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【第五十一話】絶望の都と、最強のネガティブ・タンク

都は地獄絵図と化していた。 黒い泥から生まれた「バグ魔獣」たちが徘徊し、無気力になった人々を襲っている。 だが、人々は逃げようともしない。 「どうせ死ぬんだ」「これが運命だ」と受け入れている。 末法の毒気(絶望ウイルス)が、人々の生存本能を麻痺させているのだ。


「カケル殿! 季武殿! 前方が塞がれています!」 綱が叫ぶ。 朱雀大路の中央に、巨大な壁のようなバグ魔獣が鎮座していた。


「邪魔だァッ!」


ドガァァァン! 坂田金時のママチャリ・タックルが炸裂する。 だが、魔獣は再生する。いや、金時の攻撃自体が「無効化」されている。 金時の怪力が、触れた瞬間に吸い取られているのだ。


「力が……入らねぇ……。腹減った……もうダメだ……」 金時がガクリと膝をつく。 あの元気の塊のような金時でさえ、末法の空気には抗えないのか。


「いけません! この空間の『絶望濃度』が高すぎます! 精神防壁のない者は、立っているだけで自我が崩壊します!」 卜部季武がガスマスクのような防具をつけて分析する。


頼光も、綱も、動きが鈍い。 僕のスマホもエラーを吐き続けている。 このままでは全滅だ。


その時。 絶望の霧の中を、ふらりと歩み出る影があった。


「……はぁ。やっぱり世界は終わるんですね。知ってました。私の人生、最後はこうなるって」


碓井貞光うすいさだみつ。 彼女だけが、平然としていた。 いや、むしろいつもより肌艶が良い。


「貞光!? お前、平気なのか!?」


「平気というか……この『世界の終わり』の空気、実家のような安心感があります」


彼女は深く息を吸い込んだ。


「みんなが絶望している。みんなが不幸になっている。……ああ、なんて居心地が良いんでしょう。私だけが浮くことがない、平等の世界……」


彼女はバグ魔獣の前に立った。 魔獣が触手ノイズを伸ばし、貞光の精神を食らおうとする。 だが。


チュドーン。 魔獣の触手が、貞光に触れた瞬間に枯れ果てた。


「え?」


「私の中の絶望(闇)の方が、深かったようですね……」


貞光がボソリと呟く。 彼女のネガティブ耐性は、すでにカンスト(カウンターストップ)していた。 末法の空気如きでは、彼女の心の闇は埋まらない。 むしろ、周囲の絶望を吸収し、エネルギーに変えている。


「貞光さん! 君がタンク(壁役)だ!」 僕は叫んだ。


「貞光! お前が前衛に立て! 私たちが後ろから叩く!」 頼光も指示を飛ばす。


「ええ……私が先頭ですか……。どうせ捨て駒……。でも、私が死ねば皆さんが助かるなら、それもまた一興……」


貞光が歩き出す。 彼女の周囲に展開される『絶対・鬱結界』。 襲いかかる魔獣たちは、結界に入った瞬間に「働くのが辛い」「再起動めんどくさい」と活動を停止していく。


「すごい……! ネガティブが世界を救っている!」


「よし、今のうちに突破するぞ! 目指すは内裏だいり! このバグの中心地だ!」


最強のネガティブを得た僕たちは、絶望に沈む都を切り裂いて進んだ。 皮肉な話だ。 「希望」が失われた世界で、唯一の武器になるのが「絶望」だなんて。

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