【第五十三話】バグ満月と、覚醒するヤンデレ狂戦士
戦況は絶望的だった。 巨大阿弥陀像の掌から放たれるレーザーの雨あられ。 さらに、道満が召喚する「データ・キメラ」の群れが、無限に湧き出してくる。
「くっ……! 数が多すぎる!」 源頼光が雷撃で敵をなぎ払うが、息が上がっている。 「腹減った……もう力が出ねぇ……」 坂田金時はガス欠寸前だ。 貞光の「ネガティブ結界」も、敵の物量に押されて範囲が狭まっている。
「カケル殿! 季武殿! 弾幕が厚すぎます!」 渡辺綱が刀でレーザーを弾くが、防戦一方だ。
「諦めるな! 解析完了まであと少しなんだ!」 僕はスマホを操作し続けるが、焦りで指が震える。
その時。 蘆屋道満が高らかに笑った。
「無駄だ。……絶望を彩る演出として、月を見せてやろう」
道満が指を鳴らすと、空を覆っていた赤黒いノイズ雲が割れた。 そこに現れたのは、美しい月……ではない。 ノイズが走り、赤と青に激しく明滅し、形状が歪み続ける**「バグ満月」**だった。
「な……なんだあの月は!」 頼光が叫ぶ。
だが、その異様な光を浴びた瞬間。 渡辺綱の様子が急変した。
「あ……あぁ……」
綱がふらりと立ち尽くす。 彼女の瞳孔が開き、焦点が合わなくなる。 肩で息をし、喉の奥から獣のような唸り声が漏れ出す。
「綱? どうした!」 僕が声をかけるが、反応がない。 いや、違う。 彼女は今、何かのリミッターが外れる音を聞いているのだ。
「……月が、綺麗ですね」
綱がポツリと呟いた。 その声は、いつもの清楚なトーンではない。 低く、湿り気を帯びた、ゾッとするような艶のある声。
「こんなに月が綺麗なのに……カケル殿とのデートを邪魔する虫けらがいっぱい……」
バキィッ! 綱が握っていた刀の柄が、握力だけでひしゃげた。 彼女の黒髪が逆立ち、背後に赤黒いオーラが立ち上る。
「……駆除しなくちゃ」
「綱……さん?」
次の瞬間、綱の姿が消えた。
ドォォォォォン!! 前方にいたデータ・キメラの群れが、一瞬で「肉片(データ片)」となって弾け飛んだ。 その中心に、綱が立っていた。 鬼のような形相。口元には恍惚の笑み。
「アハハハハ! 死ね! 死んでカケル殿への愛の礎になれ!」
覚醒。 満月の狂気の魔力を受け、渡辺綱の深層心理にある「独占欲」と「破壊衝動」が解放されたのだ。 彼女はもう、文学少女ではない。 愛のために全てを屠る、平安最強の「ヤンデレ・バーサーカー」だ。




