【第二十七話】勘違い総大将と、地獄のモーニングコール
“帰らない”を選択したカケルと“一緒にいたい”頼光たち。
あたらしい物語がスタートします。
「ん……」
朝。小鳥のさえずりで目が覚めた。 見慣れない天井。古い木の匂い。 ああ、そうだ。僕は帰らなかったんだ。 社畜生活に別れを告げ、この平安京で生きていくことを選んだのだ。 今日からは、頼光たちのサポートをしつつ、少しはのんびりしたスローライフを――
「起きたか、我が夫(予定)よ」
目の前に、源頼光の顔があった。 距離、およそ3センチ。 吐息がかかる近さだ。彼女は頬杖をついて、寝ている僕を至近距離で観察していたらしい。
「うわあああッ!?」
僕は飛び起きて、布団ごと後ろに下がった。
「な、ななな、何を遊んでるんですか頼光さん! 朝から心臓に悪い!」
「遊んでなどいない。妻として、夫の寝顔を見守るのは義務であろう?」
「妻? 夫?」
頼光はきょとんとしている。
「何を言う。昨日、そなたは帰還の道を捨ててまで、私と共に生きることを選んだではないか。それはつまり、私への求婚と同義。違うか?」
「違います! 全然違います! ただの転職です!」
「照れるな。……さて、新婚の朝といえばこれだ」
頼光が布団をめくり、強引に僕の手を引いた。
「顔を洗ってやる。じっとしておれ」
彼女の手には、濡れた手ぬぐい……ではなく、ゴワゴワした荒縄のような布が握られている。
「待って! それ何ですか!?」 「垢すりだ。これで顔を磨けば、男らしいツラ構えになるぞ」 「顔が削れます! 皮膚がなくなります!」
「問答無用! さあ、綺麗にしてやるぞ!」
「ギャアアアア!」
ゴシゴシゴシ! 頼光の剛力による洗顔(研磨)が始まった。 痛い。熱い。愛が痛い。 彼女にとっての「世話焼き」は、僕にとっての「耐久試験」だ。
「おはようございますカケル殿……ッ!?」
そこへ、障子を開けて渡辺綱が入ってきた。 彼女は、赤くなった僕の顔(摩擦熱)と、覆い被さるような体勢の頼光を見て、持っていたお盆を取り落とした。
「あ、朝から……! なんて淫らな……! いけません! 神聖な朝にそのような行為は!」
「違うんだ綱さん! これはただの拷問だ!」
「拷問……? 愛の鞭、ということですか? ……羨ましい!」
綱がギリギリと歯ぎしりをする。 彼女の目は完全に据わっていた。
「頼光様。抜け駆けは許しませんわ。カケル殿は私の『運命の人』。貴女様が物理攻撃で攻めるなら、私は精神攻撃で落としてみせます!」
「ほう? 面白い。受けて立とう」
頼光がニヤリと笑う。 二人の間に火花が散る。 僕の平穏なスローライフ計画は、開始五分で崩壊した。 ここにあるのは、血で血を洗う「正妻戦争」のゴングだけだ。




