【第五十四話】愛の暴走特急と、巨大仏の左腕
「す、すげぇ……」 金時がポカンと口を開けている。 「あれが綱の本性か……。普段の妄想は、この狂気を抑えるための蓋だったのか」 頼光も戦慄している。
覚醒した綱は、戦場を疾走する赤い竜巻だった。 「薄氷の太刀」から放たれる斬撃は、空間ごと敵を断ち切る。 防御も回避もしない。 敵の攻撃を笑いながら受け、その倍の速度で斬り返す。
「邪魔よ! カケル殿を見る視界に入らないで!」 ズバァッ! 「カケル殿の酸素を吸わないで!」 ドゴォッ!
「つ、強い……! だが、制御不能だぞこれ!」 僕は叫んだ。 彼女は敵味方の区別がついているのか怪しい。
「綱! 俺だ! カケルだ! 戻ってこい!」
僕の声に、血まみれ(データまみれ)の綱が振り返った。 その目は真っ赤に充血し、ハートマークが浮かんでいるように見えた。
「あぁ……カケル殿……♡」
綱がターゲットを僕に変更した。
「今すぐ貴方を攫って、誰もいない月の裏側で、永遠に一つになりたい……♡」
「ヒィッ! 逃げろ! 敵より怖い!」 僕は全力でダッシュした。 その後ろを、綱が光速で追いかけてくる。
「待ってぇぇ! 私の愛を受け止めてぇぇ!」
「誘導してどうするんだカケル!」 頼光が叫ぶ。
「いや、これを利用するんだ! 頼光さん! 綱の進行方向に、あの巨大仏の腕がある!」
「なるほど! 射線を合わせる気か!」
僕は巨大阿弥陀像の足元へ走り込んだ。 阿弥陀像が巨大な左腕を振り上げ、僕を潰そうとする。
「カケル殿ォォォ! その薄汚い泥人形から離れてぇぇぇ!」
綱が大ジャンプした。 彼女は空中できりもみ回転し、全身全霊の「愛の斬撃」を放った。
「秘剣・月下恋慕!!」
閃光。 空間が歪むほどの衝撃波が走り抜けた。 僕を潰そうとしていた阿弥陀像の巨大な左腕が、肘から先ごとスライスされ、ズズンと地面に落下した。
「やった!」 「腕を落としたぞ!」
だが、綱は止まらない。 着地した彼女は、そのまま僕に飛びかかってきた。
「確保しましたわ……♡ さあ、婚姻届(血判状)にサインを……」
「頼光さん! 止めて!」
「任せろ! 峰打ちだ!」 頼光が背後から綱の首筋に手刀を叩き込む。 ドスッ。 「……あ、れ? 月が……回って……」 綱は白目を剥き、幸せそうな顔で僕の胸に倒れ込んだ。
「ふぅ……。一番危険なのは味方だったな」
気絶した綱を金時に預け、僕は再びスマホを見た。 綱の暴走のおかげで、敵の防衛ラインに風穴が開いた。 今なら、あそこまで行ける。
「道満! 待ってろよ!」




