第63話 剣士二人
殺し合いが始まろうとする時、ボスである彼女は突然語り出した。
「戦う前にボクの名前くらいは聞きたくないのかい?」
「結構だ」
どうでもいい。
「ボクの名前はララ・オーシャン。組のボス」
ケイの意志を無視して彼女は答えた。今重要なのはこいつがどれくらい強いか。それだけだ。
「[燃焼]」
「ッ……!」
雷がララを襲いその一撃をちゃんと剣で受けた、ほぼ反射神経による防御。冷や汗が彼女の頬に伝う。
「よっと!!」
力任せな反撃。剣を振り終わる所にケイはいない。
ビリビリとした殺意が背中にダイレクトに襲われるる。
(背後──!)
剣を地面に突き刺し、ケイの攻撃を受け止める。
ガキンと甲高い音が響く。
「!?」
剣を支柱として片手だけで自身を支え彼を蹴り飛ばした。
(剣術は大した事はないが素の身体能力はピカイチだな)
剣術や反応、パワーはピンキリ。
だが体を動かすセンスはどうやら飛び抜けて高い。
(恐ろしいのは身体センスに引っ張られ他の基準のレベルが上がる事!!)
手早く潰せるか………?
「どうした?来ないの?」
わざとらしく挑発した彼女に答える様、魔力を剣に込める。
「[斬]」
魔力を斬撃として飛ばす、屈んで避けられたが。
ログロの残刀と違うのは魔力による発動タイミングが読めてしまう事。
今のケイは本能が『剣に雷を込めるのはやめろ』と訴えかけてくる。
手甲剣が[燃焼]の雷にに耐えれていたのか不明。
(少なくともこの剣は耐えられないだろうな)
魔力で作ったこの剣。
どこか空っぽにも見えるのか不思議だ。
「こっちから!」
背後から奇襲。剣で受け止めようとするが──
「……チッ!」
折れた。
血飛沫がララの顔に付く。胸を思いっきり斬られたのだ。
「ッ…グッ…!!(魔力である程度は防げたが、血が止まらない……)」
変幻自在の彼女の攻撃。恐らく魔力を込めた膂力やスピードは大したことはない。
しかし、肉体のどこをどう使えばパワーを上げれるか加速できるかをララは知っている。
「君も知ってると思うけど戦いというのは零か百じゃない。五十五で殴ろうとか二で受けようとかそういう選択肢もある」
『柔軟』
彼女にぴったりの言葉だ。
(これが『英雄』?拍子抜けにも程があるな)
ため息を吐きながらどんどんケイのもとへと近づいてくる。
ケイの目に恐れはない。
その状況を指を咥えて見るしかないものが一人。
(クソ……ケイ君が!!僕のせいで…)
タクトは足を折られ、体中の骨を折られた今体が一切動かない。
(なんか……何かできないのか……!!)
痛い。痛くて涙が止まらない。
けど、この怪我より自身の調子に乗った行動でケイ達の足を引っ張ってしまったその罪悪感と情けなさがタクトを襲っていた。
(本当に……僕は『凡人』なんだなぁ)
勘違いしていた。この世界に来れば自分も特別になれると。
地球だろうが異世界だろうが変わらない。
みんな努力しているのだ。
凡人とかそういう物ではない。
(咲みたいに……かっこいい人にはなれなかったよ…)
悔しさで涙が押し寄せてくる。ケイ君も僕も死ぬ。
するとここでタクトはケイと目があった。
涙でボロボロの表情だったタクトを見て、ケイは軽く笑う。
「なんつ〜顔してんだよ。言っただろ?お前は間違えちゃいない。とね」
「!!」
ケイの目の前に剣が突き刺さる。その剣の光沢は美しく惚れ惚れとしてしまう。
「ケイー!!!そんな奴ぶっとばしちゃいなさい!!」
上からリサが大声でケイを鼓舞。隣にいたハウは耳を塞いていた。三階からの援護である。
「気づいていたのか……!」
苦笑いをしながら、ララが答える。
「剣の量産に賭けたんだよ」
おそらく、今目の前にある剣がコピー元。
奴が持っている剣が複製し改造した剣なのだろう。
(さっきの二人は地下に向かった筈、いくら隠密に地下を上がってもボクの監視から逃れるなど……)
「お前さっき、つまんなそうにしてたよな?こっから先が正真正銘……殺し合いだ」
ララの思考を消し、ケイが彼女に剣を向ける。
宝剣と呼ばれているのなら……!!!
