タネ明かし
俺の名前はルド。恋人が特殊な病にかかってしまい、月光花という素材を使った薬がいるとのことで、今俺は月光山に来ている。当然、冒険者でもない俺がダンジョンに入るなんて自殺行為だ。だから、エクレストで腕の立つ冒険者を二人雇い、現在ダンジョンに入っている。
「それにしても……魔物が一体も出ないわね」
黒く長いウェーブのかかった髪の少女が退屈そうに言う。俺としてはありがたいことだが、やはり冒険者の感覚は分からないな。魔物がいないとつまらないものなのか?
「誰かが先に来てやがるな」
顔に傷がある強面の男――ブラッドがしゃがみ込み、地面を指でなぞりながらつぶやく。
「どうしてわかるんですか? たまたま魔物がいないだけってことも……」
「血痕だ。なぜか魔物の血痕だけがあちこちにある」
私はブラッドに近づき、地面を観察してみる。……確かに、よく見ると血のようなものが点々と付いている。
「ねぇ、血痕があるなら死骸はどこにあるのよ? まさか全部回収してるわけ?すごい数になるんじゃない?」
彼女――アサヒナさんの言う通り、本当に回収しているならいったいどうやって……。
「まあ普通に考えるならスキルだろうよ。空間魔法って線もあるがな」
た、確かに! 空間魔法なら物体を転移できるから、この状況にも納得できる。だけど……ここまでの魔物を全部転移となると尋常じゃない魔力が要る。となると有力なのはスキルか。……厄介ごとに巻き込まれないか心配になってきた。
「ねぇ、遠くで凄い魔力を感じるわ。噂の守護者ってやつかしら?」
「だろうな。先にいるやつらで太刀打ちできるかどうか見ものだな」
俺は雇う冒険者を間違えた気がした。この二人、明らかに“普通の冒険者”とは何かが違う。どこか狂気じみたものを感じる。普通そういうのって助け合わないの?
「じゃあ、さっさと行くわよ。どんな奴が戦ってるか気になるしね」
アサヒナさんは速い足取りで洞窟の奥へ向かっていく。
「お前が誰かに興味持つなんて珍しいじゃねぇか。普段は他人に一切興味ないくせに」
「……そうね」
その後は沈黙のままダンジョンを進んだが、これがなかなか苦痛だ。何か話題でも……と思ったが、怖くて何も言えなかった。そして数十分歩くと、地形が荒れた部屋にたどり着いた。そこには俺たちより先に来ていた冒険者たちが何やら揉めていた。
◇
「月の光?」
全員が一斉に上を見上げる。天井には大きめの穴が開いていて、そこから月の光が差し込んでいた。
「そうよ。あのスケルトンは、あの月の光を浴びて魔力を回復していると思うの。だから光の中から出てこないんだわ」
これが私が導き出した答え。あくまで可能性だけど、割と当たってるはず。
「流石です、お姉ちゃん! 見事な推察です!」
「でも、からくりが分かっても倒せるかどうかは別問題なのよね」
一応作戦はある。でも成功するかどうかは賭けね。
「まず、リューネは天井の穴を塞いで。――ソアラは光の魔法でこの部屋を明るくしてほしい。レインは月の光が消えたら遠距離から攻撃し続けて」
私の指示が終わると、リューネは壁に手を当て魔法で天井を塞ぎ始める。徐々に周囲が暗くなり、続いてソアラが光魔法で部屋を照らす。
「さあ、ここからよ」
「あんまし魔法は使いたくねぇけど……仕方ねぇ、やってやるよ」
レインの両手から氷の刃が次々と放たれる。ちょくちょく“魔法使いたくない”って言うけど……いや、今は気にしてる場合じゃない。
レインの魔法は一直線にスケルトンへ飛ぶが、空間魔法で軌道を歪められ避けられる。しかし、それもすぐに終わった。
「嘘……なんで?」
「当たった……当たったぜ!」
突然、レインの魔法がスケルトンに当たり始めた。レインは嬉しそうに魔法を撃ち続ける。当たったとは言っても、剣で弾かれてるだけなんだけど。
