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フェイカーズ


「ほんとにこんな田舎の村にあるの?」


「僕がちゃんと調べたんだから間違いないですよ」


 橙色の髪の鋭い目つきの女性と、私と同じくらいの年に見える草色の髪にベレー帽を被った少年──その二人が、話しながら村へと足を踏み入れていく。


 村の人たちはロイドさんから事前に聞いていたため家に隠れているけれど、私はどうしても気になってこっそり覗くことにした。


「君たちが探してるのはこれのことかい?」


 ロイドさんが二人の前に現れ、石のような宝珠を掲げた。


「あれって……お父さんが買ってきたやつ……」


「アンタ、その宝珠のこと知ってるみたいね。大人しく渡してくれれば、手荒な真似はしないんだけど?」


 女性がゆっくりロイドさんへ近づく。


「なぜ賢玉を集めている? 誰の命令で動いているんだ」


「あはは、教えるわけねぇだろ。まあ、これだけは言っとくよ。あたいたちは――フェイカーズの一員だ」


 フェイカーズ……聞いたこともない。でも、ロイドさんはその名を聞いた瞬間、明らかに反応した。


「フェイカーズ……裏社会の二大勢力の一つ、黒陽に並ぶ闇の組織……。そんな連中が、どうしてここに」


「へぇー、詳しいじゃないかい。だったらアタイ達に歯向かう愚かさも分かってんだろ?」


「なおさら君たちを放っておくわけにはいかなくなったよ――フィア!」


 名前を呼ぶと同時にロイドさんの身体が赤く輝きを帯びた。な、なにこれ……?


「へぇ、面倒くさくなってきたね。――ルーベルト、支援は頼んだよ」


 女性が上着を脱ぎ、戦闘態勢に入る。

 ベレー帽の少年ルーベルトは、どこからともなくキャンバスを取り出し、左手に絵筆を構えた。


 ……こんな状況で絵を描くの?


「いくぜ!」


 女性が勢いよく地面を蹴り、一直線にロイドさんへ突っ込む。


「すごい速度だ……!」


 ロイドさんも即座に炎を放った。火炎放射器どころではない、灼熱の奔流が女性を飲み込もうとする。


「ふっ、甘いね。その程度の火力じゃアタイは焼けないよ」


 ――嘘でしょ!?

 女性は炎の中を突っ込んでいった!


 ロイドさんは素早く距離を取り、次の魔法を準備する。


「だったらこれはどうだい?」


 今度は手のひら大の火球。しかし、その熱は周囲の空気を歪ませるほど凄まじい。


「面白ぇ! 来いよ!」


 放たれた火球に、女性は避ける素振りも見せず拳を構え──


「オラァッ!」


 バシュン!

 火球を殴り、霧散させた。信じられない……!


 そのまま一気に距離を詰める。


「今度はこっちの番だ!」


 怒涛の蹴りと拳の連打。ロイドさんは避け続けるも全ては捌ききれず、腹に強烈な蹴りを受けて吹き飛ばされる。


 車に轢かれたみたいな勢いで転がっていき、私は思わず息を呑んだ。


「シャア! どんどんいくぜ!」


 女性は楽しそうに追撃する。ロイドさんは炎を乱射するが、常識外れの身のこなしで回避され、逆に拳を叩き込まれる。


 ロイドさん、このままだと本当に……!


