英雄ロザリー
温泉でアイリたちと別れたあと、私は明日の手配をするためギルドの執務室へ戻る。
「悪いな、急に呼び出してしまって」
私は執務室の前に立っている少女――フィリップに軽く謝罪する。
「これは貸し一つだね、ロザリン」
ニヤニヤと笑みを浮かべるフィリップに多少の苛立ちを覚えるが、今はそんな暇はないので無視することにし部屋にはいる。
「明日の件だが、とある冒険者たちに特別戦闘試験を行うことになった」
椅子に座ろうとしたフィリップが動きを止める。
「ホントに急だね! そんな急に決められても困るんだけど! 今から戦ってくれる冒険者なんていないよ!」
「安心しろ、ちゃんと策はある。だからフィリップには闘技場の手配を任せたい。明日の朝までにな」
「うっ! 無茶振りすぎるよぅ。今、何時か分かってる? もう22時だよ! 無理だよ! 無理無理! 今からそんな面倒なことしたくない!」
地面に倒れ込み、ジタバタと暴れ出すフィリップを見て、私はため息をつく。普段は有能な秘書なのだが、子どもっぽい性格が玉に瑕だ。……まあ、それはそれで可愛げがあるのだが。
「今度一緒に面白いところへ連れていってやる。だから機嫌を直せ」
「……ホントに?」
フィリップはピタリと動きを止める。
「ああ。以前話した日の丸という国だ」
「うぅ……分かった……仕事するよ。朝までにちゃんと全部やってやりますよ。しんどいけどイヤだけどやりますよ」
言葉とは裏腹に、その顔はどこか嬉しそうだった。……それは黙っておこう。
「さて、アイリがどのくらい強いのか見ものだな」
「もしかして特別戦闘試験って、ロザリンが戦うの?」
「ああ。今回は私自らあいつらの力を確かめたくてな」
アイリの実力はまだ未熟だ。だが、あれでも異世界人……どんな力を隠し持っているか分からない。それに、あの紫紺の瞳……あれが偶然なのか、それとも運命なのか……。
「ふ~ん。明日試験を受ける人ってそんなにすごい人なの? そんな噂ちっとも聞かないけど」
「ああ、きっと凄い大物になるさ」
窓に浮かぶ月を眺めながらそう呟いた。
◇
「ロザリーさんと戦うの? 何かの冗談?」
私は耳を疑った。他の冒険者ならまだしも、ロザリーさんとなんて……勝てるわけがない。
「安心しろ。私は全力では戦わない。魔法もスキルも使わず、純粋にこの刀一本で相手をする。無論、手加減はするつもりだ」
それなら、私たちにも勝機はある……のかな? いやいや、まだ始まってもいないのに弱気になるのはよくないわね。
私は頬を叩き気合を入れようとすると……。
「へぇ~アンタがロザリーってやつか。ちょっとお前に聞きたいことがあるんだ」
レインがロザリーへと歩み寄る。
「……お前、何者だ?」
ロザリーは怪訝そうな顔をする。レインの態度のせいで怒らせてしまったかもしれない。私は内心ヒヤヒヤしながら二人のやり取りを見守る。
「質問の意図がよく分からねぇな。それよりお前、太陽の剣ってやつを知ってるか?」
もうやめて……なんで初対面の相手にそんな態度が悪いのよ! 斬られても知らないから。
「……そんなことを聞いてどうする?」
「そいつが必要なんだよ。だから在り処を教えろ」
「随分と傲慢だな……教えてほしければ、まずはこの試験に合格してみせろ。話はそれからだ」
「いいぜ! やってやるよ。英雄ってのがどんなもんなのか確かめてやるぜ」
レインはやる気十分といった様子だ。それにしてもロザリーさんが寛容でよかった。てっきりあの態度に怒るかと思ったわ。
「アイリ、僕たちは観戦席で見てるよ」
「仕方ないから応援してあげるわね! くれぐれも無様な姿は晒さないでよ」
「ママ……クロエも応援してるね!」
試験に参加しないクロエたちは受付嬢に案内され、観戦席へと向かっていった。
「それでは準備はいいかな? いいよね? もう始めるよ?」
突然、闘技場全体に声が響き渡る。
「誰……あの人」
観戦席の最前列(偉い人とかが座ってそうな場所)に一人の少女が立っている。よく見るとマイクのようなものを持っている。マイクってこの世界にもあるんだ。
「あいつは今回の試験の実況担当をするフィリップというやつだ。あまり気にしなくていいぞ」
「そ、そうなんだ……」
「おやおや、何やら誰かさんの悪口を言ってる気配がするような、しないような?」
