【第四十七話】未来からのメールと、粘着質な護衛
蘆屋道満との激闘から数日。 京の都は平穏を取り戻したかに見えたが、清明の屋敷では深刻な解析作業が行われていた。
「……ふむ。これは厄介ですね」
安倍晴明が、扇子でポンと手のひらを叩く。 彼の目の前には、道満が落としていった(頼光が真っ二つにした)タブレット端末の残骸が置かれている。 画面は割れているが、内部の基盤はまだ微かに発熱していた。
「カケル君。君の言う『くらうど』とは、天界にある書庫のようなものかい?」
「概念的には近いです。データ(情報)を端末の中ではなく、ネットワーク上の巨大なサーバーに保存する仕組みです。道満は、この時代のデータを未来へ送信したと言っていました」
僕は寒気を感じていた。 もし道満が、平安京の妖怪や呪術のデータを未来へ送り、それを現代の技術で「養殖」あるいは「強化」しているとしたら? そして、その強化されたデータを再びこの時代にダウンロードしようとしているとしたら? それはもう、歴史改変どころの話ではない。
ブブブッ。 僕のスマホが震えた。 またしても、電波のないはずの端末に通知が届く。 だが、今回はシステム警告ではない。 『新着メール:1件』 差出人は『不明』。 件名は『1000年後の君へ』。
「……え?」
震える指でメールを開く。 本文には、たった一行だけ記されていた。
『バグの修正を急げ。さもなくば、君の世界(現代)が消滅する』
添付ファイルとして、一枚の写真。 それは、荒廃し、ビル群が植物と機械に侵食された、東京の風景だった。 そして、その廃墟の中心に、巨大な「九尾の狐」の影が映っていた。
「これは……」
「カケル! 無事か!」
バン! と襖が開け放たれ、源頼光が飛び込んできた。 彼女は完全武装だ。屋敷の中だというのに。
「頼光さん? どうしたんですか」
「道満の残党が襲ってくるかもしれん。今日から私は片時もそなたの側を離れんぞ! トイレも風呂も一緒だ!」
「それは困ります! プライバシーの侵害です!」
「問答無用! 夫婦(予定)に秘密などない!」
頼光は僕の腕を抱え込み、胸に押し付けた。 温かい。柔らかい。でも、力が強すぎて腕が鬱血しそうだ。 シリアスなメールの内容と、物理的に密着してくる美少女。 僕の脳内CPUは処理落ち寸前だった。
「あらあら。頼光様ったら、独占欲が強すぎて引かれていますわよ?」
窓の外から、玉藻前が顔を覗かせていた。 彼女の目は笑っているが、その奥には、添付写真にあった「影」と同じ、底知れない何かが潜んでいるように見えた。




