【第四十三話】黒幕・蘆屋道満と、未来からのマルウェア
「お前は……誰だ」
清明が低く唸る。 彼には見覚えがあるようだった。
「忘れたのかい、清明。……ああ、この姿では初めてか」
男は布を取り去った。 その顔は清明に似ていたが、目つきは酷薄で、片方の瞳が赤く発光していた。 義眼? いや、サイボーグのような機械的な輝きだ。
「蘆屋道満。……かつて都を追放された、私のライバルだ」
「ククク。古いな、清明。私は進化したんだよ。……この『未来の叡智』を拾ってね」
道満がタブレットを操作すると、貞光を取り込んだノイズの巨人が咆哮を上げた。 彼は、未来から漂着した電子機器を解析し、陰陽術と融合させ、この世界を「ハッキング」する力を手に入れていたのだ。 僕のスマホが反応していた「不正アクセス」の正体は、こいつだ。
「この世は不便だ。病、老い、死……。だが、この端末の中に広がる『電脳の世界』は完璧だ。私はこの平安京を、全てデータ化して『保存』することにした」
「ふざけるな! それは世界を滅ぼすことと同じだ!」 僕が叫ぶと、道満は冷ややかに笑った。
「社畜風情が吠えるな。……お前たちの存在そのものが、私の計画の邪魔な『バグ』なんだよ。特に、その娘(貞光)の『負の感情』は、世界を初期化するのに最高の燃料だ」
貞光が苦しげに呻く。 彼女のネガティブな心が、世界を侵食するウイルスとして利用されている。
「返してもらうぞ! 貞光は僕の大事な部下だ!」
「やってみるがいい。……ただし、彼女を助けるには、彼女自身の『心の闇』と向き合い、論理的に論破する必要があるがな」
道満が指を鳴らすと、僕たちの足元が崩れ去った。 落下。 落ちた先は、貞光の精神世界――「絶望のダンジョン」だった。
「カケル! ここはどこだ!?」 頼光の声が響く。 周囲は真っ暗な闇。 その中に、無数の文字が浮かんでいる。 『どうせ無理』『私なんて』『死にたい』
「ここは貞光さんの心の中……OSの深層領域です」
僕は理解した。 これは物理戦闘じゃない。 貞光というシステムを正常化するための、超高難易度の「メンタルケア・ミッション」だ。
「聴こえますか、みんな。ここでの武器は『言葉』と『想い』です。彼女のネガティブを、僕たちのポジティブで上書き保存するんです!」
「上書き……? よくわからんが、励ませばいいのだな!」 頼光が立ち上がる。
「おう! 貞光! 腹減ってんのか! 肉食え!」 「違いますわ金時! 彼女に必要なのは恋のときめきです!」 「いや、機能的な工具の美しさを説くべきでは?」
方向性がバラバラだ。これでは余計にバグる。 だが、やるしかない。 現実世界では道満が世界をデータ化しようとし、精神世界では貞光が消滅しかけている。
「見せてやりましょう。筋肉と妄想と科学と社畜根性が混ざり合った、僕たちのチームワーク(カオス)の力を!」
僕はスマホのライトを闇に向けた。 ここからが、本当の戦いだ。 システムエンジニア・カケル VS 世界をハックする陰陽師・蘆屋道満。 平安京の存亡をかけた、電子と呪術の戦争が幕を開ける。




