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【第二十九話】破壊神の洗濯と、ジャージの殉職

「カケル。脱げ」


昼下がり。縁側で僕が壊れたスマホ(充電切れ)を磨いていると、源頼光が仁王立ちで現れた。 彼女は袖をたすき掛けにし、気合十分といった様子だ。


「え、いきなり何ですか。コンプライアンス的に問題があります」


「洗濯だ。昨日の『泥棒猫』の匂いがついた服など、私が洗い流してやる」


彼女はまだ昨日の美女(玉藻前)の件を根に持っているらしい。 嫉妬深い妻(自称)の行動力は凄まじい。


「ほら、その奇妙なジャージも出せ。まとめて綺麗にしてやる」


頼光は庭に置いた巨大なたらいを指差した。中には水が波々と張られている。 まあ、洗濯してくれるならありがたい。僕は着ていた現代のジャージ(最後の一着)を脱いで渡した。


「任せておけ。鬼の血を洗うより簡単だろう」


頼光はジャージをたらいに放り込むと、両袖をまくり上げた。 そして、深呼吸。


「ふんっ!」


ドォォォン!!


水柱が上がった。 彼女は両手でジャージを掴み、たらいの底板に叩きつけたのだ。 洗濯板を使うのではない。たらいそのものを洗濯板にしている。


「せいっ! はあっ! どうだ! 綺麗になるであろう!」


バシン! バシン! グチャァ! 凄まじい音が響く。 繊維が悲鳴を上げている。あれは「洗う」動きではない。「トドメを刺す」動きだ。


「ちょ、頼光さん! ストップ! それ以上やると……!」


「甘いぞカケル! 汚れとは、根源から断たねば意味がないのだ!」


彼女は聞く耳を持たない。 ジャージを雑巾のように絞り上げ(ブチブチという音がした)、さらにブンブンと振り回して空中で乾燥(という名の遠心分離攻撃)させ、最後に物干し竿へ叩きつけた。


「完了だ! どうだ、見違えたであろう!」


頼光がドヤ顔で指差す先。 物干し竿にぶら下がっているのは、見るも無惨に引き伸ばされ、袖がちぎれ、襟元がダルダルになった、かつてジャージだった「布の残骸」だった。


「あ……僕の……最後の文明が……」


僕は膝から崩れ落ちた。 これでもう、僕が現代人であることを証明する服はなくなった。


「む? なんだその顔は。感謝のあまり言葉も出ないか?」


「違います。絶望してるんです」


「照れるな。……次は、そなたの体を洗ってやろうか?」


頼光がギラついた目で近づいてくる。 あの剛力で体を洗われたら、皮膚どころか肉まで削ぎ落とされる。


「ひぃッ! 結構です! 間に合ってます!」


僕は脱兎のごとく逃げ出した。 この屋敷に安全な場所はない。ブラック企業の方がまだ福利厚生(身の安全)がマシだったかもしれない。

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