第86話 託した
「さっさとあんな奴ぶっ飛ばしてみんなの所へ帰るわよ!」
高々と宣言したリサ。もうルティアという存在ではないのだ。
勝ち気で自信満々の戦士がそこにいた。
「………あぁ!」
“彼女の力”で堂々とオリアーナの支配を外したのだ、誇らしい以外の何者でもない。
「ねぇ、さっきの奴言ってよ、お前が前線を切り開くんだ〜みたいな奴!!」
「絶対言わない」
無遠慮に背中をバシバシ叩くこの感じ、間違いなくリサだ。彼女以外こんな人はいないだろう。
「タクトは今よりも〜っと男前になってから私に告ること!」
「はい!!」
さりげなく振られたタクト、まぁリサの言い方的にまだチャンスはありそうだ。
そんな二人に気づかれない様にケイは静かに息を吐く。腹を大きく刺されたのだ、重症……
リサとタクトをチラッと見て、次の判断を下す。
もう…時間はない。
「……………………」
オリアーナの無言。まさか妹を返せと迫ってくるのだろうか?二度と渡さないが。
彼女の目的はまだはっきりしていない。
ルティアから伝えられた[永劫]の意味はあくまでも時間のループ。
その先に何かがある。
人々の失踪もそれに関係しているのだろう。
「それじゃあ……ここでお別れね」
レイピアをもう一つ取り出し、二刀流になった。
「どうせ時は戻す、今ここであなた達を殺した所で何も変わらない。」
時を戻す。
いつまで…どうせ長生きな彼女の事、しかも家族想いというのなら数千──もしかしたら更に上。
家族に会う為にこんなやり方をした訳だが……理解できなくもないのだ。
こんな壮大な野望を持った彼女にもう一度戦ったところで負けるのがオチだ。
「(それを防ぐ為には……!)リサ、タクトの近くに寄ってくれ、俺一人じゃ守りきれない」
「わかった」
彼女がタクトの前に立ち、オリアーナに鎌を向けた時にルティアに貰ったあるものを起動する。
── 私が作ったこの[脱出ゲート]があれば“一回”は逃げられますよ?
ルティアはそう言っていた。
ならここで使うべきはこんな死に体な俺じゃなく、希望を背負った二人!!
リサとタクトよりも大きく穴が地面に開く。
「!?」
「ちょ……!まさか…!!」
リサだけがこれから起こるであろう事気づいた様だ。
「二人とも………!」
「ッ…!!」
「後は……任せた!!」
涙ながらに話すケイ。それに対して返事もできずにリサ達は穴へと落ちていった。
これで良い。
英雄になるのは…俺じゃない!!
「驚いたな、まさかそっちを選ぶとは」
「安心しろォ!諦めたわけじゃ全然ねぇよ!!」
笑みを浮かべた彼を真顔で見据えるオリアーナ。そんな彼を骨のある奴と評価した事は、誰も知らない。
この戦いでケイは死ぬ。
この屍を超えて、レノア達は英雄へとなって行くのだ。
───────────
[視点はリサ]
不思議な感覚に何度も襲われ、気がつけばタクトが起き上がり、周りの人が自分達を見ている。
ここは……先程の[楽園]じゃない。
戻って来たのだ、元の世界に。
「ケイは!?」
周りを見渡してもケイに思い当たる人物がいない。
不思議そうに自分を見つめる人達とタクトだけ。
「もしかして…ケイくんは…」
絶望した表情でタクトはリサの方へと見る。彼の言いたい事などすぐ分かる。
ケイが自らの命を引き換えに“自分達を逃した”のだと。
「なんで……ケイ…なんでよ…」
彼なら一緒に戦う筈なのに、そう言えば今更だが疑問が出て来た、何故ケイは一人でここに来たのか?
答えは明白。
最初からリサ達を助ける気でここまで来たのだ。
「合流……合流しよう!!みんなと!流石のケイくんでも一人でこんな所に来たわけがない!」
「!!……そうね」
タクトの判断に頷き、二人はレノア達を探そうとする瞬間。聞き覚えのある声。
「リサ……ちゃん?」
二人が到着した所は服屋前、丁度出発しよとしていたレノア達を遭遇した。
レノア達は二人に抱きつき、無事でいる事に心底安堵した様に見えたが、今重要なのはそこじゃない!!
