第47話 力の比べ方
豪快に血を吐き出したカイザル。
ハウのアッパーが見事に決まったのだ。
地面に突っ伏して、激しく息を切らしていた。
ハウは奴をただ見つめている。
「………もう終わりだな」
そう言い残し、去ろうとした時
瞬きの様にパッと、場所が変わった。
「なっ!?」
景色が……変わった。
何もない平原。
緑一色の大地に二人はいる。
「ハウ・ゲレーロ………お前に……敬意を……!」
立っている。
まだ奴は立っているのだ。
「………クソ」
体から灰の様な物が漏れていた。
もう───死ぬ寸前。
死する前に成し遂げたい野望。
その狂気にも近い渇望の意思が今──カイザルが立っている証明。
「……何が目的だ?言ってみろ。(参謀が言っていた結界術…!!こんな一瞬で……)」
ハウは少なからず動揺があった。
脱出方法、このまま戦うか、疲労が……など思考が浮かんでは消えた。
結界で覆われたこの地は結界外からの干渉を(代償次第だが)拒む。
カイザルが払った代償は────
命。
本来命を払ったら終わり。
その為代償を細かく設定。
『戦いが終わったら命を差し出す』
という代償を払う事でハウとの闘いを成立させた。
「お前の……様な戦士に…。会えた事…誇りに思うよ」
満たされた表情をしていたカイザル。最後の仕上げに掛かる。
「………良いだろう。かかってこい」
意思を受け取り、拳を強く握る。
両者能力を解除
ゆっくりと歩き出し
距離がどんどん近くなって行く。
そうして….
───拳を振り上げる。
「グッ…!!」
二人は同じタイミングで拳を出した……が、
勝ったのはカイザル。
ハウは一歩下がり蹴り上げで横腹を狙う。
「遅い」
蹴り上げを手で抑えアッパーを狙う。
が、ハウに掴まれ膠着状態。
足と拳。どちらも力を入れて防御を上回ろうとするが
力は五分。何も変わらない。
「隙だらけだ!」
抑えられていた足を下げ、もう片方の足で奴の脇腹を蹴り飛ばす。
そのまま倒れると思ったが、受け身を取り倒れない。
だが先程の一撃が効いたのか再び吐血。
奴が竜の改造魔物でなかったら、前のアッパーで即死していた。獣族とは違う強固な体、それがカイザルという男なのだから。
「まだまだァ!!!」
最初とは比べものにならないほど減速したカイザル。
だが、ハウも能力である[刻刹]の限界使用により疲労を重ねている。
前の様に『遅い』と、蹴り飛ばす事は出来なかった。
カイザルはハウの目の前で止まり、足を大きく広げる。
(馬鹿が…!!)
ガラ空きとなった片足にしゃがみ蹴り。
一撃むなしく奴の体はびくともしなかった。
そこを狙うと読まれていたのだ。
「(なッ!──)ゴッ……!!!!」
ハウの頭に全力で踵落とし。
視界が真っ白となり意識が落ちる寸前。
爆音の後、ハウの全身が地面に埋もれる。
頭から出血。もらってはならないものをもらってしまった。
(もう全身を等しく守る事は無理だろ!!このまま攻める!!)
地面ごとハウを蹴り飛ばし、動かないところにハウの顔を何発も殴る。
右左右左と交互に早いリズム良く殴る事で反撃を許さない。
ハウとカイザルの血で彼の顔は赤く染まっていた。
このまま死ぬまで殴るのをやめないだろう。
ここでハウの中でぷつんと何が切れる。
「そんなに殴るんじゃ………ねぇよ!!!」
カイザルの頭を掴み顔を全力で殴る。
守る事が出来ていないのは奴も同じ。
両者吐血が止まらない。
ここから先はタイミングと速度が求められる。
(次で……ラストだ!!!)(次で……終わらせる!!!)
カイザルとハウ。二人は同じ考えに至る。
耐えられるのは……残り一発。
そう直感した。
「勝負だ!!!ハウ!!!」
拳に全魔力を込めハウに急接近する。
(速───)
最後の力を振り絞ったカイザルの速度はハウの予想を優に超えていた。
重く──そして速い拳がハウの胸部を深く殴った。
人を殴る時には決して出ないドカンという音。
草花もその衝撃に激しく揺れた。
その威力にハウも滝の様に吐血。
彼の体が揺れ倒れる────が…!!
