第51話 複製、始動。
レインが掲げた夢。
それはオリアーナへの宣戦布告だった。
「彼女は討たれたのではなかったのか?」
少しの動揺を隠しながらハウはゆっくりと奴に問う。
レインは簡潔に話す。
「討たれた?違う…!彼女は今も何処かに生きている」
現在は神暦三百二十四年。レインは肉体を改造し今も生きている。
「忘れもしない……!私は二百年前、彼女との戦いに敗れた!!魔法の高みを……頂点を見た!!」
奴にあるのは復讐心でもそこからくる憎しみや怒りでもない。
ただ彼女に並びたい。
魔法の高みへと登りたい。
そんなシンプルな…狂気にも近い向上心が今の原動力なのは間違いない。
「私はあの『高み』へと登りたい!!神レベルの強さは果たして世界がどう見えるのか…!!圧倒的な孤高!!それが私の……『夢』なのですよ!!」
間に息を整える事もなく、全ての酸素を使用し夢を語ったレイン。
ここまで奴が言葉に感情を乗せた事があっただろうか。その異様な光景にケイ達は絶句した。
まだ奴にまともなダメージも入れられていない所が今の問題。
ケイはここで頭をフル回転させる。
(ハウをこのまま戦わせたら間違いなく潰れる。リサと俺でなんとかするしか…)
そんなケイの様子を見て、ハウがケイの肩を叩く。
「参謀。俺の体を信じろ」
「………ハハ…すげぇなぁお前」
ハウの目も通じず、先程からの攻撃も全て弾かれ戦士の一人は重症というこの状況でそのセリフが吐けるのかよ。
ケイの思考がクリアとなり、ある策が思いついた。
「ハウ、リサ、奴は最初に蹴り飛ばした時と比べて筋力が恐ろしく落ちてる。魔力での強化でやっと戦えている状態だ。だから……一気に力任せに攻撃すれば奴の弱い所が顔を出す!!」
「随分とシンプルね…!」
リサが面白そうに呟くと、ハウも軽く笑う。彼らしくない…と言ったら変だが思ったより頭の悪い作戦だった。
「作戦名『絶対止まるな』だ。行くぞ!」
今度は三者、同じ方向で散らずに攻める。
柱も針もまとまっていれば余裕が生まれた。
「[燃焼・斬]!」
柱ごと雷の斬撃で切り裂いて行く。
「[土魔法・壁]」
圧倒的な強度の土壁を用いて、斬撃を弾いた。
相手の攻撃をできる限り避けようとしないのが今の奴の状態だ。
柱との両立。
ある程度の攻撃が変わらず此方へと来るが大した問題ではない。
「一閃ッ!!」
リサの大鎌による一振りはかなりの一撃。
ハウはケイ達の後ろに構える。
このまま押し切る!!
「[燃焼]──」
雷が全身に回る前に、レインが一言──呟く。
「[風魔法・斬]」
自然物を利用しない限り本来打てない筈の風魔法。
当たり前だが、奴は簡単に使えるのだ。
「避けろ!!」
ケイの一言に、二人は低く屈み避ける。
無数の小さい風──かまいたちがケイ達の頭上を通り過ぎた。
ここでハウには疑問が浮かんだ。
(強力な魔法を簡単に扱える筈なのに、絶え間なく打つ事をしないのは……何故だ?いや、もう確実に……コレだろ!!)
ここでハウが声を荒げる。
「参謀!!リサ!奴はおそらく魔法の威力に体がついてきていない!このまま耐え忍ぶ事に意味はあるぞ!」
「!!」「なるほど!」
二人は合点がいった。
一回魔法を放った後の物量は中々だが、次唱えるまでの間は確かにあった。
何度か[柱]や[壁]によって無理やり唱えていたパターンもあったがもしかして……
レインの表情に揺らぎはない。だが、レインのそこ心中は間違いなく揺らいでいる事が空気の揺れで分かった。
(………あの獣人…!気づいたか。複製の方を強化する為に私が磨き続けた筋力の殆どを捧げたことに……!!必要以上に私はログロとブレイを警戒し過ぎたのかもしれない)
戦闘開始から今に至るまで、おおよそ十五分辺り。
魔力だけ満ちていても肉体が弱くては制限が付いてしまう事はレノアが証明している。
(今はさっさと彼らを殺す事に尽力する……!!)