「げほっ……ごほっ……このままじゃ流石にまずいな」


 血を吐きながら立ち上がるロイドさん。


「まだやるのかよ? 死んでも知らねーぞ?」


「心配してくれるんだね……。フィア、同調率を限界まで上げるよ」


 その瞬間、ロイドさんの魔力が跳ね上がった。まるで空気そのものが震え、周囲の温度が一気に上がる。


「すげぇな! あれが本気じゃなかったんだな!」


 女性の目が輝く。まるでおもちゃを前にした子供みたいに無邪気だ。


 そこからの戦闘はもう、私の目では追えなかった。ただ、ロイドさんが優勢なのは分かる。


 女性が押され始め──渾身の拳が入る。受け身を取るが、すぐに炎の追撃が迫る。


「こんの……やろぉ!」


 女性は全身に魔力を纏い、防御に徹した。

 炎に包まれ、視界が赤く染まる。


「これで……倒れてくれるといいけど」


 ロイドさんは息を整えながらつぶやいた。


 炎が晴れ、女性の姿が現れる。


「はぁ……はぁ……やるじゃねぇか。今のは焦ったぞ」


 服や髪が焦げているが、まだ戦える様子。


「これ以上続ければタダじゃ済まないよ?」


 ロイドさんが一歩踏み出した、その時。


「調子に乗ってんじゃねぇよ! ――おい、ルーベルト!」


 呼ばれた少年はキャンバスに筆を走らせ始める。嫌な予感がする。


「何をするつもりだい? これ以上は……! これは!?」


 ロイドさんの足元が沼へと変貌する。

 やっぱりルーベルトの力……!


 彼はさらに二枚目を描き始める。

 私は息を潜め、近づいていく。


「厄介な力だけど、この程度じゃ僕は捕らえられないよ」


 ロイドさんは炎を纏って空へ飛翔した。


「へぇ〜やるねぇ。でも、もう遅いよ」


「出来ました」


 完成したキャンバスが光り、同時に女性も光を纏う。

 気づけば両手に禍々しい爪、服装も戦闘用に変化していた。


「さぁ、こっからが本番だ!」


 ロイドさんは無数の火球を放つが、女性は全てを切り裂き迫ってくる。

 接近戦に持ち込まれ、ロイドさんは紙一重で爪を避けつつ魔力を練る。


「まだついてくるのかよ! だったらどうだ!」


「くっ……!」


 ロイドさんが吹き飛ばされる。


「これで終わりだぁ!……あ?」


「保険をかけておいてよかったよ」


 女性が爪を振り下ろす瞬間、天から火球が降り注いだ。


「あちちっ! なんだよこれ!」


 地面を転げ回る女性。


「今度こそ……っ!」


 女性の一撃がロイドさんを捉え、蹴り飛ばす。


「ぐはっ!」


 倒れたロイドさんへ爪が突き立てられようとした瞬間──


 バシュンッ!


 爪と衣装が元に戻った。


「な……なんで!?」


「僕の絵に何してくれるんですか!!」


 私はルーベルトのキャンバスに土をかけた。


「思った通り! これが原因だったのね!」


「よくも……僕の絵を……!」


 ルーベルトは立ち上がり、私に絵筆を向ける。


「その子に手を出すな!」


「あなたの指図など……受けるわけ……っ! ミラ!? 捕まったのですか!?」


 ロイドさんがミラを抱えて近づく。


「キャッ!」


「仲間を返してください! さもなくばこの子を殺します!」


 喉元に絵筆を向けられ、私は身を硬くした。

 ……いや、絵筆で刺されるの?


「分かった。今回は見逃す……だからその子を」


「では契約魔法に調印を」


 光の玉が生まれ、契約内容が告げられる。


「互いに人質を返し、数日の間手出しをしない。破れば即死です」


「分かった。――これでいいかい?」


 ロイドさんが光へ魔力を流し込む。


「ありがとうございます。それでは……」


 私は解放され、ロイドさんの元へ駆け寄る。


「大丈夫だったかい? 君のおかげで助かったよ」


 ロイドさんに頭を撫でられる。恥ずかしいけど……うれしい。


「じゃ、帰るぞミラ」


「ちっ、覚えてろ! 次は負けねぇからな!」


「次こそはそれを貰います。ボスのためにも必ず」


 そう言い残し、二人は姿を消した。


「……疲れた……」


「ロイド様、ごめんなさい。私にもっと力があれば……」


 ロイドさんの赤い光が消え、小さな羽の生えた少女が現れる。


 誰、この子……?


「フィアはよくやってくれたよ。僕が弱いせいで逃がしたようなものだからね」


 ロイドさんは悔しそうに俯く。


 ……もし私がいなければ、捕まえられたのかな……。


「ここで落ち込んでも仕方ないね。次の場所へ向かうよ」


「もう行くの? もっとゆっくりしていけばいいのに」


「本当はそうしたいけど……やらなきゃいけないことがあるんだ。村のみんなにもよろしくね」


「ダメですよ、ロイド様!――今は立っているのも精一杯なのですから」


 フィアがロイドさんの服の袖を引っ張り村へ戻そうとする。


「……そう……だね。少しだけ休ませてもらおうかな」


 そう言ってロイドさんと一緒に村へと戻る。


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