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冒険者試験


月光花を手に入れることができなかった私たちはエクレストに戻り、夜も遅いので一泊することにした。


「そうだ、この国は温泉が有名だからせっかくだし入ってきたらどうだい?」


みんなで高そうな店で食事をしていると、ロイドが素晴らしい提案をしてくる。


いいわね温泉!

 スケルトンとの戦いでかなり体が疲弊しているからちょうどいいわ!


「アイリ姉ちゃん、温泉って何?」


 ソアラが私の顔を見て、不思議そうに訪ねてくる。


「そっか、ソアラは森から出たことないから知らないよね……簡単に言うと、でっかいお風呂みたいな感じかな?」


「そんな大きいの?じゃあ私、アイリ姉ちゃんと一緒に入りたい!」


「クロエも! クロエもママと一緒に入りたい!」


うっ……できれば一人でゆっくり入りたかったんだけどなぁ。


「随分人気者だな、アイリは」


レインは肉の骨を咥えながら言う。


「何よ、まさかあんたまで一緒に入りたいとか言わないわよね」


「ぶっ! だ、誰が入るかよ! 俺は一人で入るに決まってるだろ」


レインは骨を吹き出し、顔を真っ赤にしていた。


レインって意外と初心だったのね。


「冗談に決まってるじゃん。何本気にしているのよ」


「なっ! 俺は別に……本気になんか……もういい、俺は先に寝てるわ」


機嫌を損ねたのか、レインは拗ねて店を出ていった。


「行っちゃったね」


「まあいいわ、それより私たちは温泉に行こうか。――ロイドはこの後どうするの?」


「ごめんね、僕はちょっと用事があるから――じゃあここにお金は置いてくよ」


 ロイドは全員分の金額のお金をテーブルの上に置き、店を出ていく。


 ロイドが金を持ってるのは知ってるが、毎度毎度支払ってもらってると申し訳なくなってくるわね。


「それじゃ、私たちは温泉に行って来るわね」


私たち女性陣は全員で温泉へ向かう。


「ハァー、生き返るわー」


やっぱり温泉は最高ね。今までの疲れが全部吹っ飛んでいくわ。


 温泉を見るなりソアラたちは温泉に走っていく。

 

「わぁー、広ーい!」


「泳げるよー」


「私の華麗な泳ぎを見せてあげるわ」


 急にミレイが手足をばたつかせ出したから、溺れだしたのかと思ったが、どうやらあれで泳いでいるらしい。ちなみに前には全く進んでいない。


それにしてもソアラたちはすごく楽しそうにはしゃいでるわね。まあ初めての温泉だからしょうがないか。それに比べて……。


「気持ちは分かるけど、いつまでも落ち込んでいてもしょうがないわよ」


ずっと浮かない顔をしていたセレナに声をかける。


「別に落ち込んでるわけじゃ……」


 まあ落ち込むのも仕方ないとは思う。なんせ、頼みの綱の月光山がダメだったのだから。


「もっとクロエたちみたいにはしゃいでもいいのよ。お母さんの」


まあ、はしゃぎすぎるのもよくはないけど、今日くらいいいでしょ。


どうせ私たち以外に人がいないんだから。


「私をお子様扱いしないでくれる? そもそも温泉ではしゃぐのはマナー違反よ」


ぐっ、まさか子供に指摘されるなんて。


「ずいぶん楽しそうだな」


湯気でよく見えないが、一人の女性が入り口の方に立っていた。


「ごめんなさい、私たちしかいなかったので」


私は一応謝っておく。


ソアラとクロエもはしゃぐのをやめて、大人しくする。


「なに、気にすることはない。たまには賑やかな温泉も悪くはないさ」


女性はそう言って桶を取る。


徐々に湯気が晴れ、女性の顔が見えてくる。


「えっ!? もしかして……」


「ようやく気づいたか」


まさか、こんなところで再会するなんて。


「ロザリーさん!? どうしてここに?」


私は驚きを隠せずにいた。


「あ! あの時の強いお姉さんだ」


ソアラたちもようやく誰か気付き始める。


「久しぶりだな、アイリ。……それに他のみんなも」


「も、もしかして……あの英雄のロザリー!? 嘘でしょ!」


セレナは初対面だからか、すごく驚いていた。


「ああ、そうだ。――それよりも、なぜアイリたちがエクレストに? 来ているなら連絡ぐらいくれれば良いものを」


「いや、私たち急ぎの用事があってそれどころじゃなかったんですよ」


「エクレストに用事か……その用とやらはもう済んだのか?」


ロザリーはお湯を流し終え、湯船に入る。


どうしよう、なんか緊張するわね。コレが英雄の覇気ってヤツなのかな。


「ううん、まだ」


「あの!」


突然、セレナが声を上げる。


「あの……私たち、『月光花』って花を探していて、でもどこにもなくて……それで……どこか売ってる場所とか知りませんか?」


「『月光花』か……理由は何であれ、あれはかなり貴重な花で、近くの月光山という山にしか咲かない花だ。とはいえ需要は殆どなく、市場にもあまり出回らないから手に入れるのはなかなか難しいだろうな」


それってつまりヤバいってことよね。あれだけ大見得きっといてやっぱり無理だったなんてシャレになんないわよ。


セレナは悲しそうに俯いていた。私も俯きたくなるけどそんなわけには行かない。


「私はな、花の中では『月光花』が一番好きなんだ」


ロザリーは藪から棒にそんなことを話し出す。


「……」


 セレナは顔を上げロザリーを見つめる。

  

「だから私の部屋には、いつも『月光花』を飾ってある」


「!?」


セレナの顔に生気が満ちていく。


「じゃあその花を……」


「まあ、そう焦るな。もちろん君にあげるのは構わないが、一つ条件がある」


 ロザリーが人差し指を立てる。

 

「条件?」


なんだか嫌な予感がするわ。


でも、『月光花』が手に入るんだったらなんだってやってやるわ。


「アイリ、冒険者になるんだ」


「えっ!?」


意味が分からなかった。なんで冒険者?