「まさか、こんなに魔力が少ないとは思わなかったわ」
あのスケルトンは素の魔力が以上に低い。だから、あっという間に魔力が空になった。
「おそらく、あのスケルトンは月の光でパワーアップする特性を持っているのだと思います」
厄介だけど、理屈さえ分かれば対処はできる。これで勝ちはほぼ決まりね。
「とはいえ、空間魔法がなくても、あの異常な速度の剣技は厄介だし油断はできない。――ナナ、全力の帯電化で行くわね」
「……危険だと思ったらすぐ解除してくださいね」
ナナは帯電化による脳のダメージを心配してくれているが、そんな事気にしてる場合じゃないわ。死んだら元も子もないんだから。
私は全身に雷を纏い戦闘態勢に入る。全ての動きが遅く見えてくる。空間魔法がない今なら、一撃食らわせられるはず。地面を蹴り、スケルトンへ突っ込む。
ソアラは正面からスケルトンと剣を交える。空間魔法が消えたせいか、高速の剣戟とも渡り合えている。遠くからはレインの氷の刃が飛び続ける。
「クッソ、当たらねぇな」
スケルトンは片手間でレインの攻撃を全て躱している。簡単にはいかない。
「くらえー!」
私は頭上高く跳び、真上から雷を落とす。
「避けた!」
スケルトンが初めて大きく動く。よし、いける。
「リューネ! 今よ!」
合図とともにリューネが動く。スケルトンの回避先にリューネが構えており、巨大な槌を振り下ろす。
ドシャーン! と爆音とともに土煙が舞い上がる。
「お! やったんじゃねぇか!?」
ばか! そんなフラグ立てるようなこと言うから――
「!?」
悪寒がして私は即座にしゃがみ込む。その瞬間、頭上を剣先が通過した。
あぶなっ! もう少し遅かったら首チョンパされてたわ!
帯電化を解いてなくてよかった。
「はっ!」
振り向きざまに剣を振るが、スケルトンにかわされ空を切る。
「アイリ姉ちゃん!」
ソアラが駆け寄り、私の前に立って剣を構える。
「私は大丈夫よ。ねぇ、ソアラ……私についてこれる?」
私の全速力にソアラが合わせられるなら、きっと――。
「うん!やるよ、私」
その言葉に私は安心し、全魔力を使い切る勢いで雷を増幅させ、スケルトンへ切りかかる。
「すげぇ……」
レインが感嘆の声を漏らす。
私の攻撃に合わせるようにソアラが横から斬り込む。スケルトンは私の斬撃を避け、ソアラの剣を受け流す。そこまでは想定内。スケルトンは反撃する余裕はなく、避けるので精一杯だ。私とソアラの攻撃は、徐々にだが確実に速くなっていく。
「……アイリってほんとに凄いのね」
セレナは信じられないものを見る目だった。
「うん! ママは世界一凄いんだよ!」
「後でちゃんとお礼言わないとね」
「いい加減当たりなさいよ!」
何十回と剣を振っても一度も当たらない。でも、もう少し……もう少しで届く。
「援護するっすよ!」
後ろからリューネの声が響いた。その瞬間、スケルトンが一瞬よろめく。
その一瞬が致命的だった。私とソアラの剣が同時に命中する。
そこからは一方的。私たちはスケルトンが倒れるまでひたすら斬り続けた。
徐々にスケルトンの身体にヒビが入り、肋骨が砕け、腕が折れ、最後に首が折れ落ちる。
同時に私の帯電化が解け、私は膝をついた。
「はぁ……はぁ……今度……こそ、終わった……のよね」
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最近寒すぎるのと忙しいのダブルパンチで全然書けてません。今年中に第6章までは書きたいと思ってます!
第2章もクライマックスを迎えようとしてますが、アイリ達の物語はまだまだ序盤なので是非これからのストーリーを楽しみにしていてください。




