肝試し!
[前回のあらすじ]
零弥が幹部をあっけなく倒しちゃったよ。恐ろしい… そして俺たちは救援班のおかげで何とか無事(?)に寮へと帰還したのだった!
「ただいまー!!!」
俺達第52番部隊は、自分たちの寮に帰ってきていた。
数時間前の激しい戦いを終え、かなり疲れ切っているので、今すぐにでも寝てしまいそうだ。
「今の時間は…」
寮の奥の柱に設置されている時計をチラッと見る。
…午前2時を上回っている。
というかもうすぐ丑三つ時ではないか。
いや、俺は幽霊とかそういう類は信じないんだけど、一応、危険な霊がいるかもしれないから、もうすぐに寝よう。
俺は早歩きで自分の部屋へと向かおうとした、その時。
ガシッ、と右肩あたりがつかまれた。
「なんだい? 俺は疲れたのでもう寝ますけども。」
ぎこちない動きで振り返る。
そこには、翔汰が立っていた。
「せっかくこんな時間なんだ。おまえも疲れているから休息が必要だろう? 肝試しをしようぜ。」
何を言っているんだこいつは。
疲れているから休息に肝試しって、今日俺ら死にかけたんだぞ? 本当に何を言っているんだこいつは?
「ははは。何を言っているんだい翔汰くん。僕は眠いから寝るんだ。じゃ、お休み。」
そそくさとその場から逃げるように脱出しようとした俺を今度は両手でしっかりと捕まえた翔汰は、こういった。
「肝試し終わるまで寝させないからな。」
なんという鬼畜。
俺じゃなかったらブチギレてたね。
「肝試しか、久しぶりだ。」
「確かにー。久しぶりに私もやりたいかも!」
「僕は嫌ですが… まぁいいでしょう。付き合ってあげますよ。」
「飯を食うのが先だろ。」
ほかのやつらもすごい乗り気だよ。
なんてやつらだ。
疲れていないのか?
てか一人ダイニングテーブルの上で冷めきった飯を頬張っている奴がいるんですが。
大丈夫なんだろうか?
そんな不安を抱えつつ、強制的に肝試しが始まったのだった。
翔汰が庭でなにかした後、寮のリビングに戻ってきて、肝試しのルールを説明し始めた。
「この寮の外には庭が広がっていてな、そこに森がある。」
…ここ地上6階なのに寮には庭があるのか。
この団体の金はどこから入っているんだろうか?
そんな疑問を抱えつつ、翔汰のルールの続きを聞く。
「そこの中心にはちょっと不気味な地蔵がある。それの上に置いてある石をもってここまで帰ってこれたら肝試しクリアだ。」
それを設置するためにさっき庭に出ていったのか。
「誰から行く?」
挙手性のようだ。
こちらに翔汰が問いかけた。
「僕が行きます。」
琉生がそう言って庭に出ていった。
何たる度胸。俺も見習いたい。
……これからの待つ時間が長いんだよな。
「待ち時間が長いから雑談して待ってようぜ。」
俺はそう提案した。
「勿論そのつもりだ。」
瑠実にそう言われた。
なら話題を提示してくれよ!
それから、雑談をしつつ帰ってきた琉生を賞賛した。
そのあとも音色、琥太郎、翔汰、瑠実の順番で石を取りに行った。
そして、俺の番が来てしまった。
「戻ったぞ。あとは青空だけだな。」
瑠実が言う。
「いや、まぁ俺疲れているし、早めに寝て体力を回復しといた方がやっぱりいいよね。またいつ幹部が襲ってくるかもわからないのに。しっかりと健康に過ごした方が…」
「おら、行ってこい!」
言い訳を並べている俺を翔汰がつかんで庭へと放り投げた。
「早く行ってこないと、寝る時間が無くなるぞ?」
ひ、卑怯だ!
現在、丁度丑三つ時だ。
なんて不運。
どうせこうなるなら、もう少し早めに行っておけばよかった。失敗したな。
俺は頭を抱えながら庭の片隅にあるそれなりに広い森に向かった。
この階層の寮の庭はすべてつながっているようで、別の部隊の寮もいくつか確認できる。
そんなことを考えているうちに、森についてしまった。
「な、なにも出ないよな?」
恐る恐る森の中への一歩を踏み出す。
カサカサカサッ
「ひぇあっ!!!」
い、今、何かがうごめく音がしなかったか…?
