第65話 悪神オリアーナ。最初の実演
(私の可愛い妹?私に姉どころか妹もいないんだけど!!?)
少し混乱した。妹呼ばわりされる筋合いはない。
もしかしてセイト家の親戚……
それでもおかしい話だ。
「アンタなんかが私の姉な訳ないでしょ!!」
鎌を小さくし、小回りを良くする。
その後鎌を振る事で彼女を退ける事が出来た。
「も〜うそんなにツンツンしないでよ〜…………はいつも怒ってるんだから〜」
「?」
なんだ、いつも怒ってるんだからの前に何かを言った気がするがいまいち聞こえなかった。
彼女は嬉しそうにこれからしようとする事を決めている。おもちゃで遊ぶか、一緒に寝るか…など、どこか小さい姉妹の関わり方だ。
「そんなの…する訳ないでしょ!!」
今はタクトを守るんだ。その為には……!
持ち堪えるのみ!!
リサは二本の短剣を作り出す。能力[操作]のお陰で外す心配がない。
力を思いっきり込めて『彼女』に向かって投げる。
ブーメランの様に回転しつつも無駄なく攻撃できるのだ。
「……チッ…!」
綺麗に弾かれた。何が腹立つかと言うとそれを魔力込みの素肌で弾かれた事。
「凄い凄い!!!凄いよ!…………ちゃん!!」
(また……)
ノイズがかかった様にそこだけ掻き消される。
『彼女』の能力か?それとも……?
「円満な家族になる為に、姉妹喧嘩は……ちゃんとしないとね?」
タクトにやった怖い様子など微塵も感じられずどこかあざとさも含まれる『可愛いお姉ちゃん』と化していた。
(本当に私の事を妹と思っているのだろうか。だとしたらおそらく……ちゃんとそこだけ掻き消されるのは何故……)
すると彼女は手を此方に向け、魔力が手に集まっているのを感じる。
「[水魔法・球]」
凄まじい回転量を誇る二つの水球がリサへと突進。
魔力コントロールも飛び抜けて高い!!
「ッ〜!!であッ!!」
大鎌に戻し、水球を一刀両断。彼女はまたしても嬉しそうにしている為気味が悪い。
「本当に凄いな〜!!お姉ちゃん嬉しいよ……!でもね…」
「何…?───あッ゛!?」
後ろの水球が爆発した。爆発した火力というより飛び立った水達によって背中を斬られた感触。
(爆発……背後から!)
なんとか立ち『彼女』を見据える。奇襲+威力のせいでかなり削られたのだ。
血が止まらないが肉体の端々まで魔力強化が及ぶリサにとってそれはさしたる問題ではない。
彼女の本気も実力が一才分からない事が問題だ。
魔法使いとしてはかなりのレベルにある事。それしか分からない。
(もしかしたらあの杖を取ったレインよりも…なら!!)
もしこのまま戦っても遊ばれて終わるだけ。
一つ作戦を思いついた。焦りと恐怖も武器にしてみせる。
そんなリサの心境なんて一ミリたりとも気にしていない彼女は「どう?凄いでしょ!」と言いたげな表情。
「勝負よ、知らない人」
覚悟を決める。白黒着けるのはここでだ。
「お姉ちゃんって呼んでほしいな〜?」
彼女は笑みを絶やさずにどこか嬉しそうな顔をしながらリサを見据えた。
(落ち着け。鎌に全ての力、魔力を乗せろ!!)
心の中にある余分な感情を深呼吸で吐き出す、信じるべきは純粋な勝利への渇望!
