第67話 [嵐]と[黒]
「よしよしよし!!ボクと戦おう!!」
「さっさとやろう」
ノリノリのララに比べてレノアは冷静。
冷静になるしかない。
お互い剣術は素人。
だが、殺し合いというステージにおいてはララの方が何倍も多く経験している。
僧侶として様々なパーティに就く事があっても戦う事などなかったレノアにとってララと戦うのはあまりにも無謀。
([燃焼]を使えずに死ぬか、剣に斬られて死ぬか。嫌な二択が頭の中でぐるぐるしてる…!)
ララを言葉で表現するなら『際限なき才』
思いつく通りの事を実行し成功させる実力も確かにある。
ただレノアの才能は完璧に引き出されば最高峰。
…………引き出さればだ。
「なぁ……その剣。どう言う事だ?随分と血生臭いもの持ってんじゃん」
彼女の持つ剣はドライヴの生き様そのもの。
殺しに生き、戦いに飢えた男が作った剣。
殺戮に長けた最大の剣が今レノアの持つ全て。
一度無駄な感情を息を吐く事で集中を深めようとしているのだ。
「それじゃあ今度こそ…始めよう……か!!」
ララは此方へ真っ直ぐと突撃。上から斜め下へと振り下ろす一撃をしっかりと受け止める。
「ッ!!(重い…!)」
村中に響く金切音。燃焼]を使わずにお互いの剣戟を味わう。
ララの剣を弾き飛ばしたレノアは真っ直ぐララへと斬りかかりそれを受け止めた。
かなりの力を入れたつもりだったが、ララは剣を手放さない。
「でいッ!!」
レノアの突き技を軽々と受け止め、反撃。
熟練の剣士から見れば子供のごっこ遊びの様に見えるが、二人の鋭さはどんどん増している。
「いいねいいね!ボクも楽しいよ!!」
黙って戦えよ。と少し苛立ちを覚えたレノア。
それは戦いに余裕のないという感情の裏返し。
両者の剣が思いっきりぶつかると、力勝負となるが優勢なのはやはりレノア。
意志のある剣がレノアを選んだのだ、多少の恩恵は得られていておかしくない。
これからどうするつもりだ!とララが考えだした時、
レノアの体から雷が見えた。
「!!チッ!」
後ろに高く跳躍したララは防御の姿勢。
それは杞憂に終わったが。
「(フェイント……やるな)ボクとの距離を離した所であまり変わらないんじゃない?」
「あなたも、そろそろ私の燃焼が見たいんじゃないの?」
「……………」
レノアは急速に黒色の雷が体全体を覆う、黒い雷は鋭い殺意の現れ。
ケイに理解と敬意を示したドライヴが編み出したその雷は理性の極地。
「[燃焼・黒]」
剣と肉体。二つに纏われた雷はララへと向かう。
「ハッ…!!」
甲高い音を響かせ、雷がララにぶつかる。
先程の金切音とは比べ物にならない程に大きく鳴らしていた。
燃焼を使わずにちゃんと目視で受け止めたララはその先手に敬意を表し、剣に『風』が纏われる。
「[燃焼・反]」
剣に纏われた風がドリルの様に回転し、反撃を補佐する、ララが作り出した燃焼の型。
ガキン!!と音が響く後レノアは弾かれた。
「終わりだぁ!!」
剣がレノアの脇腹へと迫る時──
彼女は素早く剣を左手に持ち替える。
「何が終わったって!?」
両者の攻撃がぶつかりララの反撃を許さない。
「……やるなぁ!!」
「………ッ…!」
痛い。手から血が出ているのが分かる。
斬られたり、殴られたり、治療中に肉体限界の達した時よりも痛く感じた。
剣を持ち人を斬る自覚。この血がその証明だと思う。
(このままじゃ何も変わらない…!)
