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捜索


 「おい、こんなところに子どもが来るとは思えねぇんだけど」


俺はロイドと一緒に、セレナとかいう子どもを探すことになった。ロイドは以前も来たことがあるって言うから、黙ってついていくが……。


「どう見ても廃墟だろ、これ」


薄暗い路地を抜けた先に現れたのは、幽霊が出ると言われても不思議じゃないほど不気味な家だ。しかもそこそこデカい。


「失礼だよ、レイン君。ここは今でもちゃんと経営してる薬屋なんだ。セレナは薬を買いに来たんだから、もしかしたらここにも来てるかもって思って」


マジかよ。ここに人がいるのか……世の中いろんな奴がいんだな。


「そういえばレイン君に聞きたいことがあるんだけど、もし気を悪くしたら謝るよ」


「なんだよ、聞きたいことって」


「君が本当に災禍を目覚めさせたのかい? 災禍を目覚めさせるのは、そう簡単なことじゃないと思う。それを幼い君がやったとは、とても思えなくて」


やっぱりこの男とは仲良くできなさそうだ。どこか、いつも見透かしてるみてぇで。


「俺だよ……はっきり覚えてる。俺が興味本位で災禍のところに近づいたんだ。その時、魔物に襲われそうになって、姉さんが助けてくれたのはよかったけど、姉さんの魔法が災禍に当たっちまってよ」


「それで目覚めた……か。それで君以外は、なぜか助かった――聞かせてくれてありがとう」


そう言って、薄気味悪い薬屋へと入っていく。


「ちょっと待てよ! お前はなんなんだよ? お前はなんで旅をしてるんだ」


正直こいつのことなんてどうでもいいが、俺だけ聞かれっぱなしなのは癪だ。


「……そうだね、僕は世界のために旅をしてる……それだけだよ」


空を見上げて答えるロイドの姿は、どこか達観しているように見えた。世界? なおさら訳がわかんねぇ。


「ちっ、もういいや。さっさとガキを見つけるぞ」


俺はロイドの前に出て、先に中へ入る。その直後、思わず振り返った。


「……!?」


この気配……やっぱり気のせいじゃねぇな。


「どうしたんだい、レイン君?」


「……別に、なんでもねぇよ。ほら、行くぞ」


ミシミシと音を立てる床を慎重に進む。薄気味悪くて仕方ない。


「マジでこんなところに人がいるのかよ? そもそも本当に薬屋なのか、ここ?」


こんなところまで薬を買いに来る奴の気が知れねぇ。例のガキがここまで来れるとも思えねぇ。


「ったく、こんなとこより、もっとマシな薬屋を探したほうが良かったんじゃないか?」


「レイン君、それは失礼だよ」


失礼も何も――。


「人様の家に、ずいぶんないいようじゃな」


「うひゃー!!」


俺は思わず尻もちをついた。近くのカウンターから突然、老婆が現れたのだ。


「なんだよテメェ、幽霊か!?」


「ひょ、ひょ、ひょ。安心せい、わしはまだ死んではおらんさ……多分」


老婆は苦しそうに笑っていた。ほんとに大丈夫かよ、この婆さん。


「久しぶりだね、ミルノ婆さん。元気だったかい?」


ロイドは気さくに声をかける。っておい、知り合いかよ。先に言っとけよな!


「ひょ、ひょ、ひょ。なんじゃ、赤の坊主か。久しいのう。ここに来るってことは、何かあったんじゃな?」


「実は――」


ロイドは老婆に一から丁寧に説明する。


「なるほど……その娘なら見覚えがあるぞ。確か三日前だったかのう。『月の雫』という薬を探しておったが、生憎いまは品切れでの。それを知ると残念そうに帰っていったのを覚えておる」


早速ビンゴじゃねぇか。


「婆さん! そのあと、どこに行ったかわかるか?」


「さあなぁ。もう数日も経っておるから、村に帰ってないってことは、もしかすると人攫いに遭っておる可能性も……」


「人攫いだと!? そんなにここは治安が悪いのかよ」


ガキもガキだが、親も親だ。なんでこんなところに一人で行かせるんだよ。


「ありがとう、ミルノ婆さん。それともう一つ、聞きたいことがあるんだけど……」


ロイドが何かを話し始めた時、再び懐かしい気配を感じた。


やっぱり近くに来てやがる! わざと気配を出したり消したり……誘ってやがるな。俺はすぐさま薬屋を出て、気配の元を探す。素早く屋根の上に上がり、辺りを見渡すが――どこにも見当たらない。


