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死蜘蛛


 あれから、私たちはいろんな魔物と戦ってきた。

 そのぶん、私の中にも新しい特性がどんどん増えていった。

 でも――


「全然蜘蛛いないねー」

 ソアラが退屈そうに言う。

 いや、いないに越したことはないんだけど。

 他の三人も、どこか拍子抜けした顔をしていた。


「お姉ちゃん、油断は禁物ですよ。感知のレベルが上がったので、少し遠くまで探知できるようになりました。……もう少し先に死蜘蛛が数匹います。おそらく、こちらに気づいています」

「了解……」

 私は気を引き締めなおす。――とはいえ、戦うのはほぼ三人だけど。


 キシャァッ!

 甲高い鳴き声が響いた。天井を走る黒い影が五体、こちらに迫ってくる。


「来るよ!」

 死蜘蛛たちは一斉に糸を放つ。

 私たちは身を低くして避け、反撃に移ろうとしたが――蜘蛛たちはすぐに壁を走って位置を変え、再び糸を撃ってきた。

 ヒット・アンド・アウェイ。いやらしい戦法だ。


「お姉ちゃん、ここは私に任せてください」

 ナナが前に出る。画面から伸びる光糸が、無数の刃を描く。

「あれは……鉄斬糸!?」

 鋭い糸が蜘蛛の放つ糸を切り裂き、空中で光の残滓を散らす。

 ナナの糸が一瞬で広がり、逃げ惑う蜘蛛たちを切り刻んだ。


「すご……」

 思わず息を呑む。

「マジかよ、俺らいらねぇんじゃ……?」

 デイルが呆然と呟く。

 確かに――今のナナの力なら、どんな数の蜘蛛でも勝てそうだった。


「お姉ちゃん、やりました! 吸収しに行ってきますね!」

 ナナが軽やかに宙を舞う。自分で吸収してくれるおかげで、あのグロい作業を見ずに済む。ありがたい。


「やっぱりアイリ姉ちゃんとナナはすごいなー! 私ももっと頑張るよ!」

 相変わらずポジティブなソアラに、思わず笑ってしまう。



 それからもしばらく、私たちは蜘蛛たちを倒しながら奥へ進んだ。

 戦うたびに強くなっていく実感がある。レベルも上がり、死蜘蛛相手でも苦戦は減ってきた。

 そう思っていた、その時――


「これって?」

 壁に埋まる青い鉱石が目に留まった。

「これは魔鉱石ですね。かなり最深部に近づいています」

 カーニスが淡々と説明する。

「ナナ、これ吸収して保存できる?」

「もちろんです。早速吸収しますね」

 魔鉱石の光が吸い取られ、ナナの体内に消えていく。

「このあたりは人も入らないので、まだたくさん眠っているはずですよ」

「しっかし、これで俺の新しい武器が作れるってわけか。楽しみだな!」

 デイルが嬉しそうに拳を握る。

「僕も魔杖がほしいですね」

 二人の声に、少し和んだ空気が流れた――その瞬間。


「よっしゃ、どんどん取るぞって……おい、あれなんだ?」

 先を歩いていたデイルが立ち止まる。

 私たちはその後に続いた。


「なにこれ……全部、魔鉱石?」

 広い空間の中央に、山のように積まれた魔鉱石。

 まるで誰かが“わざと置いた”みたいな不自然さだった。


「お姉ちゃん! 後ろから死蜘蛛が数十匹、向かってきます!」

「……罠、か」

 背筋が冷たくなる。

「まあでも、ナナがいれば――」

「ごめんなさい……あの技、魔力の消費が激しくて。今はもう使えません……」

 ……マジか。

「じゃあソアラたち、またお願い!」

「任せて!」

「今の俺たちなら負けねぇ!」

「僕もサポートします!」


 各々が構えを取り、空気が一気に張り詰めた。


「お姉ちゃん、別方向からさらに死蜘蛛が……全部で約三百体です」

「はぁ!? 三百!?」

 どう考えても無理ゲーだ。

 けど、やるしかない。


「ナナ、通路塞げる?」

「はい!」

 私は複数の通路の入り口に鉄斬糸を張り巡らせた。

 カサカサと這う音が洞窟中を満たし、金属音のような糸の擦れる音が響く。


「いくわよ……!」

 塞がれた通路に向かって雷を叩き込む。

 ドゴォォン――! 轟音とともに閃光が洞窟を照らした。

 続けて別の通路にも雷撃を放ち、焼き払う。


「アイリ姉ちゃん、大丈夫!?」

 ソアラたちが駆け寄る。

「なんとかね……でも、もう魔力が限界」

 息が荒い。手足の感覚も鈍くなっている。


「魔鉱石も取れたし、一旦帰ろう」

