プロローグ
人間は、誰もがその権利を持っている。
誰もが、恐怖に抵抗することができる。
そう、誰もが、皆が、抗い続けているのだ———
♢ ♢ ♢
「おい、青空。また失敗か。」
とある昼下がり、地方の会社の一室では、会社員の男性が怒られていた。
「すみません…」
会社員の男性———というのは俺、時雨青空の事だ。
「お前はいつもそうだ。資料を何度も確認しろって毎回言っているだろ? いつになったら懲りるんだよ。」
「すみません…」
今俺のことを怒っているのは会社の上司。今回も俺が悪かったから何とも言えないけれど…
「はぁ… 本当にもう、次こそは解雇だからな?」
クビ… という言葉に肩をビクつかせながら、震えた声で返答をする。
「わ、わかりました…」
上司はまたちょっとだけ説教をすると、仕事をしろと言って俺を部屋から追い出した。
「まぁた失敗しちゃったの?」
部屋から出るなり声をかけてきたのは、年上の先輩だ。
「失敗失敗って… うるさいです。やめてください。」
「ごめん。」
この先輩は意外と素直なんだよな。と先輩を再評価した後、作業へと移った。
「怒られている間に君の分の仕事ちょっとやっといたぜ。」
爽やかな顔で先輩が言ってきた。
そういうのはやってくれて嬉しいけど… ってかそういうのって上司に断らなくてもやっていいものなのか? 爽やかな顔うざいな… などなどちょっと思うことはあるけれど、全てをぐっと飲みこんで「ありがとうございます。」とだけ伝えておいた。
カチャ、カチャ、カチャ、タン。
パソコンをたたく音が近くの座席に響いた。
響いた———とまではいかないかもしれないが、先輩には聞こえたようだ。
「お前… 今日も残業コースだな!」
笑顔で言ってきた。
コイツ… 後で覚えてろよ…
数時間が経過した。
ちょっと喉が渇いたので、自販機で飲み物を購入して今自分のデスクに戻るところだ。
飲みながら座席に戻っているので、絶対に転べない。
そう考えながら、俺は足元の椅子に引っかかって盛大に顔からぶっ倒れた。
「おいおいまた失敗かよ。」
俺が立ちあがるのを手伝ってくれた先輩がそう言った。
「ひどいですよ。失敗失敗失敗失敗って。僕がそんなに失敗人間だと思っているんですか!?」
まずい。ちょっとカッとなってしまった…
「あぁ…ごめん。ちょっと言いすぎたよ。」
やっぱこの先輩のいいところは素直なところだよな。うん。
ちょっと気まずい雰囲気になってしまったな…
パリンッ
その時、背後からガラスの割れる音がした。
振り返ると、そこにはピエロの面を被った”なにか”がいた。
ここ八階だぞ!? と驚いている間もなく、ピエロの近くにいた別の社員が、切り刻まれた。
その光景を目の当たりにして、俺は唖然とする。
目の前の社員たちが次々と殺られていく。
逃げないといけない。本能がそう叫んでいるのに。
俺は、一歩も動けずにいた。
とうとう目の前まで来てしまった。
俺の人生はここまでだったんだな。と実感する。
抵抗なんてしても意味ないだろう。だって窓ガラスを割って入ってきてしまうバケモノに、こんな貧弱な俺が勝てるわけがない。
ピエロが手に持っている凶器で俺に襲い掛かってきた。
…
…おかしい
俺は生きている。
なぜ? 俺は殺られたはず…
脳の処理が追いついたころ、この状況を完全に理解する。
俺が死ななかったのはなぜ?
それは、先輩が俺を突き倒し、身代わりになってくれたから。
信じがたい光景だった。
信じられなかった。
せっかく先輩が自らの命を捨ててまでしても俺を守ってくれたのに。
俺は、足がすくんでしまって動けないだって?
ああ。なんてことだろう。
俺はまた”失敗”してしまったんだな…
”失敗”?
突如、過去の記憶がフラッシュバックする。
『おい、青空。また失敗か。』
『おいおいまた失敗かよ。』
『失敗』
”失敗”
その言葉が脳内を駆けずり回る。
失敗。
失敗か。
俺はまた失敗したのか。
失敗…
「あああ…」
もう死ぬのか。
俺の失敗で。
その時、心の奥底で何かを感じた。
なんだか、力が湧いて———
「ウゴベッ」
気づいたら俺は、ピエロを、殴り倒していた。
「…それで、正当防衛だったと。」
「はい。」
あれから数分が経過して、騒ぎを聞きつけた別の場所にいた会社員が通報したらしい。
今俺は警察官らしき人物達に事情聴取を行われている。
「あ、あの! 俺を庇ってくれた先輩は!」
「ああ、彼かい。通報が早かったから、彼らをすぐに搬送できてね。命に別状はないってさ。」
「!」
俺は胸をなでおろした。
その時、もう一人の警察官らしき人物がポツリと言った。
「この犯罪者、多分抵抗者だぞ。」
レジスタンス? なんだそれ。抵抗…?
