表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/61

【第三十二話】ネガティブ裁縫師と、呪いのファッションショー

トイレ爆破事件の翌日。 僕はまたしても悩んでいた。 頼光の「破壊洗濯」によってジャージを失い、今は清明さんから借りた狩衣(平安貴族の服)を着ているが、これが動きにくい。 袖が長い。裾が長い。そして何より、トイレ(修復中の木の箱)で邪魔になる。


「はぁ……。動きやすい服が欲しいな。Tシャツと短パンが恋しい」


僕が縁側でため息をついていると、床下からドロドロとした声が聞こえてきた。


「……服、ですか。……私でよければ、作れますけど……」


「うわっ!?」


床板がめくれ、そこから碓井貞光うすいさだみつが顔を出した。 相変わらず目のクマが酷い。そしてなぜ床下に住んでいるんだ。


「貞光さん、裁縫ができるの?」


「はい……。友達がいなかったので、一人で人形の服を作って呪いを込めるのが趣味でしたから……」


動機が怖い。 だが、彼女の手先が器用なのは確かだ。四天王の中で唯一、細かい作業ができそうな人材である。


「じゃあ、お願いできるかな? 僕の世界の服を再現してほしいんだ」


僕は地面にTシャツとハーフパンツの絵を描いて説明した。 構造は単純だ。着物の余り布を使えば作れるはずだ。


「わかりました……。どうせ私が縫った服なんて、着たら不幸になる呪いの装備になるでしょうけど……やってみます……」


貞光はジメジメと呟きながら、自分の部屋(押し入れ)に引きこもった。 数時間後。 カタカタとミシンのような音(手縫いなのに速すぎる)が止み、貞光が出てきた。


「……できました。……これです」


彼女が差し出したのは、確かにTシャツと短パンだった。 だが、デザインが致命的だった。


生地は真っ黒。 そして胸元には、赤色の糸で『絶望』『苦行』『来世に期待』といった文字が、お洒落なロゴ風に刺繍されている。 さらに、短パンの裾からは、謎のお札が何枚も垂れ下がっていた。


「……貞光さん。この文字は?」


「私の心の叫びをデザインに取り入れました……。これを着れば、周囲の人々を鬱状態にさせる『歩くパワースポット(負)』になれます……」


「いらない機能つけないで!」


だが、着るものがない。 僕は渋々、その「呪いのセットアップ」に袖を通した。 着心地は悪くない。むしろ肌触りは最高だ。さすが器用なだけはある。見た目がデスメタルバンドの物販Tシャツみたいであることを除けば。


「あら。カケル、妙な格好をしておるな」


そこへ、頼光たちが帰ってきた。 彼女は僕の姿を見るなり、目を丸くした。


「脚が出ているぞ! なんて破廉恥な!」 「カケル殿! それは『生足』というやつですね! 眩しいです!」 綱が興奮して鼻血を出している。


「ふん。だが、その服……どこか貧相だな」


頼光が不満げに腕を組む。 すると、どこからともなく甘い香りが漂ってきた。


「あらあら。相変わらず貧乏くさい格好をされていますね、カケル様」


門の向こうから現れたのは、あの傾国の美女・玉藻前たまものまえだった。 彼女は今日も黄金のオーラを纏い、扇子で優雅に仰いでいる。


「た、玉藻さん……」


「見ていられませんわ。わたくしが、もっと素敵な衣装を用意しましたのに」


玉藻が指を鳴らすと、空から数人の従者(狐のお面をつけた怪しい男たち)が降りてきた。 彼らが捧げ持っているのは、金糸銀糸で刺繍された、最高級の狩衣だ。 輝いている。物理的に発光している。


「さあ、カケル様。その薄汚れた布切れを捨てて、わたくしの用意した『王の衣』をお召しくださいな」


玉藻が妖艶に微笑み、僕の手を取ろうとする。


「待てェッ!!」


轟音と共に、頼光が二人の間に割って入った。 彼女の背中には、般若の幻影が見える。


「泥棒猫……! 懲りずにまた現れたか! カケルの服を選ぶのは、妻であるこの私の役目だ!」


「あら、怖い。でも、あなたの選ぶ服は、カケル様の魅力を殺していますわよ? 筋肉バカには分からない美学がありますの」


「なんだと……!」


火花が散る。 正妻(自称)VS 愛人(自称)。 その横で、綱が「私の手編みのセーター(製作期間三年)を着て欲しいですわ!」と叫び、金時が「俺の腹掛け貸してやるよ!」と謎の提案をしている。


僕は『絶望』と書かれたTシャツを着たまま、美少女たちのファッション戦争の中心で立ち尽くしていた。 トイレも服も、平和に手に入るものは何一つない。 これが、平安ライフの洗礼か。


「もう全員、ユニクロ行ってこいよ……!」


僕の悲痛なツッコミは、頼光と玉藻の放つ闘気にかき消され、虚しく京の空に響いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