実際、二日も迷ったせいで水も食料も尽き、雪を溶かして命をつないだ。計画は完璧だった。天候だけが想定外だった。
男は立ち上がり、地図を持ってきた。僕は礼を述べ、真剣に目を走らせる。
すると男が、ふと別の話題を投げた。
「ところで南には、まだ魔法師がいるのか? お客さんは見たところ、魔法とは縁がなさそうだが……」
意外な質問だ。北の人間が魔法師を知っているのは当然だが――魔法戦争を知らないのか? それとも、これも試しだろうか。
考えながら地図を見ると、違和感があった。北へ向かう道筋にあるはずの小さな村が、地図から消えている。
僕の記憶では確かに存在した。なぜ載っていない? 何を隠している?
「……人口の少ない辺境だと思うが。違うのか? 他にもここへ来る者がいるのか?」
僕は魔法の質問には直接答えず、話をずらした。
「ああ。六年前から毎年一人か二人は来た。ただ、魔法師と関係がありそうでな。魔法の話は避けた。子どもたちは興味津々なんだが、毎回詳しい話が聞けず、がっかりしてる」
男の顔に残念そうな色が浮かぶ。廊下の角には、子どもの影も見えた。小さな子は簡単には騙せない。――どうやら僕は疑いすぎていたのかもしれない。
「なるほど。じゃあ、魔法と縁はないが……魔法師の“話”ならできる。南ではわりと知られている。ただし、面白い話じゃない」
ちょうどいい。目の前の男が知らなそうな――魔法師たちの末路の話だ。
僕がそう言うと、子どもたちがホールへ入ってきて暖炉のそばに座った。
「乾杯! 物語のために!」
男が意外なほど情熱的に言う。
「じゃあ、始めよう」
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外国人の初心者作家です。物語は自分の発想で、言語の凝縮と整理は ChatGPT によって支援されます。ぜひお気軽にコメントを残してください!
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