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【第二十五話】鬼のホワイト宴会と、社畜の接待芸

大江山の頂上にある鬼の御殿は、今や巨大な宴会場と化していた。 ついさっきまで殺し合いをしていた人間と鬼が、肩を組んで酒を飲んでいる。 この光景、歴史の教科書に載せたら学会が転覆するだろう。


「ガハハハ! 飲め人間! ウチの福利厚生は手厚いぞ!」


酒呑童子が豪快に笑い、僕の盃に波々と酒を注ぐ。 彼は毒酒を飲んだダメージなど微塵も感じさせない。むしろデトックスしたかのように肌艶が良い。


「社長! こちら、人間界から仕入れた『柿の種』でございます!」 「ほう! この辛味、酒が進むな!」


僕は完全に「接待モード」に入っていた。 SE時代、気難しいクライアントを接待で懐柔してきたスキルが、平安最強の鬼相手に火を吹いている。 ポテチ、柿の種、ビーフジャーキー。 僕たちが持ち込んだ未来の乾き物が、鬼たちに大ウケしていた。


「カケル! 私の酒がないぞ! 注げ!」


隣では、源頼光がすでに出来上がっていた。 彼女は酒呑童子に対抗心を燃やし、ピッチを上げている。 顔は真っ赤、着物は着崩れ、鎖骨が露わになっている。色気が致死量を超えている。


「はいはい、飲みすぎですよ頼光さん。水も飲んでください」 「うるさぁい。……カケル、そなたは誰の式神だ? 私か? それともあの赤髪の鬼か?」 「あなたの式神ですよ」 「ならば証明しろ。……膝枕を所望する」 「え?」 「聞こえんのか! 膝だ!」


頼光は強引に僕の太ももに頭を乗せ、ゴロンと横になった。 柔らかい髪の感触。上目遣いで潤んだ瞳。 周囲の鬼たちが「ヒューッ!」と野次を飛ばす。


「見ろよ、人間たちも仲が良いじゃねぇか」 「あれは『公開イチャつき』という儀式だろ?」


「ち、違いますわ! あれは私がやるはずでしたのに!」


渡辺綱がハンカチを噛み締めて悔しがっている。 彼女の周りには、なぜか鬼のファンクラブが出来ていた。 「姉ちゃん、その『壁破壊ウォール・ブレイク』の話、もう一回聞かせてくれよ!」 「ええ、いいですとも。恋とは破壊。壁ドンとは、物理的な壁をも超える愛の衝撃なのです」 「すげぇ! 勉強になるぜ!」 鬼たちが綱の妄想恋愛論を真剣にメモしている。この山、大丈夫か。


「おい兄ちゃん! この『肉』おかわり!」


坂田金時は、酒呑童子の側近である茨木童子いばらきどうじと「わんこそば」ならぬ「わんこ肉」対決をしていた。 「負けねぇぞ人間! 俺の胃袋は底なしだ!」 「甘いな! 俺は成長期だ!」 二人の周りには、牛の骨が山のように積み上がっている。食費だけで国が傾きそうだ。


「……あの、私、隅っこで体育座りしててもいいですか?」


碓井貞光は、宴会の喧騒から逃れるように部屋の角に同化していた。 だが、そこにも鬼が寄ってくる。 「姉ちゃん、暗い顔してんなぁ。悩みがあるなら聞くぞ?」 「ウチはメンタルヘルスケアも充実してるからな!」 「……眩しい。あなたたちの陽キャオーラが、私の陰の気を蒸発させる……」 貞光はホワイト企業の優しさに浄化されかけていた。


「ふふっ、この金棒の合金比率、興味深いですねぇ」


卜部季武は、宴会そっちのけで鬼の武器を鑑定している。 「ねえ赤鬼さん、このトゲトゲ、ねじ込み式に改造しませんか? 殺傷力が三倍になりますよ?」 「え、いや、俺たちはそこまでガチじゃ……」 鬼の方が引いている。


カオスだ。 だが、悪い空気ではない。 僕は膝の上の頼光の髪を撫でながら(撫でないと怒るからだ)、スマホの画面を確認した。


『時空の歪みレベル:安定』 『帰還ルート解析率:80%』


清明の術と、この場所の霊脈がリンクしているのか、解析スピードが上がっている。 帰れる。 その時が、確実に近づいている。


「カケル」


膝の上の頼光が、不意に呟いた。 彼女は眠そうな目をこすり、僕の手をぎゅっと握った。


「……帰るな」


小さな声だった。 喧騒にかき消されそうな、けれど確かに響く声。


「酒呑童子も倒した。四天王も揃った。……だが、そなたがいなくなれば、誰が私の飯を作るのだ? 誰が綱の妄想を止めるのだ? 誰が金時の暴走を抑えるのだ?」


「それは……」


「私は、寂しいのだ。……カケル、そなたが必要なのだ」


彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ、僕のズボンに染み込んだ。 最強の武人が見せた、これ以上ない弱さ。 僕は言葉に詰まった。 元の世界には、快適な生活がある。 でも、ここには「僕を必要としてくれる人」がいる。


「……頼光さん」


僕が何かを言いかけた時、スマホが激しく振動した。 宴会の空気を切り裂くような、不吉なアラート音。


『警告:解析完了』 『帰還ゲート発生地点:確定』 『場所:平安京・羅生門』


そして、もう一つの通知。


『警告:ゲート付近に、極大の「負のエネルギー」を検知』 『推定正体:ブラック企業店長の最終形態ラスボス


「……やっぱり、タダじゃ帰してくれないか」


僕は頼光を起こし、立ち上がった。 宴は終わりだ。 最後の仕事(残業)が待っている。

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