【第三十三話】背脂チャッチャ系! 平安京ラーメン革命
「米と漬物はもう飽きた!」
ある日の夕餉。 僕はちゃぶ台をバン! と叩いて立ち上がった。 目の前に並ぶのは、いつもの玄米、漬物、そして干物。健康的には最高だが、ジャンクフードで育った現代人の体は、もっと暴力的で背徳的な味を求めていた。
「どうしたカケル。マムシが足りんのか?」 頼光が不思議そうに首を傾げる。
「違います。僕が食べたいのは……『ラーメン』です!」
「らーめん? なんだそれは。新しい呪文か?」 金時が箸を止める。
「小麦粉を練った麺を、豚や鶏の脂ぎったスープで食べる、中華渡来の最強料理です。……よし、作ろう。材料ならある!」
僕は立ち上がった。 SEの基本は、ないものは作る(開発する)ことだ。 幸い、この屋敷には優秀な「リソース(人材)」が揃っている。
「季武さん! ママチャリの動力を使って『自動製麺機』を作れますか?」 「ふふん、回転運動を往復運動に変えて生地を延ばし、裁断するのですね? 造作もない!」
「金時! お前は山で猪を狩ってこい! 骨まで砕いてスープにするんだ!」 「肉か! 肉なら任せろ!」
「頼光さん! あなたには……チャーシュー(焼豚)係を命じます!」
その瞬間、場が静まり返った。 綱が「カケル殿、死に急ぎすぎです!」と叫び、貞光が「遺書を書く準備をします……」と筆を取り出す。 頼光本人も、少し不安げに自分の手を見た。
「私に……料理を? また爆発させるぞ?」
「大丈夫です。今回は僕がつきっきりで『温度管理(火加減)』を監視します。あなたのその火力、正しく使えば最高の武器になるんです!」
僕の熱意に、頼光の頬がポッと染まった。
「……そなたがそこまで言うなら、信じよう。最高の『ちゃーしゅー』とやらを焼いてみせる」
プロジェクト『家系ラーメン』始動。 庭先には季武が開発した「蒸気機関式製麺機(動力:金時)」が設置され、金時がペダルを漕ぐたびに、黄金色の麺が次々と吐き出される。 「うおおお! 出るぞ! 麺が出るぞぉぉ!」
台所では、僕と頼光が竈と格闘していた。 「頼光さん! 火が強すぎます! 中火でじっくり!」 「ええい、まどろっこしい! 雷で焼けば一瞬ではないか!」 「それだと炭になります! 愛情を込めて!」
「愛情……うむ、愛情だな……カケルへの愛……」 頼光はブツブツと呟きながら、真剣な眼差しで肉を見つめている。その横顔は、戦場の鬼神ではなく、健気な乙女そのものだった。
そして数時間後。 屋敷中に、今まで嗅いだことのない濃厚な醤油と脂の香りが充満した。
「完成だ……!」
どんぶりの中には、白濁した豚骨醤油スープ。 季武特製のちぢれ麺。 そして、頼光が奇跡的に焦がさず(少し焦げたがそれが香ばしい)焼き上げた、分厚いチャーシュー。
「いざ、実食!」
全員が一斉に麺をすする。 ズルズルズルッ!
「…………ッ!!」
全員の動きが止まった。
「な、なんじゃこりゃあぁぁぁ!」 金時が絶叫した。 「濃い! 味が濃い! 舌が痺れるほど美味い! この脂、飲み物なのか!?」
「麺のコシ……完璧ですわ。私の計算通り、スープが絡みついて離れない!」 季武が眼鏡を曇らせて震えている。
「この肉……私が焼いたのか? 柔らかい……口の中で解けるぞ……!」 頼光は自分の作ったチャーシューに感動して泣いている。
「はぁ……罪深いです。こんな夜中に炭水化物と脂質の塊を……。太ります。でも箸が止まらない……。これが堕落の味……」 貞光はネガティブなことを言いながら替え玉を要求している。
大成功だ。 平安京の食卓に、ラーメンという革命が起きた瞬間だった。 だが、その強烈な匂いは、屋敷の外にまで漏れ出していた。 「おい、なんだこの美味そうな匂いは!」 「源の屋敷からだぞ!」 匂いにつられた貴族や武士たちが、ゾンビのように屋敷の前に集まり始めていたのだ。
「カケル……どうする? 表に行列ができておるぞ」
僕はニヤリと笑った。 「商機ですね。……やりましょう、ラーメン屋『頼光』開店です!」
その夜、源頼光の屋敷は、京一番の行列店となった。




