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転生エルフは納豆が食べたい! ~その豆、禁忌につき。世界を敵に回しても私は混ぜる~  作者: Geo
第一章 【納豆のない世界と藁(わら)の魔法】

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9/20

藁のあやとり +納豆レシピ

陽が西に傾き始め、空が茜色に染まりかけた午後のこと。


子供たちへの手習いを終えた私は、日課となった水汲みのため、母屋の裏手にある井戸へと足を運んでいた。

空になった木製の水桶が、歩くたびにカラン、コロンと乾いた音を立てる。


ふと、私の足が止まった。

視線が、ある一点に釘付けになる。


納屋の羽目板に寄りかかるようにして、それは無造作に積まれていた。

秋の陽射しをたっぷりと吸い込んだような、温かみのある黄金色。乾燥した植物の茎の束。


——わら


ドクン、と胸の奥が早鐘を打った。


水を汲むために伸ばしかけた手が一瞬止まり、指先が微かに震えるのを自覚する。

風に乗って鼻孔をくすぐる、日向の匂いと乾いた土の混じった、どこまでも懐かしい香り。

その香りが鍵となり、脳裏の奥底に眠っていた記憶の重い蓋を、強引にこじ開けた。


前世、台所で藁つとを編んだ時の、指先に擦れる感触。


いや、それだけではない。

もっと深く、もっと幼い頃の——ある神聖な情景が、黄金色の輝きと共に鮮烈に蘇る。


  ◇    ◇    ◇


記憶の中の私は、見上げるほど高い石段の下に立っていた。


息を切らして登りきった先、古い神社の鳥居。

そこに、とぐろを巻く巨大なぬしが鎮座していた。


藁で編まれた、大蛇だ。


大人の男たちが何人も掛かりで抱えるような、太く逞しい胴体。

幾重にも、幾重にも、強くねじり上げられた無数の藁の束。ささくれ立った繊維の一本一本が、逆立つ鱗のように荒々しく主張している。

大きく開かれたあぎとは、今にも天を喰らわんばかりに空を睨みつけていた。


幼い私は、その圧倒的な質量と存在感に飲まれ、ただ口を開けて見上げることしかできなかった。

怖い、けれど、目が離せない。

足がすくむような畏怖と同時に、不思議な安堵感が胸を満たしていくのを感じた。


(……守られている)


言葉にせずとも、肌でわかった。

この荒々しい藁の大蛇は、私たちを脅かすものではない。

災いを飲み込み、結界としてそこにある「守り神」なのだと。


  ◇    ◇    ◇


ハッとして、私はあたりの様子をうかがった。

誰もいない。


私は水桶を置き、積まれた藁の山から、三十本ほどをそっと引き抜いた。


何かが作れるかもしれない。そんな予感があった。

私はそれをエプロンの下に隠すように抱え込むと、足早に自室へと戻った。


部屋に入り、扉を背にしてようやく息を吐く。

ドクン、ドクンと脈打つ心臓をなだめながら、エプロンの下から黄金色の束を取り出した。

粗末な木の机の上に広げると、殺風景だった部屋が、そこだけ夕陽が差したように華やいだ気がした。


一本、手に取ってみる。

カサリ。

乾いた音。けれど、指の腹で撫でると、驚くほど滑らかで、確かな「しなり」が伝わってくる。


(懐かしい……)


ただの枯れ草ではない。これは、人の手で新たな形を与えられるのを待っている。

私の指は無意識に動いていた。端を揃え、軽くねじってみる。

抵抗なくねじれる感触が、心地よい。


何を作ろうか。

もっと身近で、手のひらに収まるようなもの。


ふと、ソフィアとトーマスの顔が浮かんだ。

勉強の合間、退屈そうに窓の外を眺める二人。この世界には、娯楽や玩具が少ない。

高価な木彫りの人形などはあるけれど、もっと自由に遊べる友達がいてもいいはず。


(人形……)


