【第三十九話】百鬼夜行の屋台と、消えたカケル
花火大会当日。 会場となったのは、京の都を流れる鴨川の河川敷だ。 季武と金時が建造した巨大な発射台が聳え立ち、その周囲には数え切れないほどの屋台が並んでいる。
だが、客層が異常だった。
「いらっしゃい! 新鮮な人の肝……じゃなくて、焼き鳥だよ!」 「輪投げはいらんかね! 入ったら呪いのアイテムをプレゼント!」
屋台を引いているのも、客として歩いているのも、半分以上が「人外」だ。 一つ目小僧がリンゴ飴を舐め、ろくろ首が高い位置から花火の見物場所を探し、唐傘お化けが日傘代わりにされている。 玉藻前のコネクションにより、全国から妖怪たちが集結していたのだ。
「カケル殿、怖いです……! でも、これが『お化け屋敷デート』という吊り橋効果なのですね!」 渡辺綱が僕の腕にしがみついて離れない。震えているのか興奮しているのか分からない。
「すげぇ! 妖怪も人間も関係ねぇな! みんな楽しそうだ!」 金時は屋台の焼きそば(僕がレシピを提供したソース焼きそば)を両手に持ち、妖怪たちと混じって踊っている。
「……私の居場所、ここかもしれない」 碓井貞光は、幽霊たちと意気投合して「人生の虚しさ」について語り合っている。馴染みすぎだ。
僕は人混みを避け、少し離れた土手で準備の様子を見守っていた。 隣には、警護役の頼光がいる。
「まったく。玉藻のやつ、好き勝手やりおって。……だが」 頼光が夜空を見上げる。 「カケル。そなたの言う『花火』とやらは、そんなに美しいのか?」
「ええ。一瞬で消えてしまいますけど、だからこそ綺麗なんです」
「一瞬、か。……私たちのこの時間も、いつか消えるのか?」
頼光が弱気なことを言う。 彼女の手が、そっと僕の手に触れた。 武人の硬い掌。でも、温かい。
「消えませんよ。僕がここにいる限り」
僕が握り返すと、彼女は嬉しそうに笑った。 その笑顔を守りたいと思った。
その時だった。
「ふふ。素敵な愛の語らいですこと」
不意に、視界が金色の霧に包まれた。 頼光の姿が霞む。 音が遠くなる。
「なっ……結界か!?」 頼光の叫び声が聞こえるが、姿が見えない。
「カケル様。特等席をご用意しましたわ」
霧の中から、玉藻前が現れた。 彼女は僕の背後から抱きつき、その豊かな胸を押し付けた。 耳元で甘い声が囁かれる。
「あんな汗臭い女の隣ではなく、わたくしの膝の上で花火を見ましょう?」
「玉藻さん、離して……!」
体が動かない。金縛りだ。 彼女の妖力は、ふざけている時の比じゃない。本気の大妖怪の力だ。
「さあ、参りましょう。今夜の主役はあなたですもの」
視界が反転する。 僕は土手から消え、鴨川の上空に浮かぶ「空飛ぶ屋形船(玉藻の妖術)」へと連れ去られた。
「カケル――ッ!!」
地上で頼光が叫ぶ声が聞こえた。 そして、ドォォォォン!! という最初の花火の打ち上げ音が、祭りの狂乱の合図となった。




