第49話 レイン・アルカディウス
ザルツ。そしてレインは交戦中。
無駄に高いこの城でケイ達が登ってくるには時間がかかる。
なら今する事は?
簡単だ。出来る限り能力を暴き、時間を稼ぐ事!!
(僕の役目を……全うしろ!!)
炎剣でレインに斬りかかる。
が地面から生やす土の塊に塞がれた。
リサを追い出す為にも使用していたあの塊。
あれはなんだ…??能力……それとも魔法??
何かを呟いているのは分かるが、攻撃の音でかき消させれ、いまいち良く聞こえない。
「!!」
四方八方から塊。
体を横に捻らせ、回転斬り。
塊を全て切断した。
(強度と威力は微妙だが、速度はかなりだ…!)
事実、炎剣で豆腐の様に切断こそできる。
が……このままじゃ魔力を消費だけして終わる。
「……なら攻めるだろ!!」
レインの前に接近。
十五本は優に超える数がザルツの目の前に。
「落ちろ。[強化]!!」
塊が全て地面に撃墜。指定した場所にとてつもない負荷をかけたのだ。
「おぉ」
レインは呑気そうな声を出す。
これを使うのは学園試験ぶりだ。
魔力総量が増え、継続時間も伸びた。
(このまま……やる!!)
炎剣が奴の首元に迫る。ここでやっとレインの魔法が明らかになる。
「伸びろ。[土魔法・柱]」
先程の塊が地面から天井まで垂直に伸び、ザルツの剣を防ぐ。
鋭い金属音が、部屋中に響いた。
強度も好きに設定できるのか!!
「ッ……!」
あまりの強度に体が反動で弾かれた。
そこをレインに突かれ少し吹き飛ばされる。
ザルツが少し息を切らしたところにレインは話しかけてきた。
「別に無理して戦う必要はないのでは?確かに今の私は能力が消失しています。ですが、それでいてあなたが勝てるとは到底思えません」
興味が無さそうにレインは続ける、
「あなたは確実に強い。確実だからこそ面白くない」
「能力といい、本当に僕の事を舐めてるな……」
わざわざ喋る必要が無いところも話しているのは勝ちへの確信か、油断か……?
「もしまだ余力を隠しているのなら、是非出してもらって構いません。それが私の夢に繋がるでしょうから」
『夢』という単語を話す時、奴の表情はとても穏やかだ。
「この夢をあなたに話す気には……なれませんね」
もしかして挑発か?それに乗るつもりはないが……
このまま戦ったところでジリ貧なのはそうだ。
(使うか……?でも時間稼ぎという点においては得策では無い)
ノア戦でも使った能力である身体強化。
魔力切れが起きる以上、やっぱり使うべきでは無いか。
「あなたの本気は見たい。ですが………今の状態で難しいでしょう?」
「まぁな!!」
少し苛立ちを含めてザルツは返す。
「それじゃあ少しお喋りましょう。あなたには私にとって様々な疑問があるでしょうし」
ザルツの返答を無視して、レインは続ける。
どちらにせよ、時間稼ぎをするという目的は達成できている。黙って聞こう。
「まず、あの偽物のレイン・アルカディウスは、主催者を乗っ取り私の魔力を少しだけ植え付けました」
「入れた?」
レインは皆まで言うな、と言いたげな表情だ。
「私は自分自身を改造し、魔力の……言わば性質を弄り回す事に成功しました。本来は使えない魔法を使える様にする為でしたが……思わぬ付属品に恵まれたのです」
教師が生徒に教鞭を取るかの如く、淡々と自身の実験の成果を話すレイン。
「偽物のレインと貴族達には私の魔力を植え付け、どうなるか観察。あなた達の様な変数には驚きこそしましたが問題はありません」
ん……?待てよ、もしかして奴と僕らの目的が同じと言ったのは……僕らが貴族達一人一人を観察していた事を同じと言ったのか!!
(相手は相当の観察眼も持ち合わせている様だね……僕らの観察も甘かったと思うけど)
より一層、レインの警戒が増した。ノアとは違うベクトルの怖さと強さに冷や汗がザルツの首筋を伝った。
「改造魔物は私の傑作。ですが……心を付けたのは失敗しましたね、私の寵愛を求めたり、殺意を抱く者をいた」
アドラスとドライヴの二人を思い浮かべながら、レインは更に語る。
「おっと、魔力の話でしたね。私の魔力を植え付けられた者は鋭い拒否反応を示す、そうして……死ぬ。」
「……………!!」
「安心して下さい、それが効くのは戦いに無縁な者達なので」
ザルツの一瞬の恐れを見抜き、にこやかにレインは答えた。
「魔力を変質させた理由は大きく二つ。
一つは、先程も言った通り使えない魔法を使う為。
二つは……他者から魔力を吸い取る為」
「何っ!?」
もしかして外では何かが?………でも何故?
