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【第二十八話】傾国の美女と、嫉妬の炎上案件

朝の騒動(頼光による物理的介護と、綱による嫉妬の視線)をなんとか乗り切り、僕は気分転換に都の大路を歩いていた。 護衛は金時だ。


「へへっ、兄ちゃん! あの団子屋、寄っていこうぜ!」


金時は相変わらずだ。彼女だけが僕の心のオアシス……いや、食費を圧迫する怪獣だ。 団子を買い与え、食べ歩きをしていると、通りが急にざわつき始めた。


「おい、見たか? あの女……」 「なんて美しいんだ……」 「この世の者とは思えぬ……」


街行く男たちが、次々と足を止め、魂を抜かれたように一点を見つめている。 その視線の先。 朱雀大路の向こうから、一人の女性が歩いてきた。


息を呑むほどの美女だった。 流れるような金色の髪(平安人にはあり得ない色彩)。 透き通るような白い肌。 そして、妖艶な笑みを浮かべた唇。 十二単を纏っているが、その着こなしはどこか扇情的で、動くたびに甘い香りが漂ってくるようだ。


「……すげぇ美人だな。でもなんか、変な匂いがするぞ」 金時が鼻をヒクつかせる。獣の勘が何かを感じ取っているらしい。


美女は、まるで最初から僕を知っているかのように、真っ直ぐにこちらへ歩いてきた。


「あら。あなたが噂の……異界から来られた方?」


鈴を転がすような声。 彼女は扇子で口元を隠し、流し目で僕を見た。 その瞳の奥には、金色に光る妖しい輝きがある。


「は、はい。カケルと言いますが……」


「ふふ。わたくしは玉藻たまも。……以後、お見知りおきを」


玉藻と名乗った美女は、すれ違いざまに僕の耳元に唇を寄せた。


「……あなたのその『力』、とても美味しそうですね」


ゾクリとした。 誘惑ではない。捕食者の気配だ。 彼女はそのまま、振り返りもせずに人混みへと消えていった。


「な、なんだあの人……」


心臓が早鐘を打っている。 ただの貴族の娘じゃない。あの目は、人間を見る目じゃなかった。


「おいカケル! ここにおったか!」


ドスドスと足音を立てて、頼光が走ってきた。 彼女は鬼の形相で周囲を睨みつけている。


「今、強烈な妖気を感じたぞ。……む? カケル、そなたから女の匂いがするな?」


「えっ」


頼光が僕の胸元に顔を埋め、クンクンと匂いを嗅ぐ。警察犬か。


「甘ったるい香の匂いだ。……貴様、私という妻がありながら、どこぞの女と密会していたのだ!?」


「妻じゃないし密会もしてません! 通りすがりの人に挨拶されただけです!」


「嘘をつけ! この匂いは『魅了チャーム』の術に近い。……どこの泥棒猫だ。私のカケルにマーキングするとは、いい度胸ではないか」


頼光が刀の柄に手をかける。 その目には、鬼退治の時よりも濃い殺意が宿っていた。


「カケル殿! 浮気ですか!?」


どこからともなく綱も現れた。 彼女は手に「藁人形」と「五寸釘」を持っている。準備が早すぎる。


「ひどいですわ……。私がこれほど愛しているのに、ポッと出の女にうつつを抜かすなんて……。呪います。その女を呪って、カケル殿も呪って、二人で地獄への愛の逃避行を……」


「やめて! 思考がヤンデレに突入してる!」


「兄ちゃん、モテモテだなー」 金時が団子を頬張りながら他人事のように言う。


だが、僕は直感していた。 あの「玉藻」という女。 彼女が現れてから、都の空気が少し変わった気がする。 酒呑童子とは違う、もっとドロドロとした、絡みつくような悪意。 僕の平安ライフ第二章は、色恋沙汰と、国を傾ける大妖怪との戦いがセットでやってきそうだ。

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