第78話 襲撃、ノクシア。
東地区へと向かうケイ達。情報こそないが、ここにも『五傑』の一人がいるだろう。
敵は多い。
このループで攻撃を仕掛けてくる可能性はありありだ。
策士なララの事だ、どうせ騎士団にも何か仕掛けてあるのだろう。
(させない。あの人達が死んで良い理由なんて……ない!)
そう決意したケイ。今の彼は一人じゃない。
後ろを守ってくれる人──レノア、ハウがいる!
それに気づいている筈なのにいつも一人でなんとかしようとしてしまう彼の悪癖は治してほしいといつもレノアは思っていた。
今回は走りながら騎士団へと向かう。
尚……土地勘はない為。先ほどから「こっちか!?違ったァ!!」を繰り返していたが……
「あった!ケイ君!!」
レノアが指差す先には堂々と直筆で書かれた看板が先に目についた。
─────道場破りはいつでも!!困った事があったらガイルまで!!
「………………」
本当に騎士団なのか分からなくなってきた。少なくとも彼が『五傑』と呼ばれているのは確か。
扉を開けようとした時、近くから爆音。
「!?」
東地区には巨大なコンサートホールがある。
爆音が聞こえたのはそこだ。
(まさか………)
もう確実にそうだろう。ガイルさん達は今───
「くそっ!襲撃された!!」
ホールへと向かおうとした時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「ワタシに……挨拶はなし?」
「……………ッ…!!」
その声、その姿を見て…頭に血が昇る。
本当に血液って頭に昇ってんだな。なんて場違いな考えが浮かぶ。
「あなたなら、そうすると思ったよ」
「ノクシア!!」
まさかこいつがここにいるとは……部屋の中はララの時と同じく異変はない。
剣を作成し先にノクシアの相手を取ろうと思った瞬間。レノアが先に出る。
「私が………やる!!」
剣を握り、体中に雷が蓄えられていく。
すると彼女は……ぼそっと呟く。その声は聞こえるか聞こえないかの音量。
「……………ありがとう」
「?」
レノアにははっきりと聞こえたが他の二人は聞こえなかった。
「…………レノアさん」
「ん?」
優しく返すレノアに、真っ直ぐな目でケイも返す。
「死ぬなよ!!」
「………!!了解!!」
ハウとケイが一目散に目的地へと向かった。
聖母の様な笑みを絶やさなかった彼女は二人が見えなくなると、刹那に殺意に満ちた表情。
ノクシアを睨みつける。
「どうして……私達を裏切ったんですか?」
「…………あなたで良かった」
剣を握ったノクシアに、緊張した顔つきでレノアも構えた。ケイの話では前回のループ?というもので自分達は殺されたらしい。
(気は抜けない。もしかして次の瞬間、腕が飛んでいても──)
ノクシアが消えた。
「…ッ!?」
肩から出血。軽いが血飛沫が舞う。
今の一瞬で斬られた。
(どうせ背後にいるんでしょ!?)
振り向き様に剣を後ろに振るう、腰の捻りが力不足を補ってくれる。
ただそこにはもういない。
「あッ…!!」
腹からも出血。ただこれも浅い。
速い。相手の攻撃を見る前にはもう斬られているのだ。室内戦、正直ここで戦えば……死ぬ。
ただレノアは馬鹿じゃない。
室内が駄目なら
「(外に出る!)[燃焼]」
雷速で壁を破壊し、外に出た。
幸いここら辺に人はいない事は確認済みだ。
(流石にここではやんないよね)
ノクシアもゆっくり外へ出る。自身の剣に付いた血を拭き取りながら。
騎士団近くには広い庭がある。そこで騎士達は腕を磨いている。
本来神聖な場所だが……血みどろの戦場となった。
レノアは息を吸い込み…余分な恐怖と怯え事吐き出す。目の前には強敵。ログロの幼馴染と聞いてこの強さ…納得だ。
ノクシアが剣をレノアへと真っ直ぐ向ける。
────来る。
濃密な“死”
それをレノアは色濃く感じていた。
レノアも剣を彼女に向ける。
判断、対応、反射。
どれか一つでも間違えば………
(こう言う時…!ケイ君なら……ケイ君ならケイ君ならケイ君ならケイ君なら!?)
