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新たな仲間

「いただきまーす!」

「たくさん食べるんだよ」


 仲良く食卓を囲む二人の姿が見える。

 夢……なのかな?

 それに、あれって――ソアラ?

 今より少し幼いソアラと、同じ銀髪を長く伸ばした猫耳の女性が笑い合っていた。

 あの人が……ソアラのお姉さん。


「ねぇ、お姉ちゃん。私もそろそろ連れてってよー」

「だめよ、ソアラはまだ小さいし、村の外はとても危険なのよ」

 姉――ライラは穏やかな笑みを浮かべてソアラをなだめる。

「でも、もうすぐ八歳になるんだよ。デイルだってその頃には外で魔物と戦ってたって!」

「わがまま言わないの。ソアラは戦わなくていいのよ……ソアラにもし何かあったら、お姉ちゃんは――」

 ライラの声が震え、悲しげな影が落ちる。

「……ご、ごめんなさい、お姉ちゃん」

 ソアラが小さく謝ると、ライラはふっと笑みを戻して頭を撫でた。

「そういうことだから、村の外には出ちゃだめよ。特に今日はね」


 やがて視界が歪み、光が崩れていく。

 次に目を開けると――森の中だった。

 地面には血を流した亜人たちが倒れ、あたりに生臭い風が漂っている。


「なかなかやるなぁ、この亜人」

「売れば高くつきそうだな、ひひひ」

「それにあの剣……相当な代物だ」

 バンダナを巻いた金髪の男、緑髪をオールバックにした男、そして黒髪の男――。

 ただひとり、黒髪の男の周囲だけが妙に冷たく、空気が淀んでいた。


「お前たちだけは絶対に許さない! 同胞たちの無念、必ず果たしてやる!」

 立ち上がったのはライラ。

 ボロボロの体で剣を構え、殺気を放つ。

「へっ、まだやる気かよ」

「異性がいいのは嫌いじゃないぜ、なぁタロウさん。ちょっとくらい味見しても――」


 その男の首が飛んだ。

 剣を握っていたのは、黒髪の男――タロウ。

「僕はね、私利私欲で他人を傷つけるのが嫌いなんだ」

「お、おい! 殺すことないだろ!」

「初めに言わなかったかい? 気に入らないものには“聖裁”を加えるって」


「この外道がぁ!」

 ライラが叫び、タロウへ斬りかかる。

 だが、彼は一歩も動かず、その剣を軽く避ける。

「ゲトル君、僕が間違ってると思うかい?」

「い、いや……間違ってねぇ……」

「そうか。なら安心したよ」


「無視しないでッ!」

 ライラが再び剣を振るう――が、タロウはその刃を素手で掴んだ。

「すまない、別に無視してたわけじゃないんだ」

 次の瞬間、タロウの腕がライラの腹を貫いた。


「た、タロウさん! 殺しちゃっていいのかよ!?」

「構わないさ。この剣、売ればそこそこの金になるだろうし」


「お姉ちゃん!!」

 聞き覚えのある声――ソアラだ!

「そ、ソアラ……来ちゃ、だめ……!」

「嫌だよ! 死んじゃやだ!」

 ソアラが泣きながらライラに駆け寄る。

「……妹、かな?」

 タロウの口元に、ぞっとする笑みが浮かぶ。


「お願い……ソアラだけは……見逃して……」

 ライラは血を流しながら必死に懇願する。

 ぶじゅ、と嫌な音。タロウは腕を引き抜いた。

「姉妹愛……ね。あの亜人、もしかすると――」

 顎に手を当てて思案する。


「お姉ちゃん! しっかりして!」

「ごめんね……私は、ここまでみたい……」

「そんなこと言わないで! 一緒に帰ろうよ!」

「ソアラ……最後に約束して。どんなことがあっても……人を恨まないで。憎まないであげて」

「……守るよ。ちゃんと守る! だから死なないで!」


 ライラは微笑みながら、ゆっくりと目を閉じた。

 ソアラはただ、泣き続ける。


「いいねぇ……大事な人との別れって、やっぱり泣ける」

「タロウさん、あのガキはどうします?」

「少し面白いことを思いついたんだ。あの亜人の少女は、きっといい“見せ物”になる」


 タロウは一瞬で距離を詰め、ソアラの首に手刀を打ち込む。

 彼女はそのまま意識を失った。

 視界が歪み、闇が押し寄せる。



 目を覚ますと、ソアラが私にしがみついていた。

「これ……どういう状況?」

 少なくとも、生きてるのは確かみたい。


「アイリ姉ちゃん! 起きたんだね! よかったぁ!」

 ぎゅっと抱きしめられ、思わず肩をしかめる。痛い。

「よかったぜ……ほんとに。アンタが死んでたら、一生自分を恨むとこだった」

「同感ですね。ご無事で何よりです」

 見上げると、デイルもカーニスもボロボロながら笑っていた。


 私はゆっくり上体を起こす。

「それにしても、あの状況で……!?」

 ――蜘蛛だらけだった。

 しかも、全部“生きてる”。

「ちょ、ちょっと! この蜘蛛たち……!」


「お姉ちゃん、実はですね……」

 ナナが淡々と説明する。

 どうやら私が倒れたあと、ナナが“死蜘蛛の女王”を吸収し、支配権を得たらしい。

 そして――今、私は“新しい女王”と認識されている。


 いやいや、そんな馬鹿な。

 ……でも実際、蜘蛛たちは静かに私たちを見守っている。百匹はいるだろう。


「つまり、この蜘蛛たちはみんな私の仲間ってこと?」

「はい。これなら、ドゥームの部下が襲ってきても何とかなると思います」


「ヨロシイデスカ、ワガシュクンヨ」

 一匹の蜘蛛が前に出た。

「ひっ……!」

 声を上げそうになったけど、なんとかこらえる。


「えっと……なにかな?」

「ハッ! ワレワレノゴブレイヲオユルシイタダキタイ……ワレワレノコトハスキニツカッテクダサイ」

 うーん、好きに使ってって言われても……見た目が無理なんだけど。


「わーい! 仲間がいっぱい増えたね!」

 ソアラがはしゃぐ。

「こらこら、まだ決めてないでしょ」

 でも、頼もしいのは確かだ。


「分かったわ。でも、本当に私たちを襲わない? だって、私があなたたちの女王を倒したのよ」

「ワレワレノジョオウハアナタサマデス。ケシテウラギルコトハシナイトチカイマス」

 蜘蛛たちは一斉に頭を下げた。――たぶん、下げてる。


「そ、そう……ならいいけど。ところで、名前はあるの?」

「モウシオクレマシタ。ワレノナハクラウドデス。ホカノモノニモナハアリマスガ、サキホドウマレタコイツダケハマダデス」

 横に、小さな(いや、普通に大きい)蜘蛛がちょこんと並ぶ。


「つまり、この子には名前がないのね」

「はい、そのようです」

 ナナのフォローが入る。


「じゃあ……クロエでどう?」

「アリ……ガトウ」

 クロエが小さな声でそう言った。なんか、悪くないかも。


「それじゃあ、そろそろ村に帰ろっか」

 クラウドたちの助けを借り、私たちは無事にダンジョンを後にした。


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