第55話 俺達が
五月病レベル100のケイ。
このままの状況であれば確実に負ける。
もしレインが住民の魔力吸収に成功すれば、奴の思惑通りに全てが進んでしまう。
それだけは避けたい。
分かっている。
分かっているのだ。
だが、ケイの体は動かなかった。
強爪が折られた時もかなり動揺したが……
まさかここまで圧倒的に自分の武器となる[燃焼]もその一撃も、雑な防御に全てを上回られた。
先程から、体が震えている気がする。
(まだ負けてない……俺は………まだ……)
このまま体を動かさずにしていたらどうだろう。
奴がトドメを刺しにくるのだろうか。
何故自分が戦っているのか、何を信念にして今まで生きてきたのか分からなくなる。
曖昧となり中途半端に抜け落ちた記憶が神の四天王を倒す事により蘇ると知った時、自分は戦い続けなくちゃいけない事を悟った。
帰る方法もまだハッキリとせず、ただ戦いに身を投じる日々。
魔物を倒すだけではなかった。遂に人までも殺した。
その背景を人に伝えれば良くやった、正しかったとむしろ賞賛を上げる人がほとんどだろう。
魔法使いの才と戦士の才はどちらも得られず、記憶も抜け落ち、人を殺した。遂には人としても半端者になってしまった。
(背負う…背負う背負う背負う背負う背負う背負う背負う背負う。背負う?なんだよそれ……)
動け。
ただ剣が破損しただけだ、すぐさまに剣を作り戦え。
本能がそう詰め寄ってくる。
(俺は……もう……)
どうして……どうして人なんか………
異世界という環境に身を投じ、異なる価値観と不思議な力。そんなのに照らされ続け自分は慣れたと思った……思っただけだった。
(こんな事間違ってる……考えちゃ…駄目なのに…)
他の人達より更に不思議な力を持って悪者を倒してみんなからヒーローとして扱われたい。
色んな人と話して認めてもらいたい。凄い、カッコいいって。
力には責任もついてくると言うのは本当だった。
今ケイの手で救えた人間はどれくらいだろうか?
そもそもいたのか?
でも、そんな俺と一緒に背負うって言ってくれた人。
(レノアさん………)
太陽みたいに眩しくて誰にも優しい人。
俺が……好きな人。
───私にも背負わせて?
でももし一回、たった一回でも頼ったら依存してしまいそうな気がした。
彼女がいなくなったらどうなってしまうのか分からなくなる。
そんな感じもした。
(不安に包まれる気がしたんだよ……レノアさん)
俺みたいな奴が救われて良いのか分からないよ……教えてよみんな……
「誰か……戦ってる?」
リサもハウもザルツ先輩も誰も戦えない筈……じゃあ誰が……?
瓦礫の隙間からゆっくりと覗く。
そこには驚く光景がケイに移ったのだ。
みんな、戦っている。
レインの動きがどんどん鈍くなっている様な気がする。あの武器の代償か?
「どうして……みんな……」
あんなのに戦えるんだ?どうして………
戦いの最中。少し離れたところでレインは死にそうになりながらも叫ぶ。
「何故ここまで戦う?ケイはとっくに折れているのだぞ!?何故!?何故なんだ!?」
強大な敵に立ち向かう時、それはシンプルな感情なのだ。レインはそこを理解していない。
「アンタなんかにケイを語る資格はない!」
リサがそう叫ぶとハウが続ける。
「うちの参謀は頭がキレるんだ。今丁度お前を倒す準備が整ったって所かな」
その言葉に軽く笑いつつ、ザルツも言葉を紡ぐ。
「あいつがいなきゃ、始まらない冒険にあいつが逃げる?僕が見たケイはそんな人間じゃないと思うけど?」
三人のその様子を見たレインは少なからず感銘を受けていた。
ここで衝撃なひと言を放つ。
「良いでしょう。決着が着くまで私は住民の魔力を吸収する事を止め、あなた達をここで叩き潰す。そうする事にしましたよ!!」
狂気的な笑みを浮かべたレインに一切屈する事なく立ち向かう三人。
ケイは戦闘音でそれこそ聞こえなかったが、何故だか三人が言っている事は伝わってきた。
「………良いのかな。みんなに頼って」
こんな重たいもの、みんなも背負ってくれるのかな。
これを預けたら、みんなに依存してしまう。
「レノアさん、ハウ、リサ、ザルツ先輩……それじゃあ………本当に少しだけ……任せます」
雷を纏い始める。どの燃焼よりも早く丁寧に。
「[燃焼]」
ここでレインよりも早く、リサ達が気づいた。
ケイの思いに。
「リサ避けろ!!」
ただそれに気を取られてしまった。
「しまっ──」
見たのは杖でリサの腹を貫こうとしているレイン。
ここでリサは敢えて受ける事にした。
「ッ……グッ!!」
痛みに耐えながらも杖を掴み必死に抜かれないようにする。
(そんな力じゃこの杖を留める事は───ッ!)
抜けない。
リサの才能。
それは魔力コントロールの精密さ。
本来魔力による身体強化は『腕』や『足』など大雑把な強化。
だが彼女は死に際に掴んでいたのだ。
魔力コントロール奥地。戦士として一段階上の存在に近づいていた。
何故杖が抜けないのか?
答えはシンプル。
腹、並びに血液。更にはその細胞まで魔力による強化がいき届いている。
(これは理屈じゃない!私は天才だからね!!)
狂気的な笑みには狂気的な笑みを。
彼女はレインに笑いかけながら凝視する。
「繋げたわよ。ケイ!!」
高らかに叫ぶリサ。
レインの背後には………
「!!」
雷を纏い、レインに殴り掛かるケイの姿。
「仕切り直しだな」
雷を纏った拳をレインの腹に全力アッパー。
「ガァァ……グッ…!!」
動けなくなった所を蹴り飛ばし、距離を離す。
「………少しだけみんなに依存するね」
ケイはあまり見せない涙目と微笑みで三人に話した。
「ああ!」「ええ!」「かかってこい!」
元気よく三人は返し、漸く今度こそ最後の戦いが始まる。