「う、うう、どうしてこんなことに…」
嘆きながら俺は少しずつ進んでいく。
すると、目の前に膝くらいまでの大きさの地蔵があった。
その上には石が一つ置かれている。
「これだ!」
俺は走ってその地蔵へと向かった。
その時、
ガゴッ
と音がしたと思ったら、俺は深い穴に落ちていた。
どういうことだ!?
これも肝試しの一部なのか!?
…俺は一度冷静になってこの状況をよく考える。
大体20mくらいだろうか?
それぐらいの深さの穴に落ちてしまったみたいだ。
これも肝試しの一部なら救済措置があると思うんだが…
何もないということは違うのか。
もとからあったものなのか?
クソッ、誰がこんないたずらしてんだよ!
「誰か!!! 助けてー!!!」
俺は大声で叫んだ。
しかし、この森から寮まではそれなりに距離があり、声が届くはずもなく———
「俺、助けがなかったら、このまま…」
そう考えて涙が出てきた。
こんなところで死にたくない!
俺はもう一度叫ぼうとした。その時、
「ここら辺から聞こえたんだけどな…」
見知らぬ声が聞こえた。
いや、少しだけ聞いたことがある。
確かこの声は…
「あ、君、こんな時間にこんなところでなにしてるの? ダメじゃん。説教だよ。説教。」
救援班の班長さんだ!
「こんな時間に出歩いてすいません。とりあえずここから出してください!!!」
俺は泣きながらそう言った。
その様子に班長さんはすこし驚いていたが、すぐに縄をもってきて俺を穴から出してくれた。
「君、今日死にかけたでしょ? ダメじゃん。早く寝なきゃ。なんでこんなところにいるの?」
班長さんはすぐに俺の事を説教してきた。
「すいません。その、翔汰に、肝試しをしようと言われたので…」
すこしずつ小声になりながら俺はそう答えた。
仲間を売るようなもんだが、元からこれは俺がやりたくてやっているわけじゃないし、こうなっているのも全部いいだしっぺの翔汰が悪いのだ。
「翔汰? 翔汰がそんなことを言ったの? …こりゃ、後でこってりと説教しないとね…」
班長さんが拳をぽきぽき鳴らしながらそう言った。
この人は説教が好きなのかな?
「君は戻っていいよ。君の罪は軽くする代わりに翔汰の罪重くするからね。」
班長さんがそう言ってきた。
俺にとってはありがたいことなのだが…
「翔汰に厳しくするのってなんでですか? 元からいる人は厳しくするんですか?」
ちょっと疑問に思ったことを聞いた。
俺が今日———正確には昨日———入団したばっかだからと言うのはわかるけど、だとしても待遇が違いすぎないか? 俺だって立派な団員なのに。なんだか認められていない気分だ。
「ああ、翔汰は私の息子だよ。」
「え?」
俺は驚きで固まってしまった。
今ならハンマーで殴られても壊れないくらいの自信がある。
「君は翔汰と同じ部隊だもんね。これからも翔汰は暴れると思うけど、よろしく頼むよ。」
班長さんはそう言って俺たちの寮の方へと行ってしまった。
俺はそのあとも少しの時間固まって、そのまま寮へと戻った。
寮へと戻ると、翔汰が正座させられていて、すごい説教されていた。
俺は翔汰と目が合わないようにしながらリビングのみんながいるところに座った。
「なあ、落とし穴があったけど、あれってみんなどうした? 俺出られなくて助け求めたけど。」
皆にも落とし穴の事を聞いてみる。
地蔵の目の前にあったから、皆も引っかかっているんじゃないかと思ったからだ。
「そんなものありませんでしたよ? どこらへんにあったのですか?」
「地蔵の真ん前。」
「おかしいね。私地蔵の正面から石を取ったけれど、落とし穴とかなーんにも無かったよ?」
おかしい。
「俺が行った時もなかったな。」
「私が行った時もだ。」
おかしいおかしい。
なぜみんな落とし穴のに引っかかっていないんだ?
瑠実が帰ってきてから誰かほかの寮のやつらが穴を掘って俺をはめたのか?
いや、他の寮のやつらに面識があるやつはいない。
…謎は深まるばかりだな。
俺は考え疲れたので、みんなにお休みと告げ、ベッドにもぐりこんだ。
…明日からも寮生活は続く。
寮での訓練も、皆との暮らしも。
皆と仲良く過ごせる日が、どうかずっと続きますように!
七回目の投稿です。
一応前回で一章は終わりなのですが、一章もあるいみ物語の導入、プロローグみたいなものなので、これからの章はさらにボリュームが増えていく、予定、です。
これからも不定期に投稿できたらなと思っていますので、今後もよろしくお願いします!