「ケイが……ケイがオリアーナに!!」
そんなリサの訴えも虚しく、二人は?を浮かべ誰だか分かっていさそうな様子。
「二人とも!ケイくんだよケイくん!![燃焼]使いの!!」
「何を言ってるのか…私にはさっぱり……?」
リサ達が何度もケイの特徴を喋るが依然?を浮かべる二人にあることを悟る。
オリアーナはなんらかの方法でケイに関する記憶を消したのだ。
「この国…この世界でケイを知る人は…私達だけ?」
更に絶望が跳ね上がった。もう打つ手なんて……
リサとタクトの長い沈黙。
託されたのだ、ケイに。
(こんな所で諦めるわけには……!)
「正確に言えば私も含まれますよ!」
元気な少女の声にリサ達は少女に目を向ける。そこで見たのは茶髪の長い髪に、オリアーナにそっくりな赤い目をした少女。
「ケイさんが守った記憶は私が…みんなに届ける」
本来戦いには現れないはずの切り札…ジョーカーが今レノア達とやっと会合。
ケイが狙った一か八かの反撃の狼煙は今、上がりつつある。
─────────────
[場所は[楽園]」
オリアーナの剣術は異様だ。
一切隙がなく、無駄もない。
体中を血だらけにし地面に突っ伏していたケイ。
もう戦う事は不可能と言うレベルに。
「もういいでしょ?」
呆れた様に話しケイを見下ろすオリアーナ。それをただ見上げる事しかできない。
「………かもな」
「私の勝ち。だよ」
剣を振り上げる瞬間、ケイは最後の抵抗を行う。
こんな時、勝ちを確信している者に効果抜群はモノがある。
そう言えば、使うのは一年振りだ。
「[闇魔法]」
「……ッ!?しまっ───」
オリアーナの足が泥沼の様に地面にゆっくり沈んでいく。
この魔法は他の魔法と違い、対象の“油断”を突く異端。
勝ちの確信、負けの確信。
自身の生や死の深い確信が対象を闇へと引きずるのだ。
ケイの命を賭けた大立ち回りはここで……オリアーナの左胸と首を突き刺すという行為となり、成功。
首は手甲剣で、胸は作った剣で突き刺した。
たった一瞬の瀕死。
これにより、オリアーナは結界を維持できなくなったのだ。
[永劫]は消滅した。
すぐさま治癒魔法で全快されたが、もう遅い。
結界は破壊した。これでもうループなんて馬鹿げた事も、ルールに従う事もない。
「まさか……この為だけに…この為だけにお前は全てに賭けたのか!?私が結界を…能力を張り直す可能性だなんてあった筈だ……何故!?」
混乱中の彼女に一言。
オリアーナについて何も知らないケイだが分かっている事がある。
「お前……が………嫌な奴…じゃないって……聞いたからだ……」
「は……っ!?」
心底驚いた彼女。先刻自らと命を賭けた殺し合いをしたと言うのに……。
良い子のルティア。そしてその姉が根っからの悪人ではないだろうと言う根拠なき自信。
あんな良い子が姉の為に命を賭けているのだ。悪人な理由なんてどこにあるというのか。
それが今のケイを突き動かした理由なのだから─────
「…………わかった…良いだろう。この先の戦いを全て終わらせてから[永劫]を再開する、ケイ。これが君に対する敬意だ」
そう言った後、彼の有無を聞かずに無理矢理[楽園]へと連れていった。
体が霧散し消えて行く寸前、ケイはどこか満たされた感覚で、やり遂げた満足感に包まれて……
「レノア達かララ達か…どちらでも良い……叩き潰す」
不適な笑みを浮かべた後、オリアーナは綺麗な自然に独り寂しく囲まれただぼーっと空を見つめた。
ケイと似た純粋な殺意を向けられるのは果たしてどちらかが、命運が…決まる。
次章:第三都市・反撃編
第三都市編の最終章でもあります。
皆様お待たせいたしました、舞台は整ったのでここから先はバトル!!バトル!!でお送り致します!!