圧倒的な恐怖、先程ので吐き出せたものはほんの一部。
ケイならどうするのか?
そんなもの決まってる。賭けるのだ…自分に。
刹那の見切り。
空気の揺らぎを感じる。
一秒
二秒
三秒───!!
火花を散らす甲高い太刀音。
コンマ数秒の遅れなく対応成功。
「ッ!!」
「なッ…!?」
ノクシアは驚愕した。
そして今続くこの鍔迫り合いを制すのは無論……!!
彼女が力の押し合いに完全集中した瞬間を見抜き、横に避けたレノア。
「そこッ!!」
脇腹を蹴り上げ再び、数メーター…ノクシアから離れる。
何度でも叩き込む。
両者の剣がぶつかる───!!
キン!という綺麗で心地よい音。
二度目の鍔迫り合い。単純な力勝負は互角だった。
驚くべき所はそこではない。
ドライヴの剣との親和性を更に高め、二度の室内戦で彼女の速度を見切ったレノアの戦闘センス。
強者と当てれば当てるほど彼女は強くなる。
(前のループ殺せたのは奇跡だな…!不意打ちでもっていけたから良かったものの、対面して戦うとこうも厄介だとは)
レノアとハウを殺した時は裏切りを明かし動揺した所を不意打ち。
二人は力の七割を出せずに死んだ。
が、今こうしてレノアのボルテージを上げてしまうとどんどんノクシアの“死”に近づく。
「なんで……裏切ったんですか!!あなたはログロさんの──」
「ログロログロうるさいなぁ……!何度も言うけどワタシは『ノクシア』って言う一人の女なんだよ!」
ログロは天才だった、ダチのブレイもそう。
あいつら二人は天才。
(ワタシは……凡人……)
ログロやレノアを見ると、どこか嫉妬にも近い感情になってしまう。目的を見失いそうになる。
その速度も、膂力も全て自前で鍛えたもの。魔力による身体強化で更に磨きがかかった全盛期。
彼女の身に不幸が訪れた。
────────
[二十年前、全員が二十歳の時]
ログロ、ブレイ、ノクシアでパーティを組んでいた頃だった。
なんて事ないドラゴンの討伐の任務。
まだ成長途中前の赤子に近い竜討伐。
親となる人物はいないと情報で書かれてあったが、違った、竜の母親が子供を守っていたのだ。
そこから先の事は覚えていない。ただ覚えているのは…『ボロボロ』の『重傷』になったワタシと、その姿を見て安心していた『軽傷』の二人。
医務室ですぐ思い出したのはある会話だった。
───ギルドめ……!!二人とも!撤退するぞ!
ログロがそう叫ぶとブレイの[転移]を発動直前。
ブレイの手にノクシアがいない。
三人同時に発動する為には接触する必要がある。
そこに彼女がいない。
───……まさか!!
彼女は無謀にも竜へと立ち向かったのだ。
───やめろー!!!ノクシアちゃん!!今の俺達ではそいつは殺せない!!
その後の事は想像に難くない。
竜のブレスと尻尾による攻撃を受け重傷。
彼ら二人の軽傷は、ノクシアを救出する為に出た傷だった。
力の差を明確に図りきれなかった……その『差』それだけなのだ。
「なんで………こんなに……弱いんだろうなぁ」
二人が医務室から帰った時に、彼女は大声で泣いた。
言ってしまえば後遺症も残らずになんて事ない事だった。
それなのに………
──────────
[時間は戻る]
「ワタシは………ワタシは……!!」
レノアに急接近。剣を振るう。
「ノクシアさん!!」
「黙れ!!」
お互い、剣戟の最中。
彼女は罪悪感と劣等感を抱えて生きていた。
『服屋』は逃げの象徴。
そんな中、ログロの様な才を持った英雄が来たと言うなら、叩き潰したくなったのだ。
「……………」
「?」
突如ノクシアは距離を取り、レノアを見つめる。
「はぁ〜なんかイライラする!あぁごめん、君のせいじゃないよ……そうか…なら……こっからは……!」
再びレノアに剣を向ける。
「第二ラウンドだ!!」
もうお互いに、出し惜しみはない。
次回:才vs経験