「くそ、あいつが本気で隠れたら、俺じゃ探すのは難しいんだよな」


でも、気配を出したり消したりしてるってことは、俺を誘ってるはず……。それか、この町で何か起きてるのか……。


とにかく、ぜってぇ見つけてやる。待ってろよ、ヴォルグ兄さん。


俺は屋根から降り、町中を探すことにした。



私はクロエとナナの三人で、貿易が行われている場所付近を探すことにした。


「ねぇナナ、ここって六層目よね。七層目に通じる階段って、どこにあるか分かる?」


ここに来るまでにも探してみたけれど見つからなかった。さすがに怪しい気がする……厄介ごとはごめんだけど、私の予想では七層目は奴隷にされた亜人族なんかがいるんじゃないかって思う。その中に、セレナがいるかもしれない。


「……探してみますね」


「ねぇ、ママはどうして七層目を探してるの?」


手を繋いでいたクロエが、不思議そうに覗き込む。


「そこにセレナがいるかもしれないの」


だから私たちは、いま人気の少ない路地を歩いている。こういう所に隠してあるかもしれないからだ。


グゥ〜〜。


「えへへ、クロエ、お腹すいちゃった」


クロエが可愛らしいお腹の音を鳴らして、照れたように笑う。


「そういえば、もう何時間も食べてなかったわね――一旦戻って休憩しようか」


「やったー!」


「お姉ちゃん、七層目に通じる階段の場所が分かりました」


さすがね。やっぱりナナがいてくれてよかった。


「じゃあ、お昼食べたらそこに行こうか」


「ちょっと待ちな」


不意に、後ろから声をかけられる。


「何か用?」


柄の悪そうな男が二人、立っていた。


「おうおう、そんな警戒しなくても大丈夫だぜぇ」


「そうだ、出すもん出しゃ、痛い思いはしなくて済むぜ」


はぁ……本当にいるんだ、こういう典型的な盗賊って。


「行こっか」


踵を返して無視しようとしたが――。


「どこへ行くんだ。まだ話の途中じゃないか」


いつの間にか後ろにも二人。囲まれていた。


「ママ……」


クロエが私の手をぎゅっと握る。面倒な……。


「アンタたち、クロエに何かしたら許さないわよ」


男たちをキッと睨む。


「おお、こわいこわい。せっかくの可愛い顔が勿体ないぜ」

 これだから男は嫌いなのよね。


「へへへ、こいつは楽しみになってきたぜ」


男たちはじりじりと詰め寄ってくる。こんな連中に負ける気はまったくしない。仕方ない、ぶん殴るか!


「随分盛り上がってるじゃねぇか――俺も混ぜてくれよ」


皆が一斉に上を見上げる。屋根の上に、一人の男が立っていた。


「なんだ、あいつ?」


男は屋根から音もなく降り立つ。


「まさか、俺の顔を知らねぇのか」


しばらく呆然としていた盗賊たちは、やがてガタガタと震え出し、一斉に土下座した。


「「すんませんでした!! ヴォルグさん!!」」


ヴォルグと呼ばれた男は、紫の髪を乱暴に掻きながら、ぶっきらぼうに言う。


「今回は見逃してやるから、とっとと帰れ――ほら、シッシッ」


盗賊たちは全速力で走り去っていった。なんなの、この状況……。そして、ヴォルグは私たちへと振り向く。


「怪我は……無さそうだな。この辺は治安が悪いから、あんまり近づかないほうがいい。特に女子どもだけなんて、もってのほかだな」


片目を髪で隠したヴォルグという男からは、どこかやばい雰囲気が漂う。


「助けてくれてありがとう……じゃあ急いでるから、もう行くわね」


早々に立ち去ろうとした、その時。


「なあ、もしかしてガキを探してるんじゃねえのか?」


「!?」


足がぴたりと止まる。


「はは、図星みたいだな」


「なんで知ってるのよ?」


もしかして、ずっと付けられてた?


「たまたま、お前らの会話が聞こえただけだ――お前らが探してるガキなら、知ってるぜ」


怪しい……教える代わりに金目のものをよこせ、とか言い出しそうな顔だし、迂闊には信じられない。


「そもそも、なんで知ってるの? 知り合いなの?」


「まあ、知り合いと言えば知り合いだな。確か二日前に知り合ったんだったかな」


「そう。じゃあ、教えてくれるの?」


「別にいいぜ――あいつと出会った時の話からしてやるよ」


ヴォルグは壁にもたれ、当時のことを一から話し始めた。

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