ショッピング
私たちは仮面舞踏会につける仮面を買いに、商店街へ向かっていた。
「どんな仮面にしようかなー?」
ソアラは楽しそうに商店街を見渡していた。仮面舞踏会――ガレート城で行われる舞踏会で、仮面さえつければ誰でも参加できるらしい。顔が割れている私たちからすれば好都合だけど、狙われているのに、そんな堂々としてていいのかな?
「アイリ姉ちゃん、これどうかな?」
ソアラは金の装飾の変わった仮面をつけて見せてきた。
……分からない。仮面の良し悪しなんて分からないわ。
「いいんじゃない……似合ってると思うわ」
とりあえず適当に答える。
「お客さん、とても似合ってますよ! それなら今夜の仮面舞踏会もいい線いきますよ!」
仮面屋の店員がソアラの仮面を褒めるが、どこか胡散臭い。
「えへへ、そうかな? アイリ姉ちゃん、わたしこれにするね」
チョロいな。ちょっと褒められただけでソアラは上機嫌だ。
「毎度あり。お客さん、いい買い物したね。そのついでと言っちゃなんだが、いい情報を教えてあげようか?」
あやしい……けど気になる。
「聞くだけ聞くわ」
「へへ、いいでしょう。その代わり、仮面をもう一つ買っていただいたら、ですが……いかがします?」
ほら出た。やっぱり商人は商人ね。だがどうせ買うつもりだしいいか。
「アイリ姉ちゃんも参加するから、ちょうどいいね!」
良くないわよ。仮面は高いから一つしか買えないって言って、出ないでおこうと思ってたのに。
「はぁ、分かったわ。じゃあこれ、買うわ」
私は適当に目についた仮面を手に取る。
「へへ、毎度あり。――じゃあ、お客さんには特別に仕入れた情報を教えますね」
そう言って店員はきょろきょろと辺りを見渡し、人目がないことを確認してから口を開く。
「実は今回の大会の優勝賞品なんですが……どうやら賞金に加え、貴重な月光花から作れる薬――“月の雫”がもらえるらしいですよ」
いやらしい笑みを浮かべる店員。
そんな都合のいい話、あるわけ……。
「アイリ姉ちゃん! 私たちで優勝しようよ!」
案の定、ソアラは信じきっていた。
「ナナはどう思う?」
「ガレート側がすでに私たちに気づいている可能性はありますが、それならば直接捕まえに来るはずです。わざわざ舞踏会を利用するような遠回りしないかと思いますが警戒はした方がいいと思います」
それもそうね。回りくどいことをせず、直接捕まえれば済む話よね。
「考えても仕方ないし、もし罠だとしたら、その時は逃げればいいでしょ!」
そのためにも、罠だった時の“逃げる手段”は整えておかないと。前々から気になっていた転移の魔法石を探しに行こうかな。
「教えてくれたことは礼を言うわ。――それじゃ行こうか」
「毎度あり! またのご来店、お待ちしてますよ」
私たちは魔法石屋を探して歩き出す。
「そもそも、転移の魔法石なんて市販で売ってるの?」
そんなものが量産されていれば、悪用する奴らがわんさか出てくるはず。
「お姉ちゃんの考えていることは分かります。ですが、この世界ではそれが難しくなる仕組みがあります。――一つは“魔力分析”の技術が大幅に上がっていて、場所さえ特定できれば魔力の残滓から“誰が”魔法を使ったか分かってしまうこと。もう一つは、その場所を瞬時に特定する“魔力探知機”の存在です。どの国にもあり、魔法を使うと探知機が反応して位置が割れます」
想像以上に文明が発展していて驚きだわ。まあ、スマホが作られている時点で薄々気づいてはいたけど。
「……? 全然分からないや」
ソアラには少し難しかったようね。
「要するに“魔法で悪さがしづらい”ってことよ」
でも、どれだけ厳重な対策をとっても必ず抜け道は存在するはず。特に、誰が魔法を使ったかなんてそもそもが誰か分からなければ特定なんてできるはずがないんじゃ。
「そうなんだー」
「お姉ちゃん、あそこに“魔法屋”と書いてある店があります」
「ほんと!? 行ってみようか」
確かにそれらしいものが並んでいる店がある。ちなみにこの世界の文字はさっぱりわからない。
「へいらっしゃい! 魔法石店へようこそ! どのような魔法石をお求めで?」
スーツを着こなした若い男が、元気よく話しかけてくる。
「転移の魔法石を探してて……」