「おいフィリップ、うるさいぞ。さっさと始めろ」
ロザリーがそう言うと、少女はくるっと一回転して観戦席から飛び降りる。
あの娘この距離の会話聞こえてるの?だとしたら、ソアラ並みの聴力じゃない。
「それではこれより、冒険者ギルドによる特別戦闘試験を始めさせていただきます。――今回の実況は僭越ながら私フィリップ=アビリアが務めさせていただきます。ではまずは、今回特別戦闘試験を受ける方をご紹介いたします――」
さっきとは別人のような口調で話すフィリップ。というかよく見るとちらほら観客席に人がいるな。こんなの見て何が楽しいのかしら。
「アイリ姉ちゃん、どうやって戦う?」
「そうね……正直まだ勝てるビジョンが見えないけど、まずは様子見でレインとリューネが魔法で遠距離から攻撃してほしい」
ロザリーは刀しか使わないと言っている。ならばそれを利用し、ひたすら遠距離から攻める作戦だ。私とレイン、ソアラとリューネのペアで二手に分かれ、近づいてきたら二人で上手く連携をって対応し、残りの二人が後方から攻撃を続ける。
うん、我ながら完璧な作戦ね。
「ちょっと待ってくれ、アイリ。俺は魔法は使わねぇぞ。今回はこいつであいつとやり合うんだ」
そう言ってレインは腰に下げてある二本の短刀を引き抜く。
「なんでよ、私のせっかくの作戦が台無しになるじゃない」
「そんなもん知らねぇよ。俺は魔法を使いたくねぇんだ。今までは仕方なく使ったけど、今回は別に命に関わることじゃねぇしな――だから今回は俺は俺のやりてぇようにやらせてもらうぜ」
レインは一人でロザリーの方へ走っていく。少しは丸くなったと思ったけど、やっぱり災禍に関連することになると冷静じゃなくなるのよね。
「アイリ様、あんなやつ放っとけばいいっすよ」
「……そうね。私はレインに合わせるから、リューネは後方から支援して。ソアラはそっちにロザリーが行ったら対応して――」
「分かったよ!」 「了解っす!」
私は一通り指示を終え、レインの後を追う。
レインは素早く駆け出し、ロザリーへ一直線に突撃する。
「行くぜ!」
レインは短刀を振り下ろす。しかし、ロザリーは未だに刀を抜いていない。
短刀が当たる直前――レインの体が弾き飛ばされ、私の方へ飛んできた。
「ちょっ! こっち来ないでよ!」
「うわー! どけ! ぶつかる!」
私はすぐに横へ飛んで避ける。レインはそのまま地面へ叩きつけられる……かと思ったが、見事に受け身を取り無傷だった。
「何が起きたんだ!?」
私にも分からない。見た限りでは、ロザリーはただ立っていただけのはず。
「早すぎて見えなかったか? だとしたら少し期待外れだな」
ロザリーは挑発するように言う。
「見えないって……まさか」
あの一瞬で刀を抜いたというの? 速いなんて言葉では足りない。
「まずいわね……あんなのにどうやって……」
「面白えじゃねぇか! こっちも本気で行ってやるよ!」
レインの周りがキラキラと輝き出した。そしてそのままものすごい勢いで地面を蹴りロザリーとの距離を詰める。
「あのバカ!」
私はリューネに合図を送る。リューネはサムズアップし、地面に手をつく。
次の瞬間、ロザリーは後方へ飛び退く。同時に、さきほど立っていた場所に大きな穴が開いた。
レインは気にせず短刀を振り下ろす。
「中途半端な連携だな。それでは合格にはほど遠いぞ」
ロザリーは短刀を刀で受け止める。それを読んでいたかのように、レインは体勢を変え、別方向から何度も斬りかかる。
「遅いな」
すべて捌かれる。リューネは地面を起伏させて支援するが、ロザリーにはほとんど通用していない。
「ナナ、私たちも行くわよ!」
私は帯電化し、セブンソードを右手に握る。
「あのスケルトンから手に入れた新しい力、試させてもらうわよ」
視界が一瞬で切り替わる。
次の瞬間、目の前にはロザリーの背中があった。
そして、私は迷いなくセブンソードを振り下ろした。
久しぶりの投稿です。遅くなってすいません。
2章も残り2話となりました、残り2話も3月中には投稿する予定です。
その後の3章については、しばらく間が空いてしまうかもしれないしそんなに空かないかもしれないです。
気長に首を洗って待っていてくださると嬉しいです。




