表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/24

【第十五話】天才陰陽師と、人力発電の悲劇

清明の研究室は、平安の屋敷とは思えない異様な空間になっていた。 床には複雑な魔法陣が描かれているが、その中心に置かれているのは「自転車のダイナモ(発電機)」と「銅線」、そして僕の「真っ二つになったスマホ」だ。


「カケル君。君の世界の『電気』という概念、実に面白い」


清明は、僕が持ち帰ったLEDライトを分解しながら言った。 彼はたった数時間で、電気回路の基礎概念を理解してしまったらしい。天才すぎて怖い。


いかずちの力を、このように細い線に通して操るとは。未来の人間は、みな陰陽師なのか?」 「いいえ、ただの物理法則です」


「ふふ。では、その物理とやらを、私の術で補強しましょう」


清明が指先を振るうと、紙の人形(式神)たちがわらわらと動き出し、銅線をハンダ付けのように固定していく。 そして、自転車の後輪が台座に固定された。


「さあ、動力炉の出番ですよ」


清明が視線を向けた先には、大量のチョコを食べてエネルギー充填率120%の金時がいた。


「おう! やればいいんだろ! 腹ごなしだ!」


金時が自転車に跨る。 その太ももには、チョコのカロリーという名の燃料が満ちている。


「いきます! 発電開始!」


「うおおおおおッ!」


金時がペダルを踏み込んだ。 ギュイイイイイーン!! ダイナモが悲鳴を上げ、高速回転を始める。普通の人間なら一分でバテる負荷だが、彼女にとっては準備運動レベルだ。


「出力安定! 電圧、規定値へ上昇!」 僕はケーブルの先に繋がれたスマホを凝視した。 清明の術によって、割れた画面と基盤は無理やり接合されている。あとは、システムが起動するための「きっかけ(電気)」があれば。


バチバチバチッ! ケーブルから火花が散る。


「いいぞ金時! その調子だ!」 「へへっ! 軽い軽い! もっと重くてもいいぞ!」 「調子に乗るな! 電圧上がりすぎると爆発する!」


頼光と綱も、固唾を飲んで見守っている。 「あの板が光れば、カケルの力が戻るのか?」 「頑張ってくださいまし! 私の『壁ドン』の画像検索がかかっていますのよ!」 目的はともかく、全員の心が一つになった。


そして。


ブゥン。


スマホが震えた。 真っ暗だった画面の中央に、白いリンゴのマーク(のようなもの)が浮かび上がる。


「ついた!」


『システム・リブート完了』 『生体認証、承認』


画面がパッと明るくなり、見慣れたホーム画面が表示された。 電波はない。アンテナピクトは圏外だ。 だが、内部ストレージは生きている。


「成功だ……!」


僕は震える指で画面を操作した。 写真フォルダ。音楽アプリ。メモ帳。そして、オフライン保存していた地図データ。


「見てください! これが京の都の地図です!」


僕が画面を見せると、頼光たちがのぞき込んだ。


「なんと……! 詳細な絵図面じゃ。内裏だいりの配置から、路地の細道まで載っておる」 「それに、この光る矢印……これが現在地ですか?」 「すげぇ! 自分の居場所がわかるのか! 千里眼じゃねーか!」


全員が驚愕している。 清明だけは、冷静に画面の隅々を観察していた。


「ふむ。……カケル君。その『カレンダー』という数字の羅列はなんだい?」


清明が指差したのは、スケジュールアプリだ。 僕はふと、違和感を覚えた。 僕は社畜だった。カレンダーは常に仕事の予定で埋まっていたはずだ。 だが、画面に表示されているのは、見覚えのない「赤い文字」だった。


『現在進行中:平安プロジェクト』


「え?」


なんだこれ。こんな予定、入れた覚えがない。 タップして詳細を開こうとした、その時だった。


ブブブブブッ! 突然、スマホが激しく振動し、画面が赤く明滅した。


『警告:高エネルギー反応を感知』 『接近中』


「うわっ! なんだ!?」 金時が驚いてペダルを止めるが、スマホの警告音は鳴り止まない。


「カケル! 屋敷の外だ!」 頼光が鋭く叫び、縁側へ飛び出した。


僕たちも続く。 空を見上げると、京の北西、大江山の方角から、どす黒い雲が渦を巻いて広がっていた。 ただの雨雲ではない。あれは、コンビニの時と同じ「怨念の塊」だ。


「……来ましたね」 清明が扇子を閉じた。彼の表情から笑みが消えている。 「時空の歪みが、ついに限界を超えたようです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