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第一章:誓約の執行

最後に見た景色からどれくらい経っただろうか?

暗いのか、明るいのかもわからぬほど何も見えず、何も聞こえず、何も匂わず、何も感じない。それなのに意識はある。

これが神罰なのだろう。

まぁ、いい。これで終わりなのだ。

俺は役割を果たせなかった。最強ではなかった。そんな俺に価値など…


”スキル〇〇ノ星の取得”


”スキルの取得に伴い衰弱Ⅴ,全感覚弱化Ⅴ,魔力抵抗Ⅴ,筋肉自由化Ⅴ,気力減少Ⅴ…の付与”


それらは唐突に頭に流れた。

なんだこれは?スキル?魔力?黄金のロバに魔法という概念があったがそれとは違うのだろうか?

記憶にないものが延々と思い出されて、動揺と困惑が押し寄せる。

だが、ポジティブな感情がないわけでもない。

()()()()。神罰を受けているのに罰以外の何かを()()()のはおかしい。


”俺は生きている”


確証はないが、自信はあった。

____

あれ以降、スキルとは何なのか、魔法とは何なのか、この状況を打破する手立てをひたすら思案したが、何も思い出せない。

次第に思考は滞り、気づけば冬眠のような状態になった。


”今は何年あるいは何十年経っているのだろう?”


そんな事もわからず、ただすべてが凍った場所にいる。


”スキルへの妨害あり、全感覚弱化Ⅴが全感覚弱化Ⅲへ移行されました”


ん?


「このように、死者を蘇生することができる!」


突如、眩い光が目の前を占拠し、割れるように大きな音が鼓膜を震わせた。

停滞が融解し、動揺と思考が回る感覚。

感覚の揺れが収まってくると、目の前には色白でボロ衣を纏った少女と黒い外套を羽織り、やかましく反射する宝飾を身につけた男が立っている。

そして、なぜかこの体は思い通りに動かない。

とりあえず意識の途絶えたあの場所(地獄)から解放されたことに歓喜したが、良い状況ではないだろう。


「今契約するならト・ク・べ・ツに1000純魔貨でお受けしましょう!どうです?」


男は少女に笑顔を近づける。少女は震えながらもうなずいた。

男は目を細めながら指をパチンと鳴らすと、少女の目の前に僅かに黄金の光を纏う紙と端部に羽のある万年筆が出現した。


”まずい!”


思うように馴染まない体に鞭を打ち、少女が手につけようとしていた万年筆を奪いとった。

今生初の早業だった。しかし、勢いは持たず刹那、体は吹き飛んだ。

体を強打し、背骨と背面に触れた岩が砕け散った。

戻ったはずの視界がゆらぎ、再びはじけようとしていた。


「神聖な契約の邪魔をしないでいただきたい」


痛みに堪えながら、歯を食いしばる。顎の先端からじっとりとした感覚がする。


「かのような幼子を騙して何が神聖か!死者の蘇生など断じてありえぬ!」


蘇生術がない証拠など存在しないが、少なくともこの男にはできないだろう。

男は一瞬面食らったが、すぐに元の笑顔に戻って言った。


「では、あなたの存在はどう証明するのです?」


反論できない。確かに自分は体が動かせる状態になってしまっている。

これが生き返ったと言わずして、何というのだ?

男は追い打ちをかける。


「それとも、生き返ったばかりで現実が見えていないのでしょうか?周りを見てご覧なさい」


周りを見渡すと、腰ほどの高さの石が建ち並び、それぞれに二段に分けて短く文字が彫られている。


「墓...か」


「そうです。ここは墓地。そして貴方は、死者だった。私が蘇らせたのですよ。」


詭弁だと信じたい。しかし、今、生きている。

ならば、この男が言うことは...


「理解していただけましたね?この契約は正当なものです。さぁ、お嬢さん、続きを」


少女は滴る墨を払うと、紙に筆が触れた。


「待て!」


なぜ俺は気がつかなかったのだろうか?


"私は生前、こんな体だっただろうか?"


筋骨隆々だったはずの体が、骨張った腕と足、出っ張った腹だけの貧困街の子どものような体。


"これは...俺の体ではない"


そして、先ほど頭に流れた言葉を思い出す。


"スキルの取得"

"付与"


これは、生き返ったのではない。

俺は――


「俺は死人ではない!」


俺は別の世界に生まれ変わったのだ。

男は舌打ちをして、


「外野は黙っててください」


脇腹めがけて蹴り込んできた。


”ゴキャ”


先足が胸骨にめり込んで嫌な音がした。

男は笑みを保っていたが、ただでは終わらない。

足を脇に抱えると、男の笑みが崩れる。


「こんの、ハエがぁ!」


力任せに足を振りほどこうとしてきた。遠心力でギシギシと体が軋むが、さらに強く俺は抱え込もうとする。

しかし、次の瞬間揺れがピタッと収まった。

ふと男の方を見ると、顔に笑みが戻っている。


「残念でしたね。契約は成立しました」


男の後ろから黄金の光を纏った龍が天に昇ってゆくのが見える。

気を取られている間に男に足を振りほどかれた。



「あっ」


“ コンストリクティオ”


男は手を向けて唱えると、紫色の縄が気づけば俺の体を木に縛り付けていた。


「さぁ、行きましょう」

「待て」


男は余裕な感じで少女の肩に手をかけ、振り返って離れてゆく。

少女の暗い表情と男の醜悪な笑顔がちらり見えてやるせなさが心に広がる。


”面倒な男でしたが、おかげでこのアマを簡単にだますことができました”


これで当分の金と女の工面は十分だろう。聖なる契約は何者にも破れはしないのだから。

しかし、その瞬間私の体は地面に伏していた。

見上げるとそこには先程魔法で縛り付けたはずの男が立っていた。

手には何やら赤いものの付着した枝を持っていて、私は刺されたのだとわかった。


「な...ぜ...」


頭を刺されたせいで回復魔術が発動できない。あぁ、意識が遠のく。まだ死ねぬ。ま...だ...


”魔力抵抗Ⅴにより、現在付与されている魔法をレジストします。全感覚弱化Ⅴの再取得に失敗しました”

その声が聞こえた瞬間、体を縛っていた縄はボロボロと崩れていった。

おかげで少女を助けられた。


「何を、何をしたの!?」


少女は困惑した様子でそう叫んだ。

まだ状況が飲み込めないのだろう。

しかし、視界が霞む。俺ももう限界か。


「あ゙ぁ゙あああぁ」


少女の叫びにはいつしか嗚咽も聞こえて泣いているのがわかる。

余程不安だったのだろう。


「大丈夫かい?」


”グサッ”


視線を下ろして、霞んだ視界に銀色の薄い反射物を捕らえたのを最後に俺の意識は途絶えた。

投稿遅れたので罰として上げます。これで許してください。

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