【第四十九話】秘湯の誘惑と、九尾の告白
読んでいただきありがとうございます。来年も元旦から更新予定です。
キノコ狩り(モンスター狩り)で疲れた僕たちは、玉藻前の招待で、山奥にあるという「秘湯」へ向かった。 道満のバグの影響を受けない、結界で守られた特別な温泉だという。
「まあ、素敵な場所ですわ……。これが『混浴露天風呂』という名の戦場……!」 渡辺綱が鼻血を出して倒れそうだ。
湯気が立ち込める岩風呂。 当然のように、頼光は僕と一緒に入ろうとする。
「カケル、背中を流してやる。拒否権はない」 「いや、タオル巻かせてください! 目のやり場が!」
「何を恥ずかしがる。夫婦(予定)だろう?」
頼光は一糸纏わぬ姿(湯気で絶妙に見えないが)で、堂々と湯に浸かる。 その肌は白磁のように美しく、鍛え上げられた肢体は神々しいほどだ。 僕がドギマギしていると、湯の向こうから、黄金色の髪が揺らめいた。
「あら。先客がいらっしゃいましたか」
玉藻前だ。 彼女は豊かな胸元まで湯に浸かり、手酌で酒を飲んでいる。 その妖艶さは、頼光の健康的な色気とは対照的な、絡みつくような魔性だ。
「玉藻……! なぜ貴様がいる!」 頼光が立ち上がろうとする(見えそうになるので僕が止める)。
「わたくしの招待した温泉ですもの。ご一緒して悪いことはなくてよ?」
玉藻はスゥーっと湯の中を移動し、僕の隣に来た。 彼女の九つの尾が、湯の中でゆらゆらと揺れている。
「カケル様。……少し、お話がありますの」
彼女の声色が、いつものからかい口調とは違っていた。 真剣なトーン。
「あの道満という男。……わたくし、彼を知っていますわ」
「え?」
「千年前……いえ、もっと前かしら。彼はわたくしに接触してきました。『この世界を壊して、理想郷を作らないか』とね」
玉藻は遠い目をした。
「わたくしは断りました。この不完全で、愚かで、愛おしい世界が好きでしたから。……でも、彼は諦めていなかったようですね」
彼女は僕の手を取り、自分の胸元(心臓の上)に当てた。
「カケル様。あなたが未来から来た理由。そして、わたくしがあなたに惹かれる理由。……それは、きっと同じ『運命』なのですわ」
ドクン。 彼女の鼓動が伝わってくる。 その鼓動は、僕のスマホが発する警告音と、奇妙にシンクロしていた。
「貴様ッ! カケルから離れろ!」
頼光がバシャバシャと音を立てて割り込む。 「難しい話は後だ! 温泉は裸の付き合い! つまり肌と肌のぶつかり合いだ!」
「あら、野暮な方。……まあいいですわ。今夜はゆっくり温まりましょう」
玉藻はふわりと笑い、頼光に酒を注いだ。 湯けむりの中で、三人の奇妙な混浴が続く。 頼光の嫉妬、玉藻の秘密、そして僕のスマホに届いた未来の警告。
温泉の温かさとは裏腹に、僕の背筋には冷たい予感が走っていた。 この穏やかな時間は、嵐の前の静けさに過ぎないのだと。




