【第三十七話】貞光の呪い水着と、カモ川ビーチリゾート
エアコン計画が失敗に終わり、暑さに耐えかねた僕は、最後の手段に出た。 「水遊びだ。川へ行こう」
京都には鴨川が流れている。 そこで水浴びをすれば、この殺人的な暑さも凌げるはずだ。
「川遊びか! 魚は捕れるか!?」 金時が涎を垂らす。 「水辺……。それは水死体が上がる場所……。私にお似合いです……」 碓井貞光が暗い目で呟く。
「違うよ貞光さん。リゾートだよ。……そうだ、泳ぐなら『水着』が必要だな」
平安時代には水着という概念がない。基本はふんどしか、着物のまま入るかだ。 だが、それでは泳ぎにくいし、何より僕の目の保養にならない。
「貞光さん。前回のTシャツの件は忘れるから、新しい服を作ってくれないか? 水に濡れても重くならない、身体にフィットする服だ」
僕は地面に、ワンピースタイプとビキニタイプの絵を描いた。 貞光はそれをジッと見つめ、小さく頷いた。
「……わかりました。布面積が少ないですね。……これなら、着る人の羞恥心を極限まで煽り、精神を崩壊させる呪具が作れそうです……」
「方向性がおかしいけど、頼んだ!」
数時間後。 僕たちは鴨川の河原に立っていた。 即席の更衣室(幕を張っただけ)から、ヒロインたちが次々と出てくる。
まずは金時。 彼女はトラ柄のビキニだ。 「うおー! 動きやすいぜ! これならナマズも手掴みできる!」 健康的で躍動感あふれるボディ。似合いすぎている。
次は綱。 彼女はフリルのついたワンピースタイプ。 「いかがですかカケル殿……。この『スクール水着』という概念、禁断の香りがしますわ……」 顔を真っ赤にしてモジモジしている。可愛い。
そして、頼光。 更衣室からなかなか出てこない。
「頼光さーん? まだですか?」
「う、うるさい! ……今出る!」
バッ! と幕が開いた。 そこに立っていたのは、極限まで布面積を削ぎ落とした、紐のようなビキニを身に纏った頼光だった。 貞光の嫌がらせ(呪い)か、サイズが明らかに小さい。 豊満な肢体がこぼれ落ちそうだ。
「ど、どうだ……。変ではないか……?」
頼光が顔を真っ赤にして、腕で体を隠そうとしている。 普段の威風堂々とした姿とのギャップ。 恥じらい。 破壊力が凄まじい。僕は鼻血を抑えるのに必死だった。
「……似合ってます。最高です」
「そ、そうか……。カケルがそう言うなら……」
彼女が少し安心したように微笑んだ、その時。
「あらあら。皆様、貧相な布切れで水遊びですか?」
川の上流から、屋形船に乗って現れたのは、やはり玉藻前だった。 彼女が纏っているのは、水着ではない。 濡れると透ける、極薄の羽衣だ。 その下には、何も着ていないように見える(着ていると信じたい)。
「カケル様。庶民の川遊びなどやめて、わたくしの船で『大人の夕涼み』はいかが?」
玉藻が船の上から手招きする。 その妖艶な姿に、川遊びをしていた一般男性たちが次々と鼻血を出して沈んでいく。
「また貴様か……!」 頼光がビキニ姿のまま、川の中へざぶざぶと入っていく。 「カケルは渡さん! こっちには『すいか割り』というイベントがあるのだ!」
「スイカ? あら、わたくしの船には『オイルマッサージ』がありますわよ?」
「オイルだと!? ……カケル、どっちがいい!?」
頼光と玉藻が、僕を挟んで睨み合う。 健康的な水着美女と、妖艶な羽衣美女。 究極の二択。
「……僕は、金時と魚を捕ります!」
僕は逃げた。 このままでは、また鴨川が血で染まる。 僕は金時と一緒に網を持って川へダイブした。
「兄ちゃん! でかいアユがいたぞ!」 「よーし、今夜は塩焼きだ!」
背後では、頼光の放った雷と、玉藻の狐火が衝突し、川の水が温泉のように沸騰していた。 貞光が「お湯加減がいい感じです……死ねそう……」と浸かっている。 季武が「水蒸気爆発のデータが取れる!」と喜んでいる。
平安の夏休みは、命がいくつあっても足りない。 けれど、夕日に照らされた彼女たちの笑顔(と水着姿)は、どんな現代のリゾートよりも輝いて見えた。




