【第二十一話】鉄壁の関所と、ネガティブ・ジャマー
大江山の麓。 そこには、鬼たちの領域を隔てる巨大な関所があった。 切り立った崖の間に築かれた、黒鉄の城門。 その前には、身長三メートルはある赤鬼と青鬼が、金棒を持って仁王立ちしている。
「止まれ! 貴様ら、何奴だ!」
赤鬼の怒号が響く。 空気がビリビリと震える。 頼光がピクリと反応し、条件反射で刀に手をかけそうになるのを、僕は必死で抑えた。 ステイ。まだ抜刀の時じゃない。
「お、お助けください、おに……いや、鬼神様」
僕は前に出て、平身低頭した。 社畜時代に培った、クライアントへの土下座スキルが火を吹く。
「我々は、ただの貧しい山伏です。道に迷い、水も食料も尽きかけ……どうか、慈悲を」
「ああん? 山伏だと?」
青鬼が疑わしそうに僕たちを見下ろす。 その視線が、後ろに控える美少女たちに止まった。
「ほう。汚い格好だが、よく見れば上玉の女ばかりじゃねぇか」 「へへっ、酒呑童子様への良い土産になるな」
鬼たちが下卑た笑いを浮かべる。 想定内だ。鬼は女好き。それを逆手に取る。
「お待ちください! 女たちは差し上げます! ですが、その前に一つだけ!」
僕の言葉に、綱が「ひっ、売られた!」と悲鳴を上げ、頼光が「カケル!?」と殺気を放つ。 僕は背中で「演技です」と合図を送り、貞光の背中を押した。
「この女は、未来を予知する力を持っています。鬼神様たちの運勢を占わせてはいかがでしょう?」
「予知だと?」
赤鬼が興味深そうに貞光を見る。 貞光は、ガタガタと震えながら前に出た。 彼女の目は死んでいる。
「……占います。……あなたたちの未来は……」
貞光がボソボソと呟き始める。 彼女の周囲から、ドス黒いオーラが立ち上る。
「……見えます。明日は雨です。洗濯物は乾きません。来週は金棒が錆びます。再来週は階段で小指をぶつけます。一年後には……ああ、言えない。悲惨すぎて言えない。角が折れてハゲるでしょう……」
「や、やめろ!」
赤鬼が後ずさる。 貞光の放つ「負の波動」は、精神攻撃として強烈すぎる。 聞いていた青鬼の方も、なぜか急に涙目になり膝をついた。
「俺……なんで生きてるんだろう。鬼やってて楽しいのかな。田舎の母ちゃんに会いたいな……」
「効果覿面すぎる!」
鬼たちのメンタルが崩壊した隙に、季武が動いた。 彼女は音もなく城門の蝶番に近づくと、懐から謎の工具を取り出した。
「ふふっ、この時代の鋳造技術、甘いですねぇ。構造が単純すぎます」
カチャカチャカチャ。 高速の解体作業。 彼女は「鍵を開ける」のではなく、「門の構造そのものを分解」し始めた。
「よし、ピンを抜きました。あとは押せば倒れます」
「凄腕のハッカーかよ!」
僕は呆れつつ、合図を出した。
「今だ! 強行突破!」
「オラァッ!」
金時がママチャリごと体当たりをかます。 巨大な鉄の門が、蝶番を外されたことであっけなく轟音と共に倒壊した。
ズガァァァン!
「なっ、何事だ!?」 鬱状態になっていた赤鬼と青鬼が、驚いて顔を上げる。 だが、もう遅い。
「通らせてもらうぞ」
頼光が一閃。 峰打ちだが、雷を纏った一撃で鬼たちは白目を剥いて吹き飛んだ。
「侵入成功!」
僕たちは土煙を上げて、大江山の内部へと雪崩れ込んだ。 セキュリティホール(貞光と季武)の使い方が、我ながら完璧だった。




