月光花
崩れ落ちるスケルトンを見て、みんなは勝利を確信して歓声を上げた。
「やったっす! 今度こそやったっすよ!」
「すげぇ、ホントにやりやがったぜ!」
みんなが私のところへ駆け寄ってくる。
「ママ! 大丈夫!?」
泣きそうな顔でクロエが私に抱きついてきた。心配かけちゃったわね。
「ありがと、クロエ。でも、これくらい大丈夫よ」
なんとか強がってみせるが、全身に力が入らず立ち上がれない。
「ない……ない……」
少し離れたところで、セレナが必死に何かを探していた。
「セレナ、どうしたの?」
セレナはこの世の終わりのような顔でこちらを振り返る。
「月光花が……どこにもないの……」
「えっ!?」
そんな馬鹿な。最初に見たときは結構な数が咲いていたはずなのに。
「……お姉ちゃん。どうやら、さっきの戦いが激しすぎて、月光花はほぼ全部散ってしまったみたいです」
よく見れば、辺りの地形はかなり変形していている。
「うそ……でしょ」
少し考えれば分かったはずなのに。どうして私、花のことを考えてなかったのよ。
「ま、まだ一本くらいどこかに……」
私も必死に辺りを探し始める。まだ全滅と決まったわけじゃない。きっとどこかに残っているはず。
「僕たちも探すよ」
それから全員で辺りを探し始める。しかし、見つかっても焼け焦げていて使い物にならないものばかり。
それから数分探し続けて――。
「ママ……これ、まだ使える?」
クロエが一本の花を持ってくる。僅かに焦げているものの、花の部分は無事だ。
「お姉ちゃん、これなら薬の材料として問題なく使えます!」
「ホントに!? ありがとうクロエ!」
「みんな、見つけたわ! 一本だけ無事なのがあった!」
みんながぞろぞろと集まってきて、クロエの手にある月光花を覗き込む。
「よかった……よかったわ……! これで、お母さんが助けられる……!」
セレナは嬉しさと安堵でその場に崩れ落ちて泣き出した。
「良かったね、セレナ。クロエも嬉しいよ」
「うん……ありがと、クロエ……」
そこへ――。
「あら、もう戦いは終わってるのね。残念」
一人の少女が姿を現した。ナナが言っていた“ほかの冒険者”だろうか。なぜか背筋に冷たいものを感じる。
「へぇ~、このスケルトンをあなた達が倒したの?」
少女はカツカツと靴音を響かせながらゆっくり近づいてくる。彼女から放たれる異様なオーラにみんなが硬直する。
この子……さっきのスケルトンより、はるかに強い。
「おい、てめぇ。それ以上近づいたら敵とみなすぜ」
レインが前に立ちふさがり短剣を抜いた。すると少女は足を止める。
「あはは、あなた面白いこと言うわね。私を敵に回して損をするのはあなた達よ? ……まあ、そのほうが私は楽しめるんだけど」
凄まじい殺気が放たれ、誰も身動きできない。
「くっ」
レインは彼女の殺気に当てられ一歩後ずさる。
「ここに月光花があるのか?」
その時、後方からさらに二人の男が入ってくる。ひとりは必死に辺りを探していた。
「おいリサ……今はちゃんと仕事をしろ」
顔に傷のある男が、先の少女――リサと呼ばれた子を注意する。
「あなたがそんな真面目なこと言うなんて、熱でもあるの?」
「この依頼を失敗するわけにはいかねぇんだよ。お前も分かってるだろ」
「……それもそうね。もう、野宿なんてこりごりだものね」
どうやら彼女らは私たちと戦うつもりはないらしい。
「ねぇ、あなた達も月光花を探しに来たの?」
私はリサに尋ねてみた。
「……そうよ。彼の依頼を受けてね」
リサは一人の男を指さす。
彼女は私を見たとき、一瞬驚いたように目を細めた。
「ないぞ……どこにもないぞ……!」
男は悲壮な顔で探し続けている。どうしよう……ここにはもう、この一本しか残っていない……。
「アイリ、それ貸して」
セレナが手を出すので、私は月光花を渡した。
何をするんだろう……?