地面が抉れるくらい強く飛び出し一直線で彼女に突進。
先程の水球の様に何があっても止まらない事を意識し、彼女の前で跳躍。
「!!」
驚いた表情をした彼女を横目に全ての力を解放する。
「勝負!!」
雄叫びを上げながら真下に大鎌を振り下ろし、辺り一面の森が衝撃で酷く揺れた。
「なんだっ!?」
その衝撃と爆音で、タクトが気絶状態から回復。
辺りを見回すと砂埃にまみれ良く見えない。
「リサさんは……ッ!?嘘だ…!」
砂埃が徐々に晴れる。タクトが見たものは……
リサの大鎌を涼しい表情で受け止めた…と言うより綺麗に静止しリサの事を愛おしそうに見つめる『彼女』。
「なんで……動かない!!」
大鎌を振る瞬間、ピタッと鎌か動かなくなったのだ。
その威力を見て嬉しそうに彼女は口を開く。
「本当に凄いよ……!私が『いない間』も…一人で頑張ったんだねぇ…!」
涙が再び彼女から溢れる、妹の成長をここまで喜べるいい姉だ。
「私はアンタの妹じゃ……!」
悔しそうに呟くリサの首元に手を置くとこれはまた愛おしそうに撫でる。
「もう!イタズラ好きもいい加減に!」
軽く、本当に軽い一撃でリサの額にデコピン。
「私の名前さえも覚えていないの?
覚えて…ない。
と言うか忘れた訳じゃない!
「私の名前はオリアーナ・シェイン。あなたは…………・シェインでしょ?」
嘘だ。私が悪神の…妹?そんな筈はない。お母さんとお父さんの下でちゃんと産まれた。
もしかして私には生き別れの姉が?
いやそれでも彼女は何百年前の人。私と彼女じゃ産まれた年が全然違──
姿勢そのまま、彼女は思考モードに走ってしまった。
彼女に首から頬を撫でられていると言うのに。
「おやすみ♪」
首元に微弱な雷魔法を流し、彼女に身を任せる様にリサは気絶してしまった。
タクトはその一連をただ見る事しか……
悔しさと怒りで鼻から血が流れてくる、息も荒い。
すると彼女はリサを小さくしボールの様なものに入れ大事そうにどこかへと飛ばしてしまった。
「ッ……!!クソ…!!」
悔しさの声を漏らしたタクトを思い出したのか彼女はタクトを一瞥。ゆっくりと此方へと来る。
「あなた、妹と仲良かったよね?あの時はごめん。今治すね」
治癒魔法のタクトの肩へと治す。治療速度が異様でレノアより圧倒的に早かった。
ごめんね〜と大して申し訳なさそうに答えた彼女はタクトに背を向け、ゆっくりと歩いていく。
それを見逃すほど、タクトは臆病ではない。
「ん?」
足を何者かに掴まれる。素早く後ろを確認するとタクトが足を離さんと両手で足を掴んでいる。
「……離してよ」
冷たい一言に一瞬だけタクトの力が緩んだがすぐさま元に戻った。
「返せ……リサさんを返せ!!!」
そこに涙はない。あるのは……決意だけ!!
「もし逆の状況なら、あなたは返すの?」
「!!」
返さない。絶対に。もし咲が帰ってきたらたくさん謝りたい、一番凄いのはお前だって言ってやりたい。
「(けど……けどな!!)僕は……!!!」
もはやその目に恐怖もない。決意を灯した凡人の炎は彼女の心を溶かしていた。
「……やっぱりやめた。あなたの記憶を奪る」
諦めに近いものを吐き出す様に呟いた後、魔法か何かで手から光。徐々に迫る彼女の手。
「(奪る!?いやいやいやいやいや!!ダメだダメだダメだダメだ!!!二十秒後の僕、十秒後の僕!絶対忘れるな!!忘れてもすぐ思い出せ!!この手を…)
絶対離すな!!」
強い執念。リサとのやり取りは少なく大した友情はない。
だが、タクトはリサに一目惚れだったのだ。
タクトという男が命を賭けるのは大切な人の為に動く。
それは妹と同じ──もしくはそれ以上。
タクトの妹。咲はその強さを見抜いていたのかもしれない。
彼女の手が、タクトの顔に触れる瞬間。奥から雷光が
『彼女』の目前に迫る。
「なっ!?」
「[燃焼]」
男の雷を込めた斬撃により彼女を数十メートル飛ばした。
「タクト……状況は?」
駆けつけた雷を纏う少年、ケイ・タケダと獣族最強の男、ハウ・ゲレーロ。
───到着したのは最強二人。




