冒険者ギルド
「ここが冒険者ギルド……?」
「すごい人だね」
私たちは〈冒険者ギルド〉と書かれた看板(ナナが読んでくれた)の建物に入ったものの、中の喧騒に唖然としていた。いかにも冒険者らしい装いの人たちや、でかいリュックを背負った商人らしき人でごった返している。
想像以上の人の多さに驚いて立ち止まっていると、可愛らしい制服に身を包んだ女性が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ! ご利用は初めてでしょうか?」
「は、はい」
「初めてでしたら驚かれるのも無理ありませんよ。でも、すぐ慣れますから大丈夫です。それで……お二人はどのようなご用件で?」
この子、私とそう歳は変わらないはずなのに、やけに頼もしく見えるわ。
「女の子を探していて……ここで依頼を出してると思うんだけど、何か知ってますか?」
「あー、もしかしてあの子のことかな? ここ数日、毎日のように来ては依頼を出して、ご自分から冒険者の方々に声をかけ回っているんです」
店員さんは「ちょうどあそこに」と店内の一点を指差す。そこでは、四人組の男女に何かを必死に訴えている少女がいた。
うん、絶対セレナだ。
「ありがとうございます。あの子を探していたんです」
「そうですか! 私たちも気がかりだったので安心しました。何か分からないことがあれば、いつでもカウンターへどうぞ」
持ち場へ戻っていく受付嬢に軽く手を振り、私たちはセレナらしき少女の元へ向かう。
「あの人がセレナさんなのかな?」
「聞いた話と合致するわね。黒のツインテールの少女って話だから」
よく見ると、そもそも黒髪の人が全然見当たらないのは偶然?……まさかね。
私たちが近づくと、ちょうど四人組との話が終わったのか、少女がこちらへ歩いてくる。
「!? ねぇあなた、強そうね。よかったら私の依頼、受けてみない?」
向こうから話しかけてきた。それにしても、女性に“強そう”はちょっと失礼じゃない?
「あなた、セレナよね?」
「え!? どうして私の名前を……もしかして私のファン?」
すごい勘違いしてるけど、面倒だから流そう。
「あなたの依頼は私たちが受けるわ。誰も受けてくれないんでしょ?」
「えっ!? いいの?」
「いいわよ、それくらい。クロエもいいかな?」
「うん!! ママが行くなら、クロエもついてくよ」
よしよし、可愛い。
「あ、ありがとう……」
セレナは少し恥ずかしそうに俯いてお礼を言った。
「でも、いいの? 私が出せる報酬なんて銀貨数枚、五セラ程度しか出せないけど……」
銀貨? セラ? そういえばロイドから一人一ルミナずつもらったけど、いまいちこの世界の通貨がわからない。あとでこっそりナナに聞いておかなきゃ。
「報酬はなんでもいいわ。それよりお腹空いたから、とりあえず座らない?」
「やった! クロエ、お腹ぺこぺこ!」
クロエは空いている席を探して辺りを見渡す。
「ママ、あそこの席空いてるよ!」
嬉しそうに目標のテーブルへ走っていく。
「あの子、元気ね。見てて飽きないわ」
セレナはじっとクロエを見つめていた。
◇
「とりあえず、他のみんなにはここにいるって連絡しておいたけど……レインがどこかに行ったらしいのよ」
「じゃあ、もう帰ってこないの?」
クロエが心配そうに首をかしげる。私にとっては、レインがいないほうが“災禍”とかいうやつと戦わなくて済むから助かるんだけど。
「しばらく放置ね。何も告げずに消えたってことは、言えない事情があるのかもしれないし」
「そっか……じゃあ仕方ないよね」
心配なのか、少し不安そうな顔をする。まあ、おなかいっぱいになれば忘れるでしょ。
「ねぇ、そのレインって誰よ。他にどんな奴が来るか教えなさい」
相変わらず上から目線は直らないのね。
「そうね、でもその前に私たちの自己紹介から。私はアイリ。詳しい事情は話せないけど、あなたの父親に頼まれてあなたを探しに来たの。それで、この子がクロエ。見た目はあなたと同い年くらいなんだから、仲良くしてあげてね」
「ふーん。まあ、相手の出方次第では考えてあげてもいいわ」
「えっと、クロエです。セレナさんとお友達になれて嬉しいです!」
「何、勝手に友達にしてるのよ! 誰もあなたと友達になるなんて言ってないわ」
「ご、ごめんなさい……」
クロエがしゅんとなる。あーあ、可哀想に。
「ち、ちがうわ! あなたがどうしてもって言うなら、なってあげても……友達に」
「お待たせしました。ご注文の品です」
もう少し二人のやり取りを見ていたかったけど、ちょうど目の前に注文した料理が運ばれてくる。私達は話を中断してこの国の料理を堪能した。
