表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/61

【第三十一話】悲願の水洗トイレと、暴走するオーバーテクノロジー

「限界だ。もう無理だ」


朝の会議(という名の朝食会)で、僕はちゃぶ台をバン! と叩いた。 目の前には、味噌汁をすする源頼光、巨大な魚を骨ごと噛み砕く坂田金時、優雅にお粥を食べる渡辺綱、そして新入りの二人。


「どうしたカケル。またマムシの握り飯が食いたいのか?」 頼光が善意100%の笑顔で猛毒を勧めてくる。


「違います。トイレです」


僕は真剣な眼差しで訴えた。 この屋敷のトイレは「樋箱ひばこ」。要するに木の箱だ。 水洗ではない。臭い。そして何より、尻を拭くのが「木のヘラ」だ。 現代人の柔らかなお尻にとって、それは毎朝行われる拷問に等しい。


「私は決意しました。この屋敷に『水洗トイレ』を導入します」


「すいせん? なんだそれは。新しい必殺技か?」 金時が首を傾げる。


「水流の力で汚物を異次元へ葬り去る、文明の利器ですよ。……季武さん、協力してくれますね?」


僕が指名したのは、四天王の頭脳派メカニック、卜部季武うらべすえたけだ。 彼女は牛乳瓶の底のような眼鏡をクイッと押し上げ、ニヤリと笑った。


「ほう。水流制御ハイドロ・コントロールですか。……興味深い。この時代の治水技術は遅れていますからねぇ。私が本気を出せば、カケル殿の理想郷を作れるかもしれませんよ?」


「頼もしい! さっそく設計図を書きます!」


僕はスマホ(充電残りわずか)に残っていた配管図を参考に、地面に木の枝で設計図を描いた。 タンクに水を溜め、レバー操作で弁を開き、サイフォンの原理で汚物を流す。 シンプルだが、平安時代には革命的なシステムだ。


「なるほど……。位置エネルギーを運動エネルギーに変換し、ボルテックスを作るわけですね」 季武がブツブツと呟きながら、目を怪しく光らせる。 「いいでしょう。私の工房にある廃材と、金時の怪力があれば、半日で実装可能です」


「よし! プロジェクト『TOTOトイレ・オブ・ザ・オーガ』始動だ!」


作業は順調に進んだ。 金時が「うおおお!」と叫びながら井戸から水を汲み上げ、綱が「不浄を流す……つまり失恋の痛手も流せるのですね」とポエムを詠みながら配管を繋ぐ。 そして夕方。 屋敷の裏庭に、異様な存在感を放つ「それ」が完成した。


「……季武さん。これ、何ですか?」


僕は目の前の物体を指差して震えた。 僕が頼んだのは、シンプルな便器だ。 だが、そこに鎮座していたのは、黒鉄で補強され、無数のパイプが張り巡らされ、なぜか蒸気機関のような煙突までついた「要塞」だった。


「ふふん。カケル殿の設計図があまりに原始的だったので、私のアレンジ(魔改造)を加えました」


季武が得意げに胸を張る。


「名付けて『ハイパー・ウォッシュ・システム Mk-II』です! こだわったのは水圧ですね。通常の十倍の圧力で、どんな汚れも分子レベルで粉砕します」


「強すぎるよ! 尻がなくなるよ!」


「さらに、使用中は自動的にロックがかかり、外部からの敵襲に備えて迎撃ミサイル(花火)が発射される防衛機能付きです」


「トイレで戦争する気か!」


「さあカケル殿! 栄えある第一号の『放出』をお願いします!」


全員の期待の眼差し(と、季武の狂気じみた目)に見つめられ、僕は逃げ場を失った。 やるしかない。男には、やらねばならない時がある。 僕は震える足で、その鉄の玉座に座った。


「い、いきます……!」


用を足し(緊張で出なかったが)、僕は恐る恐る「洗浄レバー」を引いた。


ガシャン! ギュイイイイーン! けたたましい駆動音が響く。


「洗浄シークエンス、起動!」 季武が叫ぶ。


ドッゴォォォォォン!!


便器の底から、間欠泉のような水流が噴き出した。 それは「流す」レベルではない。「打ち上げる」威力だ。


「ぎゃああああああ!」


僕は水流に乗って空高く舞い上がった。 平安京の夕焼けが綺麗だった。 宙を舞いながら、僕は思った。 便利さを求めすぎると、人は空を飛ぶことになるんだな、と。


「カケル! 大丈夫か!」 頼光がジャンプして僕をキャッチしてくれたおかげで、一命は取り留めた。 だが、僕のトイレ改革は、屋敷の半壊という尊い犠牲を払って失敗に終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