そうだ、人形なら作れるかもしれない。

前世の記憶にある、素朴な藁でできた亀や鶴、馬……。

想像するだけで、楽しくなってくる。


あの子たちが、私の作った人形で遊んでくれたら、どんなに素敵だろう。


  ◇    ◇    ◇


翌日。

私は家事の合間を見つけ、エリザベスに声をかけた。


「あの、奥様。母屋の裏にある藁を、少しばかり頂いてもよろしいでしょうか?」

「藁? いいけれど……何に使うの?」


エリザベスは不思議そうな顔をした。


「はい、子供たちに……ソフィア様とトーマス様に、人形を作ってあげられないかと思いまして」

「あら、そういうのも作れるの? 器用なのね」

「……やってみようかと」


許可をもらい、私はさらにきれいな藁を選別して部屋に持ち帰った。


その夜。

ランプの灯りの下、私は机の上に藁を広げた。


まずは、記憶にあるあの大蛇を真似て、小さな注連縄(しめ縄)のような輪飾りを作ってみた。


右撚りと左撚りの藁を合わせ、強くっていく。

藁縄を作る要領だ。

祈りを込めて形を作ると、不思議と心が落ち着く。


次に、人形に取り掛かった。

藁を束ね、中央で二つに折り曲げる。折り曲げた部分が頭となる。

その下、首にあたる部分を一本の藁で縛ってくびれを作る。


その時だった。


(……あれ?)


首を縛ろうとした指先に、奇妙な感覚が走った。

力を入れて結ぼうとする前に、藁がまるで私の意志を先読みしたかのように、吸い付くようにまとまったのだ。


さらに不思議なことが起きた。

私の指先が触れている藁の表面に、ぼんやりとした光が灯ったのだ。


——淡い、青白い光


それは冷たい幽霊のような光ではない。

日向のような、あるいはストーブにかざした手のような、じんわりとした「温かさ」をはらんだ光だった。


私は手を止めた。

もう一度、今度は腕の部分を作ってみる。

編み込みながら、心の中で「ここを曲がれ」「ここにくっつけ」と生活魔法を使う時のように念じてみる。


フワッ。

再び、青白い光が藁を包み込む。


すると、硬いはずの乾燥した茎が、まるで水を含んだようにしなやかに曲がり、接着剤も使っていないのに、ピタリと繊維同士が噛み合って固定された。

指先から、微弱な魔力が糸のように伸び、藁の中に浸透していくのが分かる。


(これが、私の魔法……?)


水を温めたり、埃を払ったりするだけの地味な生活魔法だと思っていたけれど、まさか藁を自由に操ることもできるなんて。

エルフの魔法は自然と相性がいいと聞くけれど、枯れた草にも及ぶのだろうか。


ただ、この「青白い光」だけは謎だった。

私の魔力の色なのだろうか?

でも、この青白く淡い光は、藁に触るときだけ現れた。

それに、この不思議な温かさはなんだろう。まるで、藁自体が微熱を持っているような。


「……まあいい」


便利ならそれでいい。

自分の手の一部のように動かせるのが、ただただ楽しかった。


「動いて」


試しに、そう呟いて指を動かしてみる。

編みかけの人形の腕が、青白い淡い光をまといながら、私の指の動きに合わせてコクン、とひとりでに持ち上がった。


(やっぱり、私の魔法だ!)