このまま攻められれば間違いなく、負けるのはレインの方。
レインは複製に指示を送る。
『ログロとブレイを殺し、住民から魔力を奪え」と。
[一方ログロ達は………]
「……もう終わりか?」
壁にめり込み、倒れている複製を見てブレイは拍子抜けと言わんばかりの声を出した。
二体一でボコボコにしたのが申し訳ないと思う程に…弱い。
「住民に触れ魔力を奪われるのはだけは避けたい。今のうちにトドメを刺すぞ」
ログロが剣を振り上げ、複製の首を両断しようとした瞬間。
複製が顔だけを此方に向け、じっと見つめた。
それに嫌な予感がしたブレイ。
「ダメだログロ!!」
ログロの腕を掴み近くの家へと転移。
彼の予想は正しく、先程の場所は爆発していた。
「本気と言うわけか」
ブレイがそう呟いた時、二人は陰で覆われる。
振り向いて敵を知覚するにはもう遅い。
複製が両腕を振り上げ家ごと破壊。
「ッ!?(このパワーはなんだ…?)」
なんとか避けた二人だったが、複製は止まらず、ログロの方を見た。
「ガァァ…!」
声を荒げながら、拳を振り上げログロの剣と衝突する。
「…ッ!!!」
少しだけ押し合いになったが、力勝負に負けログロは家の奥へと吹き飛ばされる。
「ログロー!!!」
心配している場合ではない。複製が命令を執行する為にどんな手を使っても殺しにかかる。
「ガァァ…!!!」
拳を大きく振り上げブレイに殴りかかる。
[転移]で複製の真横へ避ける。
「こっちだよ」
複製の頭を蹴り飛ばし怯ませた。
その隙を逃す筈がない。
ブレイは戦士ではなく魔法使い。
だが、あまり魔法は使わず近接戦闘と能力のみで敵を葬る。
体術だけなら彼を上回る者は少なくともケイ達からパーティを組んでから見た事がない。
「アァァァ!!」
複製の裏拳を姿勢を低くして躱す。そうしてその姿勢のまま拳に力と魔力を込める。
「残念でし……た!!!」
適当な反撃によりガラ空きとなった腹部にアッパーカット。骨が軋む音が聞こえた。
「(このまま畳み掛け…)ッ!?」
なんと痛みに屈さずに蹴り上げで反撃。レインが作った息子とは違う、そこに意思や感情はない。
あるのはただ一つ、命令の遂行。それだけなのだ。
しかし、ブレイの能力は転移。
(殴られるまでの一瞬で転移は使えんだよ!)
複製より頭一個上で転移して踵落としを狙う…が。
唐突にブレイの方へと振り向く。
「何ッ…!グッ!?」
ブレイの足を掴み地面に叩きつけようとする。
転移発動より速くする事は出来なかった様だが。
少し遠くの家に転移し、掴まれた足を確認する。
「危ね……」
思いっきり掴まれたせいで足が赤くなっていた。
後数秒遅れていたら足の骨も体もボロボロになっていた。
[転移]は使う事に肉体、魔力の代償はない。
ただ、転移するには、
『具体的なイメージができる所』
『残り転移回数が分からない』
というそこそこ大きな制約がある。
(次の[転移]が使えなくなって、無防備のまま大ダメージを貰う可能性だってある。今の俺は調子が良いからまだ行けそうだけど……少し怖いな)
そのリスクと向き合いながら戦うのは心も体もしんどい。
実際今も此方へと向かってくる複製。
「だから…仲間と協力すんだよな。んじゃ!よろしく」
複製はブレイの後ろにいる存在に気づけていない。
彼は後ろにいる男に託す為、深くしゃがみ込む。
「[残刀]」
虚空に剣を振るうと空気が揺らいだ。透明な斬撃が複製の胴体目掛けて飛んでいく。
だが、複製は右腕を先に出す事で胴体の切断を避けた。
「…チッ(右腕を犠牲にして、軌道をずらしやがった…)」
複製は雄叫びを上げ、完全に戦闘モード。
「なんでこんなに強くなっているのやら」
ブレイがため息を吐きながら軽く呟いた。
「本体の命令で魔力かなんかを送り込んだのだろう。来るぞ」
二人がやる事はただ一つ。
住民の魔力を奪われない事。
それだけだ。




