第34話 殺意
『さて、もし君達がまだ戦う意思があるなら受けるが………ふふ、君達は聡明だな』
頭に直接響く、ドラゴンの声に少しずつ慣れてきた。
『今いるのは……七名か。随分と少ないな』
(七?八じゃなくて?)
ケイだけではない。他のメンバーも七名という言葉を聞いた時、怪訝な表情となる。
ただ、それを違和感として口に出す事はない。
(………魔力か)
レノアの特訓風景を見ていたケイだからこそ言える事がある。
それは、魔力の揺らぎなさ。
レノアが魔力総量を上げる訓練をするときにする、完全集中時に起きていた。
それを見た動物達がレノアに近づいていた。
生き物として判断されていないのだろう。
(このドラゴン、魔力で判断しているのか)
だからこそ、魔力の揺らぎ他のメンバーより少ない彼女が発見されなかった…と言うのが一番可能性が高い。
『ん…あぁすまない間違えた八名だったね。魔力で人を捉えるのはやっぱり苦手だ。目は開けるべきだね』
「見えんじゃん!」
もし戦闘になったら彼女だけでも…と思って頭をフル回転させていたが無駄だったようだ。
「こちらが攻撃しなければ、あなたは攻撃しない。
で、良いんですよね?冷銀竜さん」
ストライドの手は震えていたが、顔に冷や汗、焦りも感じられない。
『そうだ』
何を喋っても、その圧に全員の背筋が凍る。
『………この世界には私の素材にしか興味のない人間が現代には多すぎる』
悲しそうな声を出した彼女だったが、実際涙が出るわけでもない。
すると竜はケイの事を凝視する。
『お前…レターの弟子…もしくは息子か?』
なんの脈絡もなく、竜はそう言った。
息が───止まった。
「そうですけど………」
『彼は私に唯一ダメージを与えた人間だ。まさか彼が師となっているのはな…もうそんな時が経ったのだな』
命を狙い合った一人と一匹。
それなのに彼女から旧友を懐かしむかの如く、思い出に浸っている様に感じた。
『生まれて初めて、戦いの楽しさを知った。まさかそれが最初で最後になるとは思わなかったが』
残念そうに呟くと驚いた事を口にした。
それはあまりにも……残酷すぎる言葉だった。
『彼は………なに…?死んだ?』
能力で見たのだろう。ただ、彼女の言葉は脳に直接響く声。
それ故に小声で喋ろうがなんだろうが関係はない。
そんなことはどうでもいい。
レターが死んだ?
「……………え?あの人が……死んだ??なんで………は…っ…?」
レターにとってケイは人生の後悔、それの延長線にあった一人の弟子。
ただケイは───ケイにとっては右も左も分からないこの世界で面倒を見てくれた師であり親でもあった。
レターの弟子であることを知っていたリサ、ザルツ、ハウはケイの様子を見ていられずに目を逸らした。
レノアは何を言えば良いのかと戸惑った。
出来る事はないのかと、本人もよく分かっていないが、彼女はケイを後ろから抱きしめた。
いつもなら、恥ずかしくて暴れたくなるこの腕。
そこまで思考が行き着いていない。
「…………………」
レノアからはケイの表情は見えない。
ただ、抱きしめた手に水が落ちる様なそんな感触があった。
この空気を切り裂くの様にドラゴンは語り出した。
『レターの胸には深い傷が見えた。そこには雷が落ちた様な跡……
つまり……』
「殺されたのか…」
ログロは誰かに言ったというより独り言に近い。
『彼も衰えたのだろう……私もそうだ』
彼女はケイを見据えて、静かに話す。
『少年よ。私は君が復讐に囚われようがなんだろうが止める気はない。だが……独りにはなるな』
様々な思考に駆られているケイを慰めるのではさく、諭す。
ケイは軽く息を吐いた後、レノアは何かを察したのか手を離す。
「…………俺は、ドライヴを殺す。俺は奴を否定しなくちゃいけない」
その目には復讐とはまた違う、覚悟をした目だった。
『いい目だ。彼も私を殺すときそんな目をしていたよ』
静かで年配と思われる彼女が豪快に笑う。
本当に彼とは何があったんだ。
「だからみんな……力を貸して欲しい」
先程の宣言と比べて少し弱々しい声になった。
深く頭を下げたケイの背中を軽く叩く者、そこそこ強めに叩く者、優しい聖母の様に頭を撫でる者。
今のケイは転移したての何もできない人間ではない。
人がいる。綺麗事だが大切だ。
『いい仲間を持ったな。なら、ここを通って行くが良い。元々そう言う話だったしな』
全員はドラゴンに軽くお辞儀をした後、ドラゴンがいると噂のこのダンジョンを越えた。
カミリーズへ向かう最後の難所、ビックレイク(ただのデカい湖)を越えるだけだ。
近くでテントを建て、再びみんなが寝静まった時。
ケイは近くの森に来ていた。
燃焼……
ドライヴは攻撃と移動を両方とも高い質を維持していた。
(俺はそこまで魔力総量があるわけじゃない。なら…)
捨てる。奴との戦いで悉く抑えられるかもしれないが、速さで勝つにはこれしかない。
「攻撃を捨てる」
燃焼の強いところ。それは雷魔法を全身に纏い、超速と高威力を維持できる。
体への負担があまりにも大きい。
それを無効化する為に魔力で覆う、だからこそ魔力を大幅に消費する。