「でも、もう少しで最深部じゃねぇか?」

「デイル……アイリ様の判断は正しいです。これ以上は危険です」

「……ちっ、わかったよ」

「ソアラもそれで――」

「アイリ姉ちゃん……あれ」


 ソアラが上を指差す。

 見上げた瞬間、全員の表情が凍りついた。


「嘘でしょ!?」

「急いで逃げましょう!」

 走り出そうとしたが、帰り道からも強烈な魔力を感じ取る。

 そして――視界が真っ暗になった。



「……おね……ちゃ……」

 う……頭が痛い……。

「お姉ちゃん! しっかりしてください!」

「ナ、ナナ? なにが……?」

 思考が靄の中で回る。

「上から降りてきた死蜘蛛の女王に、全員吹き飛ばされたのです!」

 あ――そうだ。逃げようとして……。


「ナナ! ソアラたちは!?」

「皆さん、あそこで戦っています!」

 私はよろめきながら立ち上がり、走り出した。

 三人とも、ボロボロだった。

 私のせいだ……私がもっと早く――


 胸の奥が締め付けられる。後悔と恐怖が交錯する。

 その時、私の身体が淡い光に包まれた。

「……え? なにこれ?」

「おそらく、その魔法衣の力です」

 体力が、魔力までもが回復していく。

 ありがたいけど――今はそんなことより!


「ナナ、全開で行くわよ!」

 バチバチと雷が体を包み、髪が逆立つ。

「せいやぁっ!」

 私は一気に加速し、女王の足元へ飛び込む。


 ――硬い!

 全力の一撃が、あの太い足に弾かれた。

「くっ……これじゃ埒があかない!」

「アイリ姉ちゃん! 大丈夫!?」

「そっちこそ!」

「お姉ちゃん、次が来ます!」

 女王の足が唸りを上げて振り下ろされる。地面が裂け、粉塵が舞う。

「一撃でも食らえば即死ね……」


 ソアラが剣を構えながら叫ぶ。

「アイリ姉ちゃん! お願いがあるの!」

「え?」

「少しだけ――一分でいい! 時間を稼いで!」

「はぁ!? 一分!?」

「それで……勝てると思うの!」


 一瞬、迷った。けど――信じるしかない。

「わかった! ナナはデイルたちを援護して!」

「はい! お姉ちゃん、死なないでね!」

 そう言ってナナは駆けていった。


「よし……来い、化け蜘蛛!」

 女王が怒り狂ったように咆哮する。

 耳が裂けそうな音。鼓膜を守ろうとした瞬間、壁に叩きつけられた。

「くっ……!」

 息が詰まる。でも止まれない。


 二十秒。

「次はこっちの番よ! 感電しなさい!」

 私は糸をあらかじめ張っておいた壁へ電流を走らせる。

 女王の体に稲妻が走り、巨大な体が痙攣した。

「コイツもおまけよ!」

 雷撃を連続で叩き込み、洞窟全体が白く染まる。


 五十秒。

「あと少し……!」

 魔力が尽きかけている。

 私はソアラの前に立ちはだかり、両手を広げた。


「ソアラ……信じてるから」

 次の瞬間、女王の足が私を貫いた。

「うっ……!」

 痛みが全身を走る。でも、死ねない。

「保険……かけておいて……よかった」

 鉄斬糸で胸部を固めていた。そして私は蜘蛛の足を掴み離さないようしっかり掴む。

「捕まえた……わよ……!」


「アイリ姉ちゃん……ありがとう!」

「さあ、やっちゃって――ソアラ」

 光が走る。ソアラの剣が輝き、輪郭が大剣の形を取る。


「――閃光破断ッ!!」

 光の剣が女王を貫き、斬り裂いた。

 ドシャァンッ! 崩れ落ちる巨体。


「……ギギ……妾が……魔王の……転生……はず……」

「は? 喋れたの!?」

 意味はよく分からない。でも聞かなかったことにした。


「……あれ、力が……」

 視界が揺れる。足が動かない。

「アイリ姉ちゃん!」

 ソアラの声が遠くなる。

 右肩の傷口から血が止まらない――ああ、これやばいかも。


 意識が闇に沈む。


望月 藍璃 Lv22

体力349 魔力421 筋力395 俊敏388 頑強364 知力342 器用290 技巧273 精神268 跳躍320 魅力304 運気189


特性

念環/浮遊/発光/粘着糸/鉄斬糸/操縦糸/暗視/帯電/感知/念話/加工/解析/吸収/収納/検索/複製


魔法

雷電魔法


スキル

全世の育成者


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