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月光山に向けて

「そういえば、ロイドに聞きたかったんだけど……この世界のお金ってどういう仕組みなの? 前に金貨をくれたけど、いまいち価値が分からないのよね」


馬車の中では特にすることもなく暇だ。せっかくなので前から気になっていたことを聞いてみる。


「私もよく分からないまま買ってたよ」


森にいたソアラやリューネたちも、この世界の通貨についてはあまり理解していないようだった。


「そうだな……まず、この世界には二つの通貨が存在する。ひとつは前に渡した金貨や銀貨、銅貨。もうひとつは――これだ」


ロイドはポケットから、一枚の長方形の紙を取り出した。独特な印刷が施された紙だ。もしかしてお札?


「これは《セラ紙幣》って言ってね。これ一枚で銀貨一枚分の価値がある。少しややこしいけど、この紙幣の最小単位がナールで、そこから順にゼン、デル、セラ、ルミナ、グランの六種類があるんだ」


そのあともロイドは丁寧に説明してくれた。

途中からソアラとリューネは完全に放心していた。……まあ予想通りよ。私はもちろん理解したけど。


つまるところ、1ナールが1円で、桁が上がるごとに名前が変わるってことね。

ちなみに、私たちがもらった金貨は一ルミナ相当らしい。それを私たち全員に一枚ずつ……ロイドは本当に太っ腹よね。


「ってことは、俺が持ってる銀貨はあんまり使えないってことか?」


レインは懐から袋を取り出し、床にジャラジャラとぶちまける。


「そんなことはないよ。紙幣と貨幣の交換所はどの国にもある。そこへ行けば問題ない」


「でも、ガレートでは貨幣をそのまま使えたよね? 国によって違うの?」


私の世界も国ごとに通貨が違ったし、そのへんは似ている。


「そうだね。ガレートみたいに紙幣制度に反対して貨幣だけで取引する国や街もあるんだ」


「金ってめんどくせぇな……」


レインはそのまま寝転がる。


私たちの国もいずれ他国と交易するなら、お金の管理は大事になる。お金についても色々考えないとね。

 



エクレスト城の会議室では、ロザリーを含め国の重役たちが集まり、ガレートの問題について話し合いが行われていた。


「多忙の中、よく集まってくれた。感謝する」


豪奢な装束を身に纏ったエクレスト王が椅子に腰を下ろす。


「では、まずはガレートについて。イベルナ、報告を」


大臣に促され、灰色の長い髪を後ろで束ねた物静かな女性――イベルナが立ち上がる。見た目に反して諜報課のリーダーでなかなか頼りになる存在だ。


「……ガレートでの調査の結果、第三層までは特に怪しい動きは見られませんでした。しかし、第二層への侵入に成功し、《異界五人衆》について二名分の情報を得られました。内容は――」


イベルナは淡々と報告を続ける。

異界五人衆……あの雪のような少女も恐らくその一人だろう。あの子は私の隊の誰よりも強いはずだ。そんな奴らが5人も……いやもしかすると。


「――では次にロザリー殿。報告を」


名を呼ばれ、私は立ち上がった。


「私からは二つあります。まずは一つ目――ガレートはウロボロスの森で異界召喚の儀式を行っていました。これに関しては確かな証拠があります。この報告書は勇議会へ提出し、正式な処罰を求める予定です。そのため諜報課には、異界五人衆の誰か一人に接触し、証拠の裏付けを取ってもらいたい」


私は無表情のイベルナに視線を向ける。


「……分かった。でも、難しいと思うから期待はしないで」


「感謝する」


「しかし以前の情報では異界五人衆は五人でしたが……真実なら、さらに増えている可能性もありますね」


できれば考えたくないが、その可能性は高い。


「ですが、その点について一つ朗報があります。――二つ目の件です。あの森でガレートに召喚された少女が、漆黒の剣のメンバーと、そして私と一度接触しています。彼女はガレートの支配を免れ、現在はウロボロスの森――亜人王国を建て直し、そこで亜人たちを導いているのです」


「なんだと!? それはガレート以上に危険ではないのか!」


宰相ラゼルダが円卓を叩き、立ち上がる。


「最後までお聞きください。彼女の名はアイリ。私の見た限り、敵意も害意も全くありませんでした」


「なるほど……アイリという異世界人についてはロザリー殿を信用しましょう。しかし、亜人族については放置できませんな。皆も知っている通り、亜人族は危険極まりない。暴走すれば――」


亜人族が危険とされてきた歴史があるのだから、簡単には信じられないのも当然だ。


「あなたの言い分は分かります。亜人族が行ったことが許されないのも事実です。しかし、それが誰かの陰謀で起きた悲劇だとしたら? 聞いた話によると、亜人族は人間に騙されたと言っています。詳しくは不明ですが、当事者であるウォルタ国が何か企んでいた可能性もある」


あの日から、あの国の英雄はまるで別人のように変わったのだ。


「そうですね……ウォルタも信用しきれません。でも、それが真実なら世界の常識がひっくり返ります。私たち人間の立場も危うくなるかもしれませんね……」


その後も、アイリや亜人族、ガレートについて議論は遅くまで続いた。

最終的にアイリとは、王の判断で国交を結ぶことが決まった。



私たちは数日かけ、ようやく月光山に到着した。


「ようやく着いたわね」


時刻はちょうど昼を回った頃だ。


「ねぇ、入る前に食事にしない?」


お腹も空いてきたし、中には厄介な魔物もいるという。英気はしっかり養っておきたい。


「さんせーい! 私、もうお腹ぺこぺこだよ!」


「クロエもお腹すいた!」


「僕も賛成。これから魔物との戦闘が続くだろうし、食べられる時に食べないとね」


私たちは食事の準備を始めた。


「……」


セレナだけは浮かない顔をしていた。

一刻も早く母親を助けたい、その気持ちは痛いほど分かる。


「大丈夫よ。必ずあなたのお母さんは助けるから」


私はセレナの隣に座り、優しく声をかけた。


「それは……分かってるけど、あなたたちで花を取れるか心配なのよね」


そっちの心配か。でも、相変わらずでちょっと安心した。


「だ、大丈夫よ。私たち、こう見えても強いから」


「でもロイドさんよりは弱いんじゃない?」


痛いところを突いてくる。


「ロイドさんもかなり疲れてるみたいだから、余計に心配なのよね」


「そういえばロイドが言ってたけど、あの村で何があったの? その戦いが原因でお母さんが病になったんでしょ?」


ロイドが言うのだから、相当な戦いだったのだろう。


「そうね……あの戦いは本当にすごかったわ。あれは、あなたがセイネルに来る二日前の出来事」


セレナはゆっくりと空を見上げ――

セイネルで起こった戦いを語り始めた。


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