「足だけに魔力を覆えばいい、目的地の場所に移動してから攻撃すればいい。これなら…!」
テントからできるだけ離れて騒音を出さない様にする。
「!!」
十五メーターくらいの移動。
ただ、初めて燃焼を使った時の感覚とは大きく違う。
「魔力が奪われた感覚が少ない…」
イメージした事がそのまま出来た。
燃焼を足だけに集中すれば、スピードはそのままで何度も使える。
全身には纏えないから移動中に攻撃こそできないが
それで問題ない。
「全く……鍛錬も大事だけど休む事も大切だと思うよ僕は」
声がした為、後ろを向くとザルツ達[子供組]だ。
「ログロさん達のテントをこっそり開けたらいなかったし、どこかで鍛錬でもしてるんでしょうね!!」
つい先程まで熟睡していたリサにとって鍛錬する所を全然見せない[大人組]に思う所があるらしい。
「燃焼。上手く行ったのか?」
早速ハウが本題に入る。
「ああ。移動だけに絞れば連発こそできるが、雷+速度の攻撃力は期待出来ないな」
リサが頭を悩ませている。
「魔力総量を上げると言っても限度があるしな〜」
「………俺はもう少しこの感覚を身につけてから寝る。みんなはどうする?」
これは俺の問題だから任せてくれ。そう言おうと思ったのだが、無意識にああ言ってしまう。
ドラゴンのアドバイスをちゃんと実行しているケイなのであった。
「別に俺達もドライヴ?って奴と戦う可能性はあるしな、燃焼を捉える訓練にはなる」
ハウがそう言うとリサも頷く。
ザルツはため息を吐く。
「お前らな……ま、僕も頑張ろうかな。今は丁度十一時。十二時までやろう」
こうして訓練が始まった。
一時間の長い様で短い訓練。
ケイは魔力量は尽きる事なく最後まで燃焼を使い続けることが出来た。
[翌朝]
「レノアさん……ごめん」
ケイの足がボロボロになっているのを見て急いで治した。説教タイムだ。
昨夜の鍛錬にレノアはいなかった。
リサ曰く私より気持ちよさそうに寝ていたから起こそうにも起こせなかったとの事。
「そんなにボロボロになるまでやる必要はないでしょ!!全然大丈夫だけど……心配なの」
ケイの手をギュッ!と言う音がなるほど両手で強く握る。
レノアのうるうるした目と手を握られる。
つい目を逸らしてしまう。
「………ちゃんと見て」
顔を掴まれ、無理やり目を合わされる。
「無理をするのは私がいる時だけ!!わかった?」
「………はい!」
数時間後。朝食を済ませ、湖攻略へと向かう。
ダンジョンから湖までの間は特に何もない。
山地と平地を繰り返す道のりだった。
最初こそ疲労で動けなくなったレノアもここまで来れば余裕そうだ。
するとログロが呟く。
「着いたな」
冒険者達に恐れられている?らしい。
巨大な湖。
通称ビックレイク。
そのまま過ぎるという感想が生まれる前に…。
「…………きれい」
ケイの感想に全員が湖に目を奪われている。
するとストライドが一番最初に話を切り出す。
「船はあそこに準備してもらいました。近くの村の人に」
「手際いいね〜!!」
ブレイがストライドの背中を叩く。
「よ〜し行くぞー!!」
楽しそうにブレイが進みだす。後ろのストライドは背中をさすり痛そうにしている。
船は二つ。
四人で別れた。
一つ目の船に乗るのはケイ、ログロ、ブレイ、ストライドだ。
二つ目はリサ、ハウ、ザルツ、レノアになった。
理由としてどちらも魔法使いがいて遠近両方対応できる。
唯一のヒーラーレノアが倒れたら終わりなので船間距離は離れ気味だ。
ケイ、ストライド、リサ、ザルツはオールを用いて漕ぐ。
「〜♪」
ブレイが釣竿を使って魚を釣ろうとしている。
船はそこそこ広いがそう何匹を入るスペースはない。
「待てブレイ。ここで魚を釣っても…!!」
「オレは……オレは……!!魚が食べたいんだー!!」
断固たる意思。それを否定できるほど、ログロは非情じゃない。
「今までの旅で確かに肉か野菜かキノコしか……って結構食べてるだろ!!」
魚を釣ろうとするブレイをログロが止めるが激しい抵抗により、船が左右に大きく揺れる。
「ちょっと…!大人なんですかそんな馬鹿騒ぎしないで下さ……グハッ!」
ブレイの肘がストライドの顎に当たり、ストライドが倒れる。
「ストライドさん!?」
カオスという状況が似合うこの四人を横目に、リサ達は静かだった。
(私もあっちが良かったな………)
レノアがケイ達の船を見ている所をニヤニヤして見ているリサ。
ここは少し揶揄ってやろう…と思った時、先にハウが口を開く。
「どうしたレノア?船酔いか?」
「え………?ああいや!!大丈夫!!」
「?そうか?」
鈍感の極みの様なハウだ。何故気づかないんだ…と
ザルツとリサは頭を抱える。
すると二つの船の間に巨大な影が覆った。
「…!?クラーケン!?」
リサが驚きのあまりに大声を出す。
巨大なタコ。
奴が触手で船を破壊しようとした時、触手に穴が開いた。
「……銃声?」
この世界においては聞き馴染みのない音。
銃を使ったのは……
「皆さん、集中して下さい。勝てる相手ですよ」
ストライド・マーサナリーだった。
次回までにはカミリーズに着こうと思います!




