第58話 美しい依存
「…どれくらい寝たんだ?」
知らない所でケイは目が覚めた。頭痛と気分の悪さが酷く、寝た感じというより時間が経った感じがする。
「…………母さん、父さん…か」
『親』がこれ程重みになるとは、この世界に転移したての時は決して思わなかっただろう。
すると奥の扉が大きく音を立て開いた。
「ケイ!!今日は俺だよ……」
「…………」
ブレイが驚いた表情でケイを見つめる、ケイも突然の事にフリーズした。
ハッとケイの意識が戻り、ブレイに問う。
「……『今日は』?事件から俺はどれくらい寝てたんですか?」
するとブレイは冷静に指で寝た日数を逆算し始める。
少し時間が経った後、衝撃な事を話した。
「ん〜ざっと一週間って所かなぁ?」
「一週間!?そんなに俺は…いっ…」
体中が痛む。レノアさんによってある程度の怪我は治してもらったがやはりまだ完治していない。
アドラス、ドライヴ、レイン。
この三人と戦ったんだから妥当か……
(むしろ目立った後遺症がなくて良かった)
ケイのお目覚めに心から安心した様子でブレイは椅子を持って近くに座り出した。
「俺達は国を救った英雄だ。最初はログロが授与式やらん〜って言ったんだけど、今世界情勢は大混乱よ!数多な国から指摘指摘指摘!!様々な管理運営が問われてな〜」
あ〜可哀そ!と呟いた後ブレイはそのまま続ける。
「『英雄』とのコミュニケーションも取れずに何もかも知らぬ存ぜぬじゃまずいだろ?それに同情したログロが俺達を連れて授与式に出掛けたんだ」
その後の事を笑いながらブレイは話す、そんなに面白い事があったのか。
「まず俺とログロが完璧に決めて大勢の前で大拍手をもらったんだが、リサちゃんが階段に登る前でおおごけしやがってな……ガチガチに緊張してたリサちゃんの転ぶ直前の顔が……頭から離れないのよ!!」
彼は笑いを堪えきれずに吹き出してしまった。
その後の事は大方想像がつく。
突然ブレイがケイの耳元で語る。
「実はケイの看病誰が良い〜ってログロが聞いた時に真っ先に立候補したのはレノアちゃんなんだぜ〜?
ま、パーティメンバーが増えるかもしれないから交代制になったんだよ〜」
突然の言葉、突然のセクハラ。その言葉にケイの顔に熱さを感じるも抑える。
ケイから顔を離し、ブレイが真面目な表情となる。
「ケイ、俺達ギルドが裏社会の入り口近くで奴隷と思われる人達を保護したんだ」
ケイの表情が僅かに曇る。裏社会での出来事、後悔を思い出したのだろう。
「お前の罪はきっと…死ぬまで消えないだろうな、だがな!お前は救ったんだよ!あの人達を!!」
彼はケイの肩を掴みぐらんぐらんと揺らして話す。
そうだ、己の怒りに身を任せただけではない。
助けたくて助けたのだ。その感情にブレはあって欲しくないとログロ達は思っている。
「お前達がいなかったら、多分何も出来ずに俺達は死んでた。本当にありがとな」
そう言い、ケイの頭を撫でる。恥ずかしそうに少し頬を赤めるケイだったが父親の事を思いだし彼が止めるまで抵抗をしなかった。
「今みんな買い物中だと思う、どうだ?みんなに会いたいか?」
今の精神状態を踏まえてブレイは心配してくれてるのだろう。
心の病とかそう言うものはこの世界にはハッキリと明言されているものなどないのにここまでの配慮、
大人として完璧だなぁとケイは思う。
「はい。みんなに救われたんで」
笑顔で答えるケイに安心したのかブレイは立ち上がり笑ってこう思った。
(ストライド、ロズちゃん。心配しなくても良さそうだぞ…本当に…な)
扉を閉める瞬間、鼻をすする音が聞こえた気がするが気のせいだろうか。
こうして数分、待っているとドタドタと階段を上がる音が聞こえた。
ここ二階か。と少し思ったケイ。
