【第四十二話】消失する四天王と、碓井貞光の闇堕ち
現場である六条河原に到着した僕たちは、絶句した。 そこには、風景がなかった。 河原の草木も、流れる川も、色を失い、白黒のワイヤーフレーム(線画)のような状態になっていたのだ。
「なんだここは……。色がねぇぞ」 坂田金時が自分の手を見る。彼女の肌の色も、灰色にくすんでいる。
「世界が……データ落ちしている」
僕が呟いた瞬間、空間の亀裂から、黒い「ノイズ」が溢れ出した。 それは形を持たない影の怪物たち。 武器で斬ろうとしても、手応えがなくすり抜ける。
「効かん! 斬っても再生するぞ!」 源頼光が雷撃を放つが、ノイズはそれを吸収して巨大化していく。
「物理攻撃が無効……いや、判定がない(当たり判定がない)んだ!」
これは現実の戦いじゃない。 プログラム上の「エラー」との戦いだ。 そして、このエラーが最も浸食しやすいのは――「心の隙間」を持つ者だ。
「……ああ。やっぱり、世界は私なんて必要としてないんだ……」
背後で、碓井貞光が膝をついていた。 彼女の周囲の空間だけ、異常な速度でノイズが侵食している。 彼女の「ネガティブ思考」が、バグとの親和性を高めてしまっているのだ。
「貞光さん! しっかりしろ! 飲み込まれるな!」
「カケル様……。私、見えます。この世界の裏側が……。ここは『空っぽ』なんです。私たちなんて、誰かが見ている『夢』の登場人物に過ぎない……」
「やめろ! それ以上考えるな!」
ズズズズズ……! 貞光の影が膨れ上がり、彼女自身を包み込んだ。 彼女の姿が、ノイズの塊へと変貌していく。 四天王の一人が、敵に取り込まれた。
「ウアアアア……キエタイ……ミンナ、キエチャエ……」
ノイズの巨人となった貞光が、虚ろな目(のような空洞)で僕たちを見下ろす。 彼女が放つ波動は、強烈な「虚無感」。 触れただけで、戦う気力が削ぎ落とされていく。
「体が……重い……。鉞が上がらねぇ……」 金時が膝をつく。 「嫌……。恋も、明日も、どうでもよくなってきましたわ……」 綱が刀を取り落とす。
最強の四天王が、内側から崩されていく。 仲間が敵になる。それも、最も厄介な形で。
「カケル! 貞光を斬るか!?」 頼光が苦悶の表情で叫ぶ。彼女も立っているのがやっとの状態だ。
「ダメだ! 斬ったら彼女のデータ(存在)ごと消滅する!」
物理で解決できない。 精神論でも勝てない。 必要なのは、このバグを修正する「コード」だ。
僕はスマホを掲げた。 画面には『デバッグモード起動』の文字。 だが、アクセス権がない。パスワードが必要だ。 この世界のバグを生み出し、貞光を利用しようとしている「黒幕」の正体を暴かなければ、修正パッチは当たらない。
その時、ノイズの向こうから、一人の男が拍手をしながら歩いてきた。
「素晴らしい。まさか『異界の理』で、ここまで耐えるとはね」
烏帽子を被り、顔半分を覆う布。 その手には、平安時代には存在しないはずの「黒いタブレット端末」が握られていた。