「なるほど! 転移ですかぁ。残念ながら、先ほどラスト一個が売れてしまいましてね。代わりに、あらゆる物を鋼のように固くする“硬化”の魔法石はいかがです? 今ならお安くしますよ」
そういって店員は私に硬化の魔法石を近づけてくる。
「いらないよ。転移がないなら別に……いや、せっかくだし他にどんな魔法石があるか教えてほしいのだけど」
この世界の魔法を全然知らないし、ここで色々聞いてみよう。
「お任せください。ではまずはこちらの――」
店員は意気揚々と、店の魔法石を順番に説明してくれた。〈猛毒〉、〈弱体〉、〈加速〉……。様々な魔法石があり、気になるものを何個か買うことにした。備えあれば憂いなし、ね。
ただ、そのせいでお金がほぼ尽きてしまった。あとでロイドに貰わないと。
店員はご機嫌な顔で私たちを見送ってくれた。
◇
ガレート城第二階層にある会議室にて、アイリについての話し合いが行われていた。
「ドゥームよ、これからどうするのだ?」
「そうですね……部下を殺され、兵士を倒されたのは非常に許しがたい。しかし私たちが無理に攻め入れば、エクレストはおろかボルトアも黙っていないでしょう」
非常に厄介なことになりました。あの小娘を少々甘く見ていたようですね……それにアーガストが裏切った可能性も。
「それならば、異界五人衆を皆集めれば、なんとかならんのか?」
「仮にこちらの戦力をすべて森へ投入すれば、エクレストに隙を突かれるでしょう。報告によれば、亜人どもとエクレストは友好関係を築き始めているとか」
そうなれば、エクレストが――月刀姫が出ないわけがない。それに、あの灼熱の大戦士も……。
「なので、ここは一旦様子見をするべきかと。下手に手を出して返り討ちに遭うのは愚かです」
「ぐぬぬ……」
ガレート王は悔しそうに拳を握る。気持ちは同じですよ。ですが最後に勝つのは、私たちです。
「そういえば、エルノーア殿が手を貸してくれる件については了承を得ました。準備にはしばらく時間がかかるそうですが」
「なんと! それは真か! ははは、それなら何も心配あるまい。あの方の力と異界五人衆の力――これで余たちに逆らう者はいなくなるのう」
「随分面白い話をしてるじゃないか」
いつの間にか、厳重なこの部屋に見知らぬ男が立っていた。
「誰じゃ、貴様は! ここがどこか分かっておるのか!」
「つれないな。せっかく“面白い話”を持ってきてやったんだぜ」
この男、只者ではない。直感が告げている――こいつを敵に回してはいけないと。
「王よ、話だけでも聞いてみるのは?」
「う、うむ。其方の話を聞こうではないか」
「そうでなくてはな。――君たちがエクレストを……いや、この大陸を支配するのに手を貸そうと思ってね。それが――」
――この男の話が本当なら、確実にやれる。是が非でも協力してもらおうじゃないか。
◇
日は沈み始め、もうすぐ仮面舞踏会が始まろうとしていた。私たちは以前着たドレスを収納から出し、着て参加することにした。クロエとリューネは仮面がなく、不参加に。
「アイリ姉ちゃん、耳見えてない?」
ソアラは心配そうに鏡の前で自分の猫耳が出ていないか確認している。
「ちゃんと帽子に収まってるから大丈夫よ」
「ありがとー。なんだか緊張してきたよ」
そうね。もしバレたらって思うと、不安になるわ。でも、ここまで来たら優勝して薬を手に入れたい。――そもそも舞踏会の点数って、どうやって付けてるんだろ?
不思議に思いながら更衣室を出る。そのまま案内役の女性に、会場まで導かれた。
「ここが仮面舞踏会の会場となります。念のためご説明しますが、本大会は“二人一組”でのご参加となります。お二人は大丈夫だと思いますが……」
「おいおい、んなこと聞いてねぇぜ! ここまで来て帰れってか?」
近くで案内役ともめている人が――って、レインじゃん!?
私はバレないように、咄嗟に背を向ける。
「なぁ、ここに知り合いが来てるかもなんだよ。なんなら、あんたがペアでもいいからさ」
「そ、それは困ります」
「アイリ姉ちゃん、あれレインじゃない? ――おーい!」
ソアラがレインの方へ走っていった。やめて、バレるって……! と、その時、私の前に一人の女性が現れる。
「もし良ければ、私とペアになってくださらない?」
私に手を差し出してくる女性の顔を見て、私は凍りついた。
「ナギサ……」