「ケイ!!」「参謀!無事か!?」
リサ達は息を切らしながら心配そうにケイに聞いた。
「俺は無事だ、大丈夫」
優しい声色で答えるとほっと胸を撫で下ろした様子だ。
「それと、ハウ」
「どうした?」
「俺は……参謀は向いてないや、みんなの様にケイって言って欲しいかな」
レインとの戦いでしみじみと感じた事、誰よりも早く折れたのはケイだったから。
「それでも俺はお前が参謀だと思う。お前が俺を信じているのと同時に俺もお前を信じている」
参謀呼びは止めるつもりがないらしい。軽く笑ったケイにつられてリサはハウの背中を叩く。
「お腹空いてる?もう何日も食べてないからね」
リサが言うに無理やり体の中に柔らかいものを流し込んでいたらしい。申し訳ない気持ちになってきた。
「今からログロさんと私とザルツ先輩でお昼ご飯作るんだけど……何か食べたいものはある?」
「…………今は取り敢えず何かを口に入れたい気持ちかな」
空腹か。と言われたら違うがどこか口寂しい。
「そっか。んじゃ!期待して待っててね〜!!」
彼女はそのまま走って一階へと向かった。
無理するなよと言い残し、ハウも一階へと続く。
すると一番気まずい人が扉をゆっくりと開けた。
「ケイ君……起きた?」
「……うん」
恥ずかしさ申し訳なさで顔が見れない。
あの時気絶する寸前まで大泣きしたケイはレノアの肩をビシャビシャしたという記憶がある。
椅子を持ってちょこんと座ったレノアに何を言えば良いか分からなかった。
気まずい。先程からレノアがきっとバレない様にとしているのだろう。
此方をチラチラと見ているがバレバレだ。
よく女性が男性の視線に気づく…なんて言うがまさにその状況。
話しかける男気はない。
だからと言ってこのままにしておく程の勇気も無かった。
「あの…レノア…さん。肩…ビシャビシャにしちゃってごめん」
断じて鼻水はかかっていない。これだけは断言できる。
するとレノアの顔が赤くなりボソボソと呟く。
「私も…ケイ君の肩…涙と…は、鼻水も……」
いやいや此方こそすみません、いえいえ私こそ…と頭を下げ合って二人。
その光景が可笑しくなり、二人一緒に吹き出してしまった。
するとレノアがはっとした表情を浮かべ言葉を紡ぐ。
「えっと…ケイ君の怪我なんだけど…私でも完治できなくて…」
申し訳なさそうに答えるレノアを宥め彼女は続ける。
「多分ドライヴ…さんの雷がケイ君を蝕み続けたんだと思う。雷はなんとか取り除いたんだけど完治するには時間がかかる…かな」
(あの野郎。最後の最後まで俺に爪痕を残して行きやがった…)
ドライヴに対して怒りが湧いたが、死んだあいつにいつまでも固執すると地獄に行った時奴に笑われると思い、怒りを鎮める。
「ま、ゆっくり待つさ」
勇気を出してレノアの方を見るとどこかもじもじし、顔が再び『赤』に染まった。
「あの…ケイ君…みんなから聞いたんだけど…」
顔がみるみる赤くなるレノアに?マークをケイは浮かべる。
「依存するって…どう…依存するの?」
「なっ!?」
レノア程ではないがケイの顔も赤くなる。そう言えばそんな事も言った。
(あまり深くは考えていなかったが…きっと…俺はこう思っている…多分…)
ケイは口元を毛布で隠しながらボソッと呟く。
「……それはただ……い、一緒にいて欲しい……です」
「ッ!!」
その破壊力たるや、レノアはそれによってやられた。
ケイらしくない女々しい仕草だ。冒険中の時は違う、ビショビショになった子犬の様な感じ。
レノアのせいでケイの弱みはどんどん明らかとなる。
今、ケイは依存している。
それはレノアだけではない。
みんなに…だ。
みんなならこのセクハラの意味。
分かるよな?
(分かり辛かったらすみません)




