第64話 次
「付き合って下さい!!」
村中に響いた彼女の声はケイ達を驚愕させた。
ぽかんとしているハウ。
返事を今か今かと待っている娘さん。
ケイとリサの予想通りハウの返答は……
「すまん、唐突すぎる」
つっこみから入った。
周りの老人達は開いた口が塞がっていない。
絵に描いたような『王子様が姫の為に助けに来る』でハウは顔が良いし正直惚れる気持ちは分からなくもないのだが……
「俺達数日経ったらどこかへ行くから……あの……ごめん」
ケイからもフォローする。だが大して彼女は衝撃を受けていなかった。
「はい!!ハウさん!その数日だけでも私と一緒に──」
「そうきたか!!」
彼女は引き下がる様子などない。押して駄目なら押してみろ、だ。
そんな事もありながら、ケイはレノアの下へと向かう。タクトの治療を頼みたい。
ボロボロのタクトを見てレノアは驚愕し、さくっと治してしまった。
「すごい……これが魔法…!!」
嬉しそうに自分の体を見るタクトを横目にレノアにある事を聞く。
「レノアさん、『剣』との相性は今どんな感じだ?」
「……ケイ君達が帰ってくる前に私一回村の周りを走って見たの」
彼女は村の護衛をしつつも、この体の軽さを試さずにはいられなかったのだ。
「そうしたら息も切れないし体も痛くなくて……これって一体…!」
不自由が消えた事への喜びより恐怖が勝ったらしい。
彼女らしいと言えば彼女らしい。
ドライブの剣も人の様に魔力を回復できるのだ。
レインが使った神の杖と構造は同じ。
その剣にある魔力を使えるし、体に魔力が勝手に流れる。
「どうやら本当にレノアさんとあいつの剣との相性は抜群らしい…」
少しだけ好きな人を取られた気がしてきた。落ち着け、剣に嫉妬してどうする…!
「大丈夫?ケイくん?」
覗き込む様に心配するレノアに「大丈夫」と促し話を戻す。
「問題は解決したし暫くはここに滞在して村を見張る、その間に筋トレと剣技、そして…[燃焼]を使ってみよう」
剣との相性が良くても[燃焼]が使えなければあまり意味はない。
(もしレノアさんが雷を自在に操れたら間違なく前線に出向くだろう。いきなりボスの様な強敵と出会さないにしなきゃな……)
少しだけそう思ったが、これから強くなれると知った彼女の表情をチラッと見て、なんとなく大丈夫だと思った。
「リサとかハウの意見も聞いて見たらどうだ?あいつらも武器使いだし」
剣技が卓越しているログロやザルツが居れば彼女の育成も一段と良くなると思うが、今二人はいない。
ゆっくりやっていこう。目的地まではまだ時間がある。
「二人にはもう聞いたの…実はケイ君が最後だったり……?」
「……ふ〜ん」
ジト〜っとした表情でレノアを一瞬見たが、それに気づいたのか揶揄う様な目で見られ、逃げる様に部屋に戻った。
[一日目…]
「なぁ……」
「ん?何ですか?」
「お前な……俺の見張りまで一緒についてくる事ないだろ…」
見張りのシステムは、朝から昼にかけてはハウとリサ。
夜はケイとレノアが担当する。
娘さんとハウは村の辺りをぐるぐると歩いていた。
出発まで残り三日。それまでにハウを口説き落とす気だ。
「それと!私にはお前じゃなくて、マリっていう名前がありますからね!そこのところよろしくお願いします!!」
怒りながらハウにそう言うと、彼はため息を吐きながらも見張りをこなそうとする。
リサは一人で他の見張りだ。
村の中ではケイ、タクト、レノアで鍛錬。
服装を動きやすい奴に着替える。
タクトもやる気を貰ったのか筋トレに参加していた。
「ふっ………ん!!」
「頑張れタクト〜!」
腕立て伏せをしながらケイはタクトを見る。
タクトも負けじとやるが、所々休憩を挟みながらだ。
筋肉は裏切ったりしない。
現にケイは(魔力の強化抜きで)百を超えても息どころか汗も出ていない。
レノアは髪をポニテにして腕立て伏せに励んでいる。
凄いことに彼女は息を切らしても動きにブレがない。
ドライブの剣による魔力補助が大きいと思うが、それでも休憩なしでやっている。
「よし、全員休憩」
「待って、まだやる」
レノアが剣を鞘から抜き真っ直ぐに振ろうとした瞬間、ケイが止めた。
「ストップ。この三日ではフィジカルトレーニング中心。剣を振って敵を倒したいのは分かるけど今日はなしだ」
「ケイ君〜僕は〜〜」
ふにゃふにゃになってしまったタクト。勿論やる事は…
「筋トレだ。そんな一日で一気にやる必要は無いけど……まだまだ行きたそうだね」
実際タクトはまだやりたそうだ。前線で敵をボコボコにする事だけが強さでは無い。
(他にも何かできる……筈だ!!)
せめて足だけは引っ張りたく無いのだ。
「それじゃあもう一踏ん張りしますか!!」
三人は己を鍛え続けたのだった。
[二日目の翌朝]
「今日も来るのか!?」
「はい!!」
結局ハウとマリは最後まで一緒にいるのだろう。ハウの心に変化はないが、人に好かれて悪い気持ちになる人はいない。
そこに楽しさを感じている事は彼女には秘密だ。
「それじゃレノアさん、明日剣を振ってみよう」
予想より早く彼女は成長した。もはや執念の様な何かに近いとケイは思った。
「うん!……ってあれ?タクト君は?」
「俺のメニューじゃ足りないから走り込み〜だってさ」
ここら辺りは魔物が出没しない。何故だろうか。
タクトのこれからが楽しみになりつつレノアと筋トレした。
「…………ふぅ」
彼女には一つトラウマがある。
その一つは、記憶が一部戻り、家族との関係を思い出したケイ。
その暖かさと現実のギャップにより心が折れ、全てに絶望したあの顔。
(もうあの顔は見たく無い……!絶対にイヤ…!)