◇
「お! アイリ様たちっす!」
「アイリ姉ちゃんの勝ちだねー」
そういえば、そんな勝負してたわね。
「今回はしょうがないから勝ちを譲ってあげるわ! でも次はないと思いなさい!」
ソアラの服から顔を出しているミレイを、ソアラは必死に隠そうとする。
「アイリ様? その子がセレナっすか? ちっちゃくて可愛いけど、どこか生意気なオーラを感じるっす」
「あなたは随分アホっぽい顔をしてるわね。後先考えずに突っ走るタイプね」
「うぐっ! な、そんなことないっすよ! 少しは考えてるはずっす……そうっすよね?」
私に振られても困るんだけど。というか、初対面でなんでこんなに仲が悪いのよ。
「これからしばらく一緒に行動するんだから、仲良くできない人は置いてくわよ」
私の一言で、セレナとリューネはすっかり大人しくなった。
「そうだ、アイリ姉ちゃんに私たちの――」
ソアラは手に持っていた袋から、ドーナツを取り出した。
「ドーナツ? この世界にもあるんだ」
「……!?」
まさかドーナツが食べられるなんて。――ん?気のせいかな、一瞬セレナが反応したような? 食べたいのかな。
「これね、商店街の強そうな人が売ってくれたの!」
そう言って、私とクロエ、そしてセレナにもドーナツを渡す。嬉しいけど、お腹いっぱいだから、あとで欲しかったな。頑張って食べるけど。
◇
その後、少ししてからロイドがやってきた。
「遅くなってごめん。レインがいないか探してたけど、見つからなかったよ」
「いないならいないでいいわ。どうせそのうち戻ってくるわよ」
「アイリの言う通りだね。それより、これからどうする?」
「セレナの話だと、薬の材料になる月光花が“月光山”にあるから、そこへ行こうと思うの」
本当は行きたくないけど……。
「月光山? どんなところなの?」
ソアラは目を輝かせ聞いてくる。
私に聞かれても分かるわけない。行ったことないんだし。
「月光山はエクレストにある山の一つで、“最も月に近い山”と呼ばれているんだ。魔物が多く生息していて、噂では月光花の守護者がいるとも聞くよ」
ますます行きたくなくなるわね。
「楽しそうっすね! アイリ様、今すぐ行きましょー!」
「私もクラウドとの修行の成果、試したいよ!」
相変わらず元気過ぎる、二人とも。
「なによ。アイリの仲間って戦闘狂しかいないの? レインってやつもどうせ似たようなもんなんでしょ」
セレナは呆れ顔。
「それは違うわよ。クロエは戦闘狂なんかじゃない」
クロエと二人を一緒にしないで。クロエは天使よ。戦闘なんて無縁に決まってる。
「ふーん。じゃあ、あなたとは仲よくなれそうな気がするわね」
「ほんと!? クロエもそう思うよ!」
「月光山へは道のりが長いから、出発は明日でどうかな?」
「セレナがそれでいいなら、私はいいわ」
どれくらいかかるんだろう。しばらくみんなには会えなそう。
「そうね。本当は今すぐが良かったけど、それじゃあなたたちが大変だもの。明日でいいわよ」
「それじゃ、明日の朝にここを発つってことで。それまでは自由行動にしよう」
「じゃあアタシは、もう一回、屋台で食べられなかったものを見てくるっす」
屋台? お祭りでもやってるの?
リューネはクロエを連れて例の屋台へ向かった。その後ろをセレナが追いかけていく。ロイドも用があると、一人で出ていった。
「アイリ姉ちゃん、私たちはどうする?」
「どうしよっか? 今日って祭りでもやってるの? 私たちも見に行ってもいいけど」
「今日はガレート建国祭のようです。屋台が出ているのはそのためかと。今夜は仮面舞踏会、明日は仮面武闘会が開かれるらしいです」
なによそれ?
「2日も舞踏会が開かれるの?」
何度か珍しいわね。あのドゥームが実はダンスが好きなんて言わないわよね。
「少し紛らわしいのだけど、1日目は踊る方の舞踏会で2日目が闘いの方の武闘会なんだ」
「面白そーだね! 私も出ようかな?」
「出発は明日だし、いいんじゃない? 私は見るだけだけどね」
踊るのも戦うのも、ごめんだわ。
「ええー! アイリ姉ちゃんも出ようよー」
「気が向いたらね」
出る気はないから、適当に返事しておく。――そして私たちは、仮面舞踏会を見に行くことにした。
◇
「くはは。いいことを聞いた。まさか、こんなにも早く復讐のチャンスが訪れるとはな」
アイリたちがギルドを去ったあと、一人の男が静かに笑う。
「この武闘会であの女を殺して優勝すれば、再びドゥーム様に認めてもらえるはずだ」
2日に一回の更新が3日に一回に変わるかも