「今は国民から魔力を吸収前の儀式。と言った所です。吸収する為には、制約として人に触れなくてはなりませんが。貴族達は失敗例と言った所です」
まだケイ達は来ない。黙って聞こう。
もしかしてまだ何かがあるかもしれない。
「この計画を成功させるには魔力の性質を井戸水に合う様に変える必要があり、これに一年。私がこの国の支配に二年。改造魔物を作る事に一年。計四年。
掛かりました」
先程の笑みから一変、苛立ちを含めた男の表情。
そのかわり様にゾッとした。
「井戸水?どう言う事だ?」
突如出てきた言葉に戸惑うザルツ。その表情を見たレインが呆れたと言わんばかりの顔で補足し始める。
「国民が水を汲む時、何を使いますか?この国では井戸を使うんです。そこに私の魔力を注入すれば国民全体に流れるでしょう?」
そこに時間がかかったのは事実。だがわざわざ表舞台に立たなくとも国民全体を支配できるにはその方法が一番簡単だった。
「成功すれば私の『夢』は更に前進する!!その為にはどんな変数も……全力で叩き潰すのですよ!!」
大量の塊がザルツに接近。
「(速──!)グッ……!!」
壁際まで追い詰められ、更に無数の塊がザルツを襲う。
塊によってザルツが見えない程に覆い尽くされた。
塊を後ろに引くと、そこにザルツはいない。
「……へぇ……そこか」
後ろを見渡すと、先程とは違う圧倒的な速度で走るザルツがいた。
(圧倒的な質量、スピード、密度と隙がない!)
更に硬度まで変更できると来た。
隙があればもしくはた思ったが、こいつに一対一で勝つのは不可能だろう。
(速度が上がった。これが彼の本気?いや、能力か。
だが、彼の能力は重力の変更では…?)
これらの考えが奴に過ったが、再び小手調べで同じ土の柱を飛ばす。
「おぉ……」
ザルツは見事全てを斬り、此方に向かってくる。
これは中々……!
「[厳格な大地よ、我が命を聞き賜え]」
(ッ!?詠唱!?)
無詠唱だけでは無いのか??
「回れ。[土魔法・球]…!」
塊に近い柱ではなく、今度はとてつもない回転量を誇るボールがザルツのもとへ飛ぶ。
「(気にするな。今は!!)舐めるな……よっ!!」
少し硬さを感じたが、なんとか両断し、レインに近づく。
(今度こそ……斬る!!)
前と同じ構図、だが明確に違うのは……一本の強固な柱ではなく、それな何本も……
「チッ!!」
硬い!!!一本や二本斬ってもすぐ再生するせいで
首まで届かない…!!
(どうする……タイムリミットを縮めて更に強化するか?いやダメだ!クソ……早く来い…!ケイ!!)
能力発動により、タイムリミットは残り十五分。
それを縮めるという事は、稼げる時間減ると言う事。
「クソ…次だ──ガッ!?」
背後から回転した物体がザルツに両肩に衝撃を与えた。
レインはその一瞬のスタンを見逃さないかった。
「[土魔法・甲]」
土を腕全体に纏ったレインの拳がザルツの腹部に、
ドゴッ!という鈍い音を立て殴り飛ばした。
詠唱した威力と無詠唱の時の威力は同等という扱いを受けている。
が、現代の魔法使いは速射性を意識し過ぎるがあまり威力、範囲がお陀仏な場合も多い。
詠唱でゆっくりとイメージ、魔力の集中を意識できる。『威力の差』これが今の魔法界での常識となりつつある。
無論、即集中、即放出が出来るのなら、無詠唱が良い。あくまでも初心者向けの技術となる。
………魔力集中を目的として放ったレインを除いて。
現在ザルツは地面に横たわり──吐血。
咳が止まらない。
(マズい……良いのを喰らってしまった……!)
喋るのもままならないこの状況。
魔力も防御に回したせいで残り少ない。
「…………………」
「…もう終わりですか?(こいつがあのノアを倒した実力者?期待外れにも程がありますよ)」
こいつを強いと評価した自分に腹が立ったが、ここまで戦えているのは充分強者とレインは判断。
「………[強化ァ]!!」
全魔力を使用し、身体、剣、全てを強化する。
魔力での強化+能力の重ね掛けにより、尋常じゃない力を得る!
瞬きをした瞬間、ザルツが目の前に接近。
「ッ!?[土魔法・壁]!」
反射で土壁を作り防御。反撃をしようとした時にはもう遠くにいた。
(速い──!!)
これが奴自身の油断がもたらした結果だ。
狩人と獲物の立ち位置が変わる。
あっという間に広場を一周。
奴は後ろにいる事に気づいていない!!
(殺れる─!!)
炎剣を胴体に向ける。
だが同時にザルツの首元にも鋭利な『何か』がある。
それはザルツより速かった。
(ノールックカウンター……!!反応速度が人のそれじゃない……)
なんとか避けたが、離されてしまった。
「ッ〜!!」
能力の代償。全身にズキズキと鈍い痛みが襲う。
……………タイムリミットだ。
地面に膝をつき、激しく息をついたザルツを見て、レインの機嫌が良くなった。
「…………今度こそここまででしょう。あなたの力をもっと早く見たかったですよ…」
「………そうだな……だがこれで良い」
不敵な笑みを浮かべるザルツを見て、何かを言い返す前に扉の方を見つめた。
開きぱっなしの扉が一瞬だけ発光した様に見えた。
「……まさか」
「まさかだよ」
「(視界の端に足が…!!)ガァッハッ!!」
広場の奥へと誰かが奴を蹴り飛ばした。
彼の体は雷の様にビカビカと光っていた。
そいつは……
「すみません先輩。遅れました」
「いやいや、最高だ!!」
最高の後輩であり、友人のケイ・タケダなのだから。