偶に夢に出る。もしケイ君が全てを思い出し前とは比べ物にならない程の絶望がケイ君を襲ったら?
その時彼は元の世界に戻るどころか自らで命を絶ってしまうのか…?とケイだけではない。彼の記憶がレノアの心にも闇を落としたのだ。
でももし彼がこの世界で生きる事を選んでくれたら…
という下心を含めた想いもある。
(私がやる事はきっと、ケイ君を無事に送り届ける事!!)
その為にはこの剣を使いこなす。[燃焼]だろうが…なんだろうが。
そう思うとこの腹筋も苦じゃ無い……
「わけない!!」
限界が来た。
もう腹筋が割れても良いんじゃないかと思い、昨日風呂で確認したらなにも変わっていなかった。
どうやら腹筋というものは時間がかかるらしい。
そんな当たり前な事を失念していた。自分は焦っている。落ち着け。
「そろそろ休憩だな」
水を飲みつつ、風当たりが良いところで休む。
お腹が凄く痛い。更にそこから剣を握って戦うかもしれないと思うと手が震える。
ボロボロになった彼女を心配そうに呟く。
「レノアさん、無理しないでよ」
ケイがいる、誰も一人じゃない。みんなそう思っているのだろう。
大丈夫。
そう思えるなら。きっと…大丈夫なのだ。
別のところでは全身全霊で森を走る男が一人いる。
(僕は今、森を走っている。
走り込みなんて体育の授業以来かもしれない。
妹もそんなことをしていた。
一歳下である十六歳の妹、咲。
もし異世界に来たのが僕じゃなくて咲ならきっと凄い力を身につけていただろう。
妹は去年亡くなった。
正義感の強い妹は溺れている人を助けようと死んだ。
いつも自分を犠牲にしてしまう彼女に僕は言った。
「どうしてそんなに優しいの?」って。
すると咲は「お兄ちゃん程じゃない!」と怒りながら言う。
咲に比べて自分は運動音痴。友達もいなくて、頭も悪い。親からも周りからも否定されて育ってきたと自負している。
全て僕が悪い。
外で遊ぶのは怖くて出なかったし、ゲームだって万人受けのものはしないから話についていけないし、おどおどして陰気くさい。
勉強だって頑張っても中の上。
そんな僕が今ここで何も得れないとは当然。
最初はケイ君を見て嫉妬した。やっぱりこんな人が報われるんだなって)
だが彼の中では答えは出ている。
(けど彼もきっと…苦労してるんだろうな…)
なんとなく苦労人というのが、今の彼のイメージ。
それとケイ君は目がキマッている。何かあったのだろうか。
「ふぅ…休憩!!」
木の下で雄大な自然を見ながら、水を飲む……中々の楽しさ!!
そんな事を考えていたら、肩に何かが置かれる。
「ごめんなさい。ケイという人物を知らない?」
振り向くと、背後にとんでもない美人がいた。
だがケイ君になんの様だ…?とすぐに警戒しようと思う。
馬鹿な俺だが頭を使わずをいられない。
真っ白な長髪。あのボスの髪は白という銀色だったがこの女性は白。他に色がないのだ。
「いえ……僕は知りません」
妖艶に彼女は微笑み右肩を力強く掴まれる。
「いっ!!ちょっと痛───ッ!?」
笑顔の裏にある彼女の表情を無意識に読み取れた気がする。圧倒的な……恐怖。
「嘘を吐く子は……嫌いよ」
低い声だが優しい声色に本来軽く叱る為に話す言葉なんだろうが今はただその言葉が恐らくして仕方がない。
「いや嘘なんか…!!あァァァ!!
どんどん力が強くなる。すると骨から音が鳴り始めた。
「まって……はなして……ガ…ァァァァ…!!」
それでも手を止めない彼女さ『話せ』と言わんばかりの表情。
彼女は何者なのか?もしかしてあのボスの味方?だとしたら不味い。
また村の人が危ない…
(僕ができる事は一つ…!!ケイ君達の事を……絶対話さない!!!)
今も痛みに襲われて涙が止まらないが、それだけは守ると誓う。これ以上足を引っ張るのはごめんだ!!
「ぼくは……!!そんなひと……知らない!!」
命に代えても僕は彼らの秘密を守る!!
すると後ろから足音。急速に此方に近づいてくる…?
「タクト!!」
大鎌を持ち、彼女に振りかかろうとする者。
「リサさん!!」
涙で滲んでいるが彼女の顔だけははっきりと見えた。
良かった…助かった……。
タクトは地面に倒れそのまま気絶してしまった。
(頑張ったわね…タクト!!)
根性なしな変な奴という評価は一変。
根性だけはある。誰よりも。
「アンタ誰?うちの仲間に手を出してタダで済むとは……」
リサの顔を見て彼女の表情が驚きに包まれている。
あり得ないと言った…そんな顔。
(そんなに私の介入が信じられないの…?)
そう思ったがどうやら違うらしい。彼女の表情はとても嬉しそうだった。
刹那、彼女はリサに抱きつく。
「!?(速──)」
「嬉しい…嬉しいよ!!やっと…やっと会えた…!!私の、私の……可愛い妹…!!」
リサは驚愕した。自分を妹と呼ぶこの女。
一体誰なのか?
白髪の女は心から喜んでいる。
半端者のダラケ方は削除しました。
両立は流石にしんどかった…完結したらやろうと思います