ハウの目がカッと見開かれる。
心からの笑みを浮かべ、カイザルは呟く。
「!!…………クッソ」
ハウが思いっきりカイザルを殴り飛ばす。
地面に横たわった奴はもう動けない。
動かない体を無理やり動かしハウはカイザルを見下ろす。
「ハッハッ!!いや…なんで生きてんだよ…!!」
確実に魔力の全てをハウにぶつけた筈。
「お前が足を大きく開けた時。山勘で足に魔力を集中させた所を見て俺も出来るだろうと思った」
「!!!……なるほどな」
「どこに来るかは分からなかったから、それは確かに勘だったがな」
元よりハウはあまり魔力コントロールが不得手。
肉体のピンポイントに魔力を集中させるのはリサの得意技であり、ハウではない。
───それはカイザルも同じだった。
「お前にも出来たんだ、俺が出来ない試しはない」
もはやムキになった子供の様だ。
自分ならなんでも行けるという全能感に全て託した。
本来のハウならしない愚策。
それを選ぶ程、奴は強敵だった。
「………なんだよムカつくな」
笑みを一切崩さずにカイザルは答える。
お互いボロボロだが、それが良い。
変な意地を張る余裕などどちらも最初から持っていないのだから。
「気配的に、もう兄弟は全員死んだか。残るは父。
レイン・アルカディウスだけだな」
「………そいつが………神の……四天王なのか?」
もはや尋問する余裕もない、ただの世間話の様に二人は話し始めた。
「あぁ、あの魔法使い。変態的に強いからな。せいぜい気を付けろ…………よ」
「…………ありがとよ」
ケイが作った結界とは違い、ガラスが割れる様に結界が崩れた。
「!!」
結界が……
横を見るとカイザルがどんどん灰になって消えて行く。
彼のトレードマークの笑みを一切崩さず、その短すぎる生涯を終えた。
「……じゃあな。楽しかったぞ。カイザル」
足を引き攣らせながらも先に進む。
誰かに合流しなければ……と今にも倒れそうだが根性で進む。
「…クソが」
そう思うのも仕方がない。
辺りには改造魔物。
有象無象の集合体だが、今のハウでは一人倒すのも精一杯だろう。
(……ここまでか。なら……!!)
どうせ死ぬなら、一人でも多く敵を減らす!!
そう思い、拳を強く握ろうとした瞬間、
どこからか風を切りながら剣が…飛んできた。
「?」
上から声が聞こえる。
その声はどこか懐かしい。
「[残刀]」
刹那、改造魔物の胴体が両断され即死。
そんな馬鹿げた芸当が出来る人間は一人しかいない。
「ログロ!!」
「勝ったんだな。ハウ・ゲレーロ」
嬉しそうに呟くログロを横目にハウは倒れた。
仲間の助けにより、心の紐が緩んでしまった。
(レノア・マフォードと合流するか、本当は乗り込む気だったが、今のこいつら戦力になる)
時間を掛けて治療する意味はある。
もうケイとハウは確かな実力を得たのだから。
───────[視点はザルツ]─────────
貴族の社交界へと侵入した二人だったが、レイン・アルカディウスを名乗る男の自爆?により作戦は大きく破綻。
今は逃亡を図っていた。
「ザルツ先輩!!!」
リサが思いついたと言わんばかりの顔をしながらザルツの方へと向く。
この時のリサの表情は基本的に鋭い考えが浮かんだ時だけだ。
「どうした?」
「私達に話しかけてきたあの黒スーツの男!!レインとか言う奴が現れた瞬間にはもういなかった!!」
ザルツがハッとした表情。
ここで後回しにした疑問が再び浮かび出した。
(メインディッシュがあると教えてくれたあの男。僕達同じと言っていたけれど…)
パーティ場は城の最上階で行われていた為、もう飛び降りた方が早く降りれるかと考えた二人が壁を壊そうとした瞬間。
「待ってください」
少し高い声が広いフロアに響く。
黒スーツを身に纏い貴公子と言わんばかりの口調。
先程の怪しい男だった。
「私には挨拶なしですか、寂しいですね」
「あなたも早くここから出たほうが良い。僕達はもう行きます」
今度こそ壁を壊す。飛び降りる前に彼と話をつけておこうと思ったザルツは振り返る。
「あの、もしかしてあなたはこうなる事を分かっていたんですか?」
だが男は一切話を聞いていない。
「………息子達が死んだ」
「息子?何を言って……」
リサが言い終わる前に、突如地面から四角い物体がリサを襲った。
「ッ!?しまっ───」
大鎌で受ける。しかしそのまま外に投げ出された。
落下する直前、リサは叫んだ。
「ザルツ先輩!!!」
そうして落下した。あそこから無抵抗で落ちたところでリサは無事だ。
だが、今問題なのは……
「…あんた…!!何者だ!!」
ザルツはスーツの第一、第二ボタンを外し、臨戦態勢。
ザルツの様子を見て、男は軽く笑い出した。
「何者。ですか?」
そのまま笑みを崩さないまま、答える。
「私こそが……」
一拍……どころか二拍。
間を開けてゆっくりと男は続ける。
「レイン・アルカディウスです」
ぺこりとお辞儀し答えた。
ザルツは驚きが抑えられなかった。
(パーティにいたあの男では無かったのか!!?)
まだ彼は分かっていないが、今回の騒動の首謀者であり、改造魔物の立案・作成者。
そして、神の四天王第三位。
レイン・アルカディウスが今。
ザルツと相対する寸前なのだから────
満を持して大将────登場。