いやいや、そんなことで『月光花』がもらえるなら是非もないわ。


「そうだ、冒険者試験を受け冒険者になるんだ。そうすれば『月光花』はくれてやろう」


「ちなみに何が狙いなんですか?」


理由もなく冒険者になれなんて言うわけもない。何か理由があるはず。


「なに、簡単な理由だ。私はお前を気に入っている。それだけだ」


えっ、それだけ……。


「いやいや、もっと何かあるんじゃ……」


「そうだな……強いて言うなら、冒険者となったアイリに頼みたい依頼がある。それだけだ」


どうやら本当に大した理由はないみたい……って、絶対ろくでもない依頼に決まってる……でも、こんなことでいいなら……。


「わかったわ! 私、冒険者になるわ」


「よく言った。お前ならそう言うと思ったよ」


ロザリーは軽く笑い、手を差し出してくる。


「では、交渉成立だな」


私は手を握り返す。


「ありがとう! ロザリーさん」


よかったわ、これで全て丸く収まる。


「いいなぁ、私も冒険者になりたかったなー」


「アタシも面白そうだからやってみたいっす」


ソアラたちがなぜか冒険者になりたがる。


冒険者なんて面倒なだけだから私はごめんなんだけどね。


「別に構わないぞ。そのかわり、アイリとともに試験を受けてもらうことになるがな」

 

「ホントに!? ヤッター、私も冒険者だー!」


 ソアラは嬉しそうに跳ねる。その衝撃でお湯がリューネを襲う。

 

「ねぇ、その試験って何をするの?」

 

まさか筆記試験とか言わないわよね?


「やったっすねソアラー、お返しっすよ!」


この世界の知識なんて全然知らないから、落ちる自信しかない。


「通常は『模擬戦闘試験』になるな。これは召喚士が召喚する魔物を倒してもらう試験だ」


安心したわ、それならなんとかなりそうね。


「だが、お前たちは既に『三ツ星クラス』の実力があると私は判断している。――だからお前たちには『特別試験』を受けてもらう」


「特別……試験?」


「ああ、本来は一ツ星冒険者から始まるのだが、この特別試験に合格すれば飛び級できるというわけだ」


別に一ツ星でいいんだけど……。


なんで、わざわざそんなことさせるのよ。


「ねぇねぇ、特別試験って何をするの?」


ソアラが興味深そうに尋ねる。


私以外みんな乗り気なのはどうしてよ。私に味方はいないの?


「そうだな、詳しくは言えないが、三ツ星クラス以上の冒険者と戦ってもらう予定だ。――だが安心しろ、勝敗で合否が決まるわけではないのでな」


魔物じゃなく人と戦うとか最悪なんだけど。


うっかり殺しちゃったらどうしよ。なるべく手加減していかないとね。


「アイリ、絶対合格してよね」


「もちろんよ。合格して必ずお母さんを助けるから」



それから翌日、私たちは全員でロザリーに言われた場所へ向かう。


そこは大理石のようなもので作られた2階建ての大きな建物だ。


作りもかなりしっかりしていて、そう簡単には壊れなさそうだ。


「ここが、エクレストの冒険者本部……」


「おっきいねー! 早く中に入ろうよ!」


「壮観ね。くれぐれも迷子にならないでね」


 セレナはいつもの生意気さを取り戻しているので私は安心した。

 

ソアラに手を引かれ、私たちは重厚な扉を開けて中

へ入る。


中は意外にも綺麗で、ガレートのギルドみたいな殺伐とした雰囲気も全くない。


「ようこそギルド本部へ! 本日はどのようなご要件でしょうか?」


私たちに気付いた受付嬢が、すぐに駆けつけてくる。


「あの……ロザリーさんに呼ばれて来たんだけど」


「アイリ様とその御一行ですね。話は伺っておりますので、こちらへどうぞ」


私たちは受付嬢に案内され、階段を降りていく。どこに向かうんだろ?


「あの……こんなこと言うのはあれですけど、頑張ってください! 負けても合格になるケースはあるので、無茶だけはされないでくださいね……後々が面倒なので」


「えっ、うん。ありがとう……」


なんだろう、負ける前提で話されている気がするんだけど。しかも最後ボソッと言ったけど聞こえてるからね。


まあでも、ここまで来たんだから絶対勝つわよ。


長い階段をようやく降り終えると、だだっ広い空間に出る。


これが闘技場……。初めて見るけど壮観ね。


「よく来たな、アイリ」


闘技場の中央に、一人の女性が立っていた。


「ロザリーさん!? なんでそんなところにいるの?」


こういう時って審査員みたいな役は観戦席とかにいるものじゃないの?


それとも私への激励の言葉でも言いに来たのかな?


「なんで……か。そういえば言ってなかったな。今回のお前たちの相手は私だ」



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