「ねぇ、おじさん。なんで月光花を探してるの?」
セレナは男に歩み寄り、話しかける。
「ん? 嬢ちゃん、そんなこと聞いてどうするんだ?」
「いいから答えなさい。まさか金儲けのためじゃないでしょうね?」
「ち、違うよ。俺の恋人が特殊な病にかかっててな……治すには月光花がいるんだ。だから東の大陸からはるばる来たんだよ。ここでしか咲かないらしいんだよ」
最悪な展開ね。もし金目当てなら気にする必要もなかったのに……。
「……そっか。じゃあ仕方ないわね。――はい、これあげるわ」
なんとセレナは、最後の1本の月光花をその男に渡してしまった。
「いいのか!? でも、君たちも事情が……」
「私たちのことは心配いらないわ。気にせず持っていきなさい」
「……ありがとう! 本当にありがとう! 恩は必ず返すよ! もしエリーゼの街に来たときは、ぜひ寄ってくれ!」
男は深く頭を下げ、走り去った。
「良かったわね。あなた、賢明な判断よ。このままだと奪い合いになっていたわ」
……セレナ。
「んじゃ、目的も果たしたし帰るかー」
「そうね。甘いものが食べたい気分だわ――そういえば、あなた名前は?」
帰りかけたリサが急に振り返り、私に尋ねる。
「アイリ……」
「アイリ、ね。ちなみに名字は?」
「!? あなた、まさか……」
名字を聞いてくるってことはこの人も……。
「あら? 気づいてなかったのかしら。随分鈍いのね」
リサは小馬鹿にするように言う。
「望月 藍璃よ。あなたは?」
「朝比奈 理沙――それじゃあ私たちは行くわね。あなたとはまた会いそうな気がするわ」
リサは踵を返し、靴音を響かせながら去っていく。
不思議な少女ね……できるなら仲良くしたいけど、彼女にはそんな気はないような気がする。
「あなた方には本当に感謝します! このご恩は絶対に忘れません!」
男も追いかけて走り去った。
色々ありすぎて、頭が追いつかない……。でも、今は考えてる場合じゃない。
「セレナ、本当に良かったの?」
「これでいいのよ……! お母さんは絶対、誰かを犠牲にしてまで助かりたいなんて思わないもの……」
セレナの目から涙がこぼれ落ちる。
……まだ諦めるなんて早い。きっと、別の方法がある。あるはずだ。
「大丈夫よ。セレナのお母さんは必ず助ける。だから心配しないで」
「気休めなんていらないわ……もう、いいの。お母さんは……助からないの」
セレナはかなり悲観的になっている。
「大丈夫だよ! ママは嘘つかないもん。セレナのママも絶対助かるよ!」
「クロエ……」
「ここで話し込んでても仕方ないし、一度エクレストに戻ろうか。アイリの言う通りきっとまだ、可能性はあるはずだよ」
ロイドの提案で、みんなで街へ戻ることになった。
◇
「それにしても、あいつたんまり金くれたな。しばらく腹いっぱい食えるぜ」
「ちょっとよこしなさい! もうあなたにお金は預けないわよ!」
財布を落として野宿することになったのは全部こいつ――ブラッドのせいだ。こんな奴に財布を預けた私も悪いのだけれど。
「だから落としたんじゃねえって! あれは盗まれたんだよ!」
「どっちも同じことでしょ」
まったく、どうして私がこんな鈍臭い男とペアなのよ。帰ったらボスに文句言ってやる。
「まあそれより、あの女……そこそこ強そうだったな。こんな状況じゃなきゃ戦ってたんだがな」
そこそこ? あんなの――
「あんなの退屈しのぎにもならないわよ」
「俺な勘だが、あの女はもっと強くなるぜ。……つーか、少しくらい金分けろよ」
無視して私は歩き出す。それは私も感じている。アイリという少女は底しれない何かを持っている……気がする。
「アイリ……なぜか、あなたのこと好きになれないわ」
私はゆっくりと空を見上げ、小さくつぶやいた。