私は自分の左手首を見た。

そこにある藁の腕輪もまた、同じ青白い光を帯びて、温かく脈打っている。


気がつけば、私は夢中になって二体の人形を完成させていた。

不恰好だが、どこか愛嬌のある藁の人形たち。


  ◇    ◇    ◇


翌日の勉強の時間。


「今日は、二人にプレゼントがあります」


私が後ろ手に隠していた人形を取り出すと、ソフィアとトーマスは目を丸くした。


「わあ! なにこれ!」

「藁のお人形? ナタリーが作ったの?」

「はい。故郷の作り方で」


私は二つの人形を机の上に立たせた。

ただ置くだけではない。

指先に、昨夜掴んだあの感覚——生活魔法の魔力を込める。


「よく見ていてくださいね」


私が人差し指をちょい、と動かすと。

ふわり、と人形の足元に淡い青白い光が灯る。


カタッ、カタッ。


藁の人形たちが、ぎこちなく足踏みをして、二人の前へとお辞儀をした。


「えっ!?」

「うわあ! 動いた! 今、動いたよ!」


二人は椅子から飛び上がらんばかりに驚き、歓声を上げた。


「すごい! ナタリー、魔法使いみたい!」

「なんか、キラキラ光ってる! あったかい!」

「ふふ、簡単な生活魔法ですよ」


私は微笑んで、人形の動きを止めた。

光がスゥッと消え、ただの藁束に戻る。


二人は人形を手に取り、すぐにエリザベスの元へと走っていった。


「ママ! 見て! ナタリーが動くお人形を作ってくれたの!」

「藁のお人形だよ! すごくかわいいんだ!」


居間で刺繍をしていたエリザベスも、子供たちの興奮ぶりに目を細めた。


「まあ、本当にかわいいわね。ナタリー、こんな特技があったなんて知らなかったわ」

「いえ、ほんの余興のようなものです。手が藁の手仕事を覚えていたみたいで……」

「そうだわ。このままだと少し寂しいから……」


エリザベスは裁縫箱からリボンを取り出した。

トーマスの人形の首にはブルーのリボンを。

ソフィアの人形の腰には赤いリボンを。

そして、ペンでちょんちょんと愛らしい目と口を描き入れた。


「どう? これで素敵なお友達ね」

「うん! ありがとうママ! ありがとうナタリー!」

「この人形、大切にするね!」


二人は人形を抱きしめた。

その光景を見て、私の胸にも温かいものが満ちていく。

ただの枯草と私の魔法が、こんなにも人を笑顔にできる。


「そうだわ、これをロバート叔父さまに売って貰いましょう」

「売るっていっても、私の趣味で作ったようなものですから……」

「いえ、こんなに可愛いもの。材料だって、この農園にはいくらでもあるのだから」

「そうですが、売れるものでしょうか」

「大丈夫、叔父さまがうまくやってくれるわ。今度来たときに頼んでみましょう」


(もっと……藁細工が作れるなら、嬉しい)


その日以来、私は時間を見つけては藁細工に没頭した。


私の指先に従って、藁たちは素直に編み込まれ、美しい黄金色の束になっていく。

その、細く刻まれたような繊維の重なりをじっと見つめていると、不意に、前世の記憶が刺激された。


(……この見た目、あれにそっくり)


台所でトントントン、と包丁を叩く音。

山盛りにされた、大地の恵みである黄金色の千切り。

そう、「ジャガイモ」だ。


一度そう思うと、頭の中はもうその料理のことで一杯になった。

千切りにしたジャガイモと、ネバネバの納豆を混ぜ合わせ、多めの油でカリッカリになるまで焼き上げた、あの香ばしい円盤。


(ああ……食べたい。あの、カリカリでホクホクの『納豆ガレット』が食べたい……!)


私は編みかけの藁を握りしめながら、口の中に広がる焦げた醤油とポテトの風味を思い出し、思わずごくりと喉を鳴らした。


  ◇    ◇    ◇


頭の中の記憶を「藁の大蛇」へスイッチした。その形を思い出しながら、大きな注連縄を作り、壁に飾った。


また藁を貰い、小さなほうきを編み、茎を編んでカゴやゴザを作った。

作れば作るほど、指先は滑らかになり、藁とのパスが繋がっていく。


今では、私がイメージするだけで、青白い光と共に藁たちが自ら編み上がっていくようだった。


なぜ光るのか、なぜ温かいのかは分からないけれど、この感覚は心地よかった。

これはきっと、失われた私の過去——エルフとしての身体に染みついている魔法なのだろう。


ナタリーは、藁で色々なモノを作るのがとても楽しみになった。


そして、その夜。

部屋中に飾られた藁細工たちに囲まれて、私はベッドに入った。


ふと、壁に掛けたしめ縄飾りが目に入る。

月明かりを浴びて、とぐろを巻く蛇の形をしたそれが、ドクン、と脈打ち、青白く発光した気がした。


左手首の腕輪が熱い。

今日、子供たちのために使った魔法の使いすぎだろうか。


(でも……これなら)


