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【第四十四話】絶望のログと、届かない応援

落下した先は、光のない世界だった。 上下左右の感覚がない。 ただ、足元には無限に続く黒い泥の海があり、頭上には無数の「文字」が雨のように降り注いでいる。


『役立たず』 『空気読めない』 『生まれてきてごめんなさい』 『顔色が悪い』 『どうせ失敗する』


「痛ッ! なんだこれは!」


源頼光が顔をしかめる。 空から降ってきた『邪魔者』という文字が、彼女の肩に当たり、物理的な重みを持ってのしかかっていた。 斬っても斬っても、文字は増殖する。 これは碓井貞光うすいさだみつが長年溜め込んできた、自己否定の言葉たちだ。 SE的に言えば、処理しきれずにスタックした「大量のエラーログ」だ。


「くそっ、キリがねぇ! 貞光! どこにいるんだ!」 坂田金時がママチャリを振り回して文字を弾くが、その表情は焦っている。 物理最強の彼女も、精神攻撃の前では分が悪い。


「あそこです! あの文字の渦の中心!」


卜部季武うらべすえたけが指差した先。 巨大な『孤独』という文字の檻の中に、膝を抱えた貞光がいた。 彼女は黒い泥に半身を沈め、耳を塞いでいる。


「貞光! 我らだ! 助けに来たぞ!」 頼光が叫びながら駆け寄ろうとする。 だが、檻から放たれた衝撃波が彼女を吹き飛ばした。


「……来ないで。光属性の人たちは来ないで。私なんて、暗い部屋でカビと一緒に朽ちていくのがお似合いなんです。あなたたちと一緒にいると、自分が惨めで、消えたくなる……」


拒絶。 圧倒的な劣等感コンプレックス。 陽キャ(頼光たち)の輝きが、陰キャ(貞光)の影を濃くしてしまっている。


「貞光さん! 君は役に立ってるよ! 鬼のメンタルを削ったじゃないか!」 僕が叫ぶが、逆効果だ。


「……ほら。やっぱり私の役目は『嫌がらせ』だけ。誰も私自身なんて見てない。私はただのデバフ装置……」


ズズズ……。 泥の水位が上がり、貞光の首元まで達した。 このままでは彼女の自我カーネルが崩壊し、道満の操り人形になってしまう。


「まずいですわカケル殿! 普通の励ましでは届きません! 彼女の自己肯定感はマイナス三億です!」 渡辺綱が悲鳴を上げる。


僕は歯噛みした。 システム障害の原因は特定できた。 だが、復旧コマンドが通らない。 「頑張れ」「元気出せ」といったポジティブな言葉は、今の彼女にとっては毒だ。 眩しすぎる光は、闇を深めるだけなんだ。


「……なら、やり方を変える」


僕はスマホのライトを消した。 暗闇の中で、僕は仲間に合図を送った。


「みんな、彼女を『励ます』のはやめだ。彼女の『闇』を肯定(承認)するんだ!」


「肯定だと?」


「そうだ。バグを無理やり消すんじゃない。そのバグこそが『仕様(個性)』だと認めさせるんだ!」

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