【第十七話】問題児だらけの求人活動(リクルーティング)
「さて。プロジェクト『酒呑童子討伐』のキックオフミーティングを始める」
清明の屋敷から戻った翌朝。 僕は頼光の屋敷の広間で、ホワイトボード代わりの大きな和紙を壁に貼り出し、筆を指揮棒のように構えて宣言した。 目の前に座っているのは、僕のチームメンバーたちだ。
「おう! 飯か? 飯の時間か?」 坂田金時が期待に満ちた目で涎を垂らしている。彼女の頭の中は常にカロリー摂取で埋まっている。 「カケル殿。この『会議』というのは、密室で男女が膝を突き合わせる……つまり集団お見合い(合コン)のことでしょうか?」 渡辺綱が頬を染めて身を乗り出す。彼女の思考回路はピンク色にショートしている。 「カケル、酒はまだか。作戦会議には酒が付き物だろう」 源頼光が朝から徳利を振っている。この人は肝臓が鉄でできているのか。
僕は大きなため息をつき、和紙に太い文字を書いた。
『残存戦力の確保』
「いいか、みんな。敵は最強の鬼だ。今の戦力じゃ足りない。伝説によれば、頼光四天王はあと二人いるはずだ。碓井貞光と、卜部季武。彼女たちはどこにいる?」
僕の問いに、頼光が気まずそうに視線を逸らした。 金時がポリポリと腹を掻き、綱が扇子で顔を隠す。 嫌な沈黙。 これは社畜時代によく経験した空気だ。「前任者が残したバグだらけのコード」について尋ねた時と同じ空気だ。
「……頼光さん?」
「あー、その。いるにはいるのだがな」 頼光がボソボソと言う。 「少しばかり、個性が強すぎてな。私の手に負えんので、謹慎処分にしてある」
「謹慎!?」
あの自由奔放な金時や、妄想暴走機関車の綱ですら放し飼いにしている頼光が、手に負えないと判断した人材。 それはもう「人材」ではなく「人災」ではないのか。
「貞光は『占いの館』ごっこにハマって引きこもっておるし、季武は『武器の改造』に狂って屋敷の柱を切り倒すから牢屋に入れた」
「崩壊してるじゃないですか組織図!」
だが、背に腹は代えられない。 酒呑童子を倒すには、彼女たちの力が不可欠だ。 僕はSEとしての覚悟を決めた。バグがあるならデバッグすればいい。仕様が狂っているなら、運用でカバーするしかない。
「行きますよ。その問題児たちをスカウトしに」
「えー、あいつら暗いし話通じないからヤダなー」 金時が文句を言うが、僕はママチャリの荷台に彼女の大好物(蘇スフレの残り)を積んだ。
「報酬は弾みます。さあ、まずは引きこもりの占い師から攻略です!」
こうして僕たちは、京の都の掃き溜め、羅生門の近くにあるという「あばら屋」へと向かった。 そこには、僕の想像を斜め上に超える、ネガティブすぎる少女が待っていた。