だと言って事態を打破できるほどの手を………いや、ある。
「[燃焼・斬]」
「なッ…!!(速──)」
ケイのを見ていたレノアはその方法を知らなくても剣を握ってからケイの技達をイメージはしていた、まさかイメージ通りに行くとは思っていなかったが。
ノーモーションで放たれる斬がララを森へと吹き飛ば
した。奇しくも先程と同じ構図。
それで殺れていたらどれ程良かっただろうか。
「流石だね(マトモに受けたらボクは余裕で死ねるな)」
考えているのは次の手。
(ボクが作った四つの型。[反]は論外。[嵐]は近距離以外は弱い。使えるとしたら[疾]か
[颶]による大量殺人かな)
[疾]は加速装置。一挙手一投足に魔力の全てを纏う事で加速に成功した。ここから奴は文字通り疾風の様に如く敵に襲いかかる。
雷と風。
どちらも特殊な魔法。
強いのはどちらなのか?
ララは子供の頃からそう思っていた。
白黒着けるには丁度いい。
ララは姿勢を低くし唱える。
「[燃焼・疾]」
(───速い!!)」
風が生きていると思うくらいには自由自在に森の中を駆け巡るララ。
暴風というにはあまりにも…静かだ。
(あの人がさっき言っていた疾ってこれ!?速い…!)
ケイの燃焼を見て迷わずこの技を作成した。
威力だけではなく、スピードでもケイに勝ちたいと言う執念が今のララだ。
そんな奴がいるのは……
(背後───!)
しまった。そう思うよりも速く…技を放たれた。
「[嵐]」
荒れた風の膜がレノアの体を刻んだ。ただ出力は良くなかった。
考えられる原因は……
(漏れたな。流石に二日では使いこなせないか)
鍛錬不足がここで来た、レノアの顔や体から血が流れているが倒れず奴を睨んでいるのがその証明。
(村の人達だけでも……絶対守る…!ケイ君達も何かあったんだ、きっと村さえも助けられない事情が…)
絶望的な状況、それでも折れない彼女の心はどこか狂気にも近いものが…あるのかもしれない。
(倒れるな……私が倒れたら…みんなが…!!)
クラクラしながらも、地面に倒れずに剣に雷を込め始める。
「[燃焼]!」
だが、剣に纏われた雷がふっと霧散した。
「ッ…!?そんな……!」
魔力切れ………
自身の肉体で完結する魔力コントロールと剣を含めたコントロールは別物。
治癒魔法の様な“取り敢えず高密度の魔力を放つ”要領で攻撃を行えば失敗する。
強烈な死の予感。
ただララは頭を抱え始めた。
「チッ。残念だけどここまでだ、お前の才をもっと引き出してみたかったけれど…ボクにも予定がある」
ゆっくりと歩き出し森へと消えた。トドメを刺さずに。
負けた。
確実に。
「ごめん……みんな」
レノアは地面へと倒れそのまま気絶。[嵐]のダメージを軽減してもダメージを防げなかった。
────[時間は元に戻る]────
オリアーナの襲撃。そしてレノアにトドメを刺さずに帰ったララの村襲撃。
この二人が仲間じゃないと考えない方が不思議だ。
あまりにもタイミングが同じすぎる。
ただ死者はなし。
それが不幸中の幸いといった所か。
「クソ……!!」
レノアは昏睡。ケイはまだ意識が戻らない。
完璧な敗北に苛立ちを覚えるハウ。
「ハウ、らしくないぞ」
「!?参謀!!」
目をぱっちりと開かせゆっくりと起きたケイ。
傷は完璧に治っている……敵に助けられた……。
「いつ起きたんだ!?」
「お前のクソッ!で起きたよ」
「そうか……」
ケイはレノアを一瞥し、申し訳なさそうに彼女の手を握る。
「俺の判断ミスだ。あんな格上に戦う事を選んじまった」
怒りで視野が狭くなっていた為、戦う・殺す以外の選択肢しか頭の中になかったのだ。
「それは俺も同じだ」
悔しさと後悔が津波の様に押し寄せてくる、ハウだって怒りに身を任せてしまったから───。
「これからどうするかはもう決まってるよな?」
「あぁ、リサを……奪還する!」
負けた悔しさとリサとタクトを連れて行かれた怒りはある。ただ不思議と二人に恐怖はなかった。
リサ達への信頼。
あの二人が死ぬ筈ないと信じているから。