私は布団の中で、自分の手のひらを見つめた。


今日の感覚。指先一つで、藁の繊維一本一本まで意のままに操れる、この完璧なコントロール。

脳裏に浮かぶのは、人形でも箒でもない。

ずっと作りたかった、あの「器」だ。


(これなら……完璧な『藁つと』が作れる)


ムラなく編み込まれ、熱を逃さず、中の豆を優しく包み込む最高の藁つと。

それさえあれば、温度管理も湿度調整も、きっと思うがままになるはずだ。


「ふふ……」


思わず笑みがこぼれる。

最高の納豆ができる予感がした。


心地よい藁の香りと、不思議な温もりに包まれながら、私は深い眠りへと落ちていった。

──────────────────────────────────

【ネバり姫の納豆料理】悪魔的カリカリ食感「黄金の藁ポテト納豆」


納豆マニアの私が「最も中毒性が高い」と認定している、炭水化物とタンパク質の危険なマリアージュ。

「納豆とジャガイモのカリカリガレット」だ。

なぜジャガイモかというと、 細く千切りにしたジャガイモは、フランス語で「ポム・パイユ(藁のポテト)」と呼ばれる。


作り方は、驚くほどシンプルにして、驚くほど奥が深い。

水にさらさずデンプンを残したジャガイモと、納豆を混ぜて焼くだけ。

だが、この組み合わせが生み出す破壊力は凄まじい。


フライパンの上でジリジリと焼かれるポテトと納豆。

熱せられた納豆は、粘りを捨て、代わりに「ナッツのような芳醇な香り」と「ホクホクの食感」を手に入れる。

それが、カリッと揚がったジャガイモの香ばしさと重なり合う瞬間……。


「……カリッ、サクッ、トロッ」


口の中で奏でられる三重奏トリオ

ジャガイモのカリカリ感、納豆の旨味、そして加熱されたことで甘みを増した大豆の存在感。

これはもう、おかずの皮を被った「合法ドラッグ」だ。


さらに今回は、マニアならではの「悪魔のワンポイント」を授けよう。

「粉チーズ」だ。 生地の中に、惜しげもなく粉チーズを投入するのだ。


焼けたチーズのコクと塩気が、納豆の風味をブーストさせ、ビールを持つ手が止まらなくなる。 カロリー? 知らない言葉だ。 今夜はこの「黄金の円盤」に、理性を捧げようではないか。


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       納豆料理レシピ

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◑材料(フライパン1枚分)

・納豆(タレも使う)

・ジャガイモ(メークインでも男爵でもOK)

・片栗粉

・粉チーズ(あれば)

・塩・コショウ

・オリーブオイル(多めに、揚げ焼きにする気持ちで)


◑作り方

1.ジャガイモは皮をむき、できるだけ細い千切りにする。 ※重要:水にはさらさない! ジャガイモのデンプン質が納豆との接着剤になるのだ。

2.納豆を添付のタレ、からしでかき混ぜる。

3.ボウルにジャガイモ、片栗粉、粉チーズ、塩コショウを入れ、全体がねっとりするまでよく混ぜてから、納豆も加えて軽く混ぜる。

4.フライパンに多めのオリーブオイルを熱し、生地を流し込む。平らに広げ、中火でじっくり焼く。 ※触りすぎないこと。「藁」が固まるのをじっと待つのがナタリー流。

5.周りがカリッとしてきつね色になったら裏返す。さらに油を少し足し、両面がガリガリになるまで焼き上げる。

6.包丁でピザのように切り分ける。


そのままでも美味いが、ここに「黒胡椒」を追いがけする。 熱々のうちに頬張れば、そこはもう異世界ニルヴァーナ。 納豆が苦手な子供ですら奪い合いになる、最強の納豆スナックの完成だ。

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