「抵抗者を倒したってことは、この人も… すぐに団長に連絡だ。」
団長?
ってかいま「この人も」って言った?
警察官らしき人が団長とやらに連絡を行って、俺に話しかけてきた。
「団長がすぐ来てくれるらしい。ちょっと待って———」
「来たよー」
警察官らしき人が言い切る前に、割れた窓の部分から女性が入ってきた。
「団長! 速いですね。」
警察官らしき人達が団長とやらと話している。
「彼かい?」
団長とやらがこちらを見ながら言ってきた。
「そうですよ。ちょっと話してあげてください。」
警察官らしき人が言い切る前に既に俺の目の前に団長とやらが立った。
団長と呼ばれる彼女は、エメラルドグリーンの髪色をして、青く澄んだ瞳には、小さい光のようなものが所々に輝いている。そして、薄い黄色の団服みたいなのに、緑色の羽織を着こなしている。
「やあ。私は抵抗団の団長をやっている、守丘零弥。よろしくな。」
「よ、よろしくお願いします…」
別にこれから仲良くする訳じゃないのに、凄い丁寧だな…
「私は君に会いたくて来たんだよ。」
彼女からそんな言葉が出た。
どういう意味だ?
初対面だよな?
疑問が口から漏れていたみたいで、零弥がそれに答えてくれる。
「君、うちの団に入団しないかい?」
え?
今なんて…
「入団、して欲しいな〜」
零弥はズイズイと顔を寄せながら言って来た。
顔近いな…
でも、いきなり知らない団とかに入団、とか言われましても…
迷いが顔に出ていたのか、零弥が少し団について話してくれた。
「さっき君を襲ったのは『反社会抵抗軍』の一員だよ。」
それから、零弥は詳しく説明してくれた。
抵抗者ってのが、通常の人間には持っていない特別な力を持った人間のことらしい。
そして、この社会に不満を持ってる抵抗者が集まって、社会を一新させようと取り組んでいる軍団こそが、反社会抵抗軍と言うらしい。
この抵抗団はそいつらの取り組みを止めるのが仕事らしい。
抵抗団も抵抗者の集まりで結成されているらしい。
なんでも、抵抗者は抵抗者でないと倒すことができないらしい。
「そして君は抵抗者を倒したから、君も抵抗者ってことになるね。ってことで、入団してね!」
圧、圧が凄いよ。
「で、でも、僕仕事があるんで…」
「ん? 社長さんには許可貰ってるよ?」
コイツ… 仕事が早いぞ。
社長に許可貰いに行っても俺のことそんなにしらないでしょ…
「ね。入ってよ。」
圧、圧が凄いよ。
行動に移されちゃってるし…
もう入るしかないのか?
「で、でも、また俺、失敗しちゃうかもしれないんですよ…」
「君は… そうか。うん。」
なんだか零弥が納得している。
どこに納得する要素があったのだ。
「君は失敗が怖いのかな。」
少し間をおいてから零弥が話を始めた。
「え。いや、誰だって怖いじゃないですか。」
「うーんとね… 失敗を怖がることは悪いことじゃない。でも、怖くても、私たち人間は抵抗することができるだろう? 恐怖に、抗うことが、私たちにはできるじゃないか。」
その言葉は、今の俺の心に響いた。
そうだな。俺らは恐怖に抗うことができるのか。
確かに、逃げてばっかじゃ意味がないしな。
失敗は怖いけれど、少しくらい抗ってみようじゃないか。
「わかったよ。」
「入団します。その抵抗団に!」
零弥は少し安心したような笑顔を見せてから俺に言った。
「ありがとう。それじゃあ、明日から本格的に入団だよ。団での寮生活となるから、今日中に荷物をまとめておいてね。」
人間は、誰もがその権利を持っている。
誰もが、恐怖に抵抗することができる。
これは、俺、時雨青空が、新たな人生を歩んでいく物語だ!
今回は「れじすたんす!」という作品を手がけました。KT9RIです。
初投稿で、ところどころミスなどあるかもしれませんが、暖かな目で見守っていてください。
これからも不定期に投稿を続けていきます!
どうぞお時間がございましたら、そちらも読んでくれると嬉しいです!
ではまた!