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【第五十二話】偽りの救済者と、魂のアップロード

内裏(皇居)。 かつて政治の中心だったその場所は、巨大な「光の柱」に貫かれていた。 柱は天まで届き、そこから地上のデータを吸い上げている。


「よく来たね、イレギュラーたち」


紫宸殿ししんでんの屋根に、蘆屋道満が立っていた。 彼の体は半分以上がデータ化し、青白く発光している。 その背後には、巨大な仏像のホログラムが浮かんでいた。 阿弥陀如来あみだにょらい。 だが、その顔はのっぺらぼうで、掌には無数のバーコードが刻まれている。


「道満! 何をする気だ!」 清明が叫ぶ。


「救済だよ、清明。……見ろ、この阿弥陀システムを」


道満が手を広げると、光の柱に吸い込まれていく人々の魂が見えた。 彼らは皆、安らかな顔をしている。


「末法の世に、肉体など不要だ。苦しみも、飢えも、老いもない。全ての魂をデータ化し、私の作った『電脳浄土クラウド・サーバ』へアップロードする。これこそが究極の救いだろう?」


「ふざけるな! それはただの『標本』だ! 生きているとは言わない!」 僕が吠える。


「黙れ社畜。……お前たちの文明だって、そうやって人間を数字データとして管理してきただろう? 私はそれを突き詰めただけだ」


道満の言葉は、鋭い刃のように僕の胸に刺さった。 確かに現代社会はそうだ。 でも、ここにあるのは違う。 頼光の体温。金時の食欲。綱の妄想。貞光の溜息。 それらはデータになんてできない、生々しい「命」だ。


「カケル。……問答は無用だ」


頼光が一歩前に出た。 彼女は刀を抜き、切っ先を道満に向けた。


「私は難しいことは分からん。だが、肉体がなくなれば、カケルに抱きつけぬ。カケルの飯も食えぬ。……そんな浄土など、地獄以下だ!」


「その通りですわ! 恋とは肉体言語スキンシップ! データでは壁ドンもできません!」 綱も続く。


「飯が食えねぇ世界なんて、俺がぶっ壊す!」 金時が復活し、ママチャリを構える。


「……私は、電脳世界でもどうせサーバーの隅っこで文字化けする運命なので……今のままでいいです」 貞光も(暗いけど)同意した。


「交渉決裂ですね。……では、物理的に排除します」


季武が巨大な砲身レールガンを構える。


「愚かな……。システムに逆らうか」


道満が指を鳴らすと、背後の巨大阿弥陀像が動き出した。 『救済……救済……』 機械音声と共に、巨大な掌が振り下ろされる。 その指先一つ一つが、高出力レーザー砲になっている。


「総員、散開! レイドボス戦開始だ!」


僕の号令と共に、平安京最後の戦いが始まった。 相手は神を模したシステム。 こちらは、人間臭さ全開の泥臭いチーム。


「頼光さん! 敵の右腕を狙え! あそこがデータ転送のパイプラインだ!」 「応ッ!」


頼光が雷となって翔ける。 その背中を見ながら、僕はスマホの「管理者権限奪取ツール(ハッキング・アプリ)」を起動した。 道満が世界を書き換えるなら、僕はそれを上書き(パッチ)する。 SEの意地を見せてやる。

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