「[燃焼]」
全身、そして『剣』に雷を纏う。期待通り剣は雷を耐える。
(来る───)
さっきとは比べ物にならない速度。背後ではない。
(もう……いる──)
ララはギリギリで剣で受けたが、壁を貫通し外へ追い出された。
「いいね、良い気分だ」
[燃焼]を制限して戦う必要があった為、力を全て解放できたことにより気分がいい。
これがアドラス、ドライヴ、レインを斬った業。
[燃焼]の本領である。
「凄い………凄いなぁ」
タクトから溢れたのは感嘆の一言。
英雄なんて呼ばれているんだ、きっとどこかでRPGの勇者の様に死線を潜り抜けてきたのだろう。
「ふふ……いいね。やっぱ君は英雄だよ!!ボクが甘かった!!」
嬉しそうに答えるララが剣を構えながら此方へとゆっくり歩いてくる。
(生きてるのか!!)
声こそ出ないがタクトは驚愕した。ケイはさして驚いていない。
「ふふ……ははは……楽しい……ボクは楽しいよ!!あはは!!」
「……(うわ……)お互い小手調べは済んだろ?これ以上の幻滅はないと約束しよう」
ケイの体から雷が流れる。血液の様に流れる雷を見てララの表情は更に笑顔に包まれた。
「いや」
彼女の表情から笑顔が消え、剣を鞘に仕舞う。
「は?」
「ここで君と全力でやりたい気持ちはある。けど、ボクの目標の為にはここでやるのは違う」
表情を消したが結局彼女から笑いが溢れている。
すると彼女は剣を凝視して小声で呟いた。
「もっとこの剣の理解を深めなきゃ…ならないからね」
その言葉はケイには聞こえなかった。
実のところ彼女は剣を握ってまだ数日。
基礎を深めたいという意志があるのだろう。
「んじゃ、バイバイケイ。また会おう!![煙]」
剣を地面に突き刺すと白煙がアジト全体を覆った。
「……バーカ」
背後からララが斬りかかる。先程のお返しと言わんばかりの……愚策。
ケイは腰の捻りを加えて背後へ剣を上に振るう。
一度だけドライブがやっているところを見ていた。
今ならできる。
「ッ!!??」
ララも体を捻り腕を犠牲にして退散。
煙が消えた時に地面にあるのは気絶させた男達と唖然として表情でケイを見るタクト、そして彼女の右腕だ。
(利き腕を斬ったと思うが……剣は回収したか)
少なくとも彼女は撤退した。玄関の扉が開いているしひとまず今はこれで良い。
「タクト」
「はいッ!!あ……いつつ……」
怒られる寸前の子犬の様な表情をするタクト。成程、みんなからは俺がこう見えていたのかと思ったケイだった。
すると階段からリサとハウが降りてくる。
「捕まっていた人達は村に返した。ボスは反対方向へと逃げてたったよ」
「見えたのか!?」
驚いた様子でケイは答える。
するとハウは自身の目を指差した。
「俺の目は特別だからな」
自慢げに語るハウを横目に、リサはタクトの額にデコピン。
「いたっ!!」
「取り敢えずこれでチャラ。まぁ…あんたの言いたいことも分かるしあんたが死ななかったからそれでよし!!」
屈託ない笑顔でリサはタクトに笑いかける。タクトの表情はどこか嬉しそうに、どこか…悲しそうにしていた。
臨時担架を作り、ハウとケイでタクトを運びつつ村に戻る。
「あの゛……」
無理やり話しかけようとしたタクトに黙る様促すがそれでも聞きたいとの事。
「どうやって地下から三階まで上がったんですか?」
リサとハウに目を向ける。
「そんなの簡単よ」「そんなのは簡単だ」
「「ぶっ壊した」」
二人はハモりつつ、衝撃な一言を話した。
地下から地上にかけて技を放ち穴を開け、せこせこと登り、ララにバレない様に三階へと行く。
すると宝剣がわかりやすく刺さってあったからそれを上から渡した…というわけだ。
「宝剣の『量産』は失敗した様だが、『複製』と『改造』には成功した様だな」
ハウがそういうと、捕まっていた人たちにも話を聞いたらしく、その人達によると魔力を徹底して吸い取られたらしい。
魔力を吸い取ろうとする奴に碌な奴はいないと改めて悟ったケイだった。
「その『魔力』って…僕にも……あるんですか?」
「ない。あんたから全然感じない」
リサが即答。転移者だろうが転生者だろうが魔力はあると思っていたがこういう例外もあるのかと三人は思う。
残念そうな顔をするタクトだった。魔力なしには強くなる方法なんてない……のか…?と絶望が読み取れた。
「まぁなんにせよ、死人が出なくて良かったよ。ホント」
そんな事がありながらも四人は村に帰還。
先に帰っていた人達は老人達と嬉しそうに抱き合っている。
そんな様子を見れてケイはどこか救われた気持ちになったが心の中に留めておく事にした。
「あ……あの!!」
この人は先程救った村長の娘さん。ボロボロな服を着たまま、ハウをじっと見つめる。
「どうした?」
「あの………付き合って下さい!!!」
頭を綺麗に下げる。
一目惚れ……レベル100。恐ろしや……
ララの顔はお姉さんと言うより童顔のイメージでお願いします(過激